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10.努力とティーセット

魔法とは、個人が持つ個性である。

この世界にいる人間はみんな、

幼少期の時にこう教わる。

魔法とは個性であり、

人それぞれ違う物であると。

例えば、発火や火炎といった

魔力を火に変えることができる魔法。

例えば、水泡や流水といった

魔力を水に変えることができる魔法。

その種類や用途は様々であり、まさに十人十色。

自分が持つ魔法の才能によって、

将来の夢や職業を決める者もいる。

しかし、それはあくまでも

魔力という最低限の才能を

持っている者たちだけの話だ。

魔力のない私のような人間は

夢を持つことすら烏滸がましい。


「今日も魔道具に反応なし……。」


水を出す魔道具や

インクを出すペン型の魔道具など、

様々な魔道具が置いてある部屋で

私は今日も項垂れていた。

幼い頃からずっとこうして

たくさんの魔道具を触り続けているが、

私の魔力がそれらを動かすことはない。

街に出かけたことは結果として

私の心の傷を大きく広げてしまった。

私はただ、自分の従者のことを

少しでも知ろうとしただけなのに、

まさかこんなことになるなんて。


「はぁ……。」


大きなため息を吐いた。

自分で言うのも傲慢な話だが、

私は誰よりも努力していると思う。

貴族の次女として産まれ、

私の他には姉と妹しかいない本家では

私は家を継ぐ二番目の候補に位置する。

何も問題がなければ姉が

家を継ぐことになるだろうが、

それでも私は貴族の娘として

礼儀作法などを叩き込まれてきた。

魔法の練習だってずっとやってきた。

親戚や他の貴族への顔見せを目前にして

この屋敷に隔離されてしまったが、

魔法の練習だけは続けている。

…それなのに、私は未だに

魔道具一つさえ使うことができていない。


「お嬢様、お茶をお持ちしましたよ。

少し休まれてはいかがですか。」


どうしようもない現実を前に

不貞腐れていると、

シャルルがお茶を持ってきてくれた。

私に元気がない時はいつだって、

笑顔の彼女がそばにいてくれる。

時にはその笑顔でさえ

嫌いになってしまいそうになるが、

今日の気分はそこまで落ちていないらしい。


「そうね…。少し疲れたわ……。」


テーブルに乗せられたお盆には

いつもと違うティーセット。

普段使っている物ではない。

私の気分を少しでも変えるために

気を遣ってくれたのだろうか。

シャルルが淹れてくれたお茶を

ありがたく飲もうとカップを手に取ると、

持ち上げた途端に取っ手が砕けて

カップがお茶と共にテーブルに散った。


「お、お嬢様!大丈夫ですか!?」


「え、えぇ、私は大丈夫だけど……。」


今日の服は全体的に厚手で、

熱い飲み物が溢れたところで

肌を火傷するようなことはない。

しかし、この服は去年の私の誕生日に

本家から贈られてきた物だ。

母からなのか姉からなのか

贈り主が誰なのかまでは分からないが、

それなりに気に入っていた。

おまけにこのティーセットは

シャルルが私に気を遣って

用意してくれた物だ。

それを壊してしまうだなんて、

彼女にも申し訳が立たない。


「きゃー!お嬢様のお洋服が!

ど、どどど、どうしましょう!?

サー!早く来てくださいー!サー!」


私がこの服を大事にしていることは

この屋敷にいる人間なら誰でも

当然のことのように理解している。

特に毎朝私の着替えを

覗こうとしてくる彼女ならなおさらだ。

そして、こうした時に自分で対処するのではなく

サーを呼べばいいということも、

シャルルはきちんと分かっている。


「失礼致します。」


サーが駆けつけるのに時間は必要ない。

すぐに部屋の扉が開かれた。

そして、私の濡れた服と

テーブルに広がり床に滴り落ちている

お茶を見て状況をすぐに把握する。


「お嬢様、おケガはありませんか?」


「うん、大丈夫よ。」


「おケガがないようで幸いでございます。

シャルル、お嬢様を脱衣場へお連れして

お嬢様のお着替えを手伝いなさい。

代わりの服はすでに用意してあります。

お嬢様もよろしいでしょうか。」


「えぇ、構わないわ。」


やはり、さすがとしか言い様がない。

もう代わりの服を用意しているとは、

もはや対応が早すぎるとか

そういう次元の話を通り越している。


「お嬢様!すぐに参りましょう!」


シャルルに連れられて脱衣場へ行き、

濡れてしまった服を脱ぐ。

朝の着替えを覗く時は

鼻息を荒くしているシャルルも

こういう時には自重しているようで、

迅速に私の着替えを終わらせる。

肌着までは濡れていなかったので、

洋服を変えるだけで済みそうだ。

サーが用意してくれていた服も

私が普段から好んでいる物で、

しかも寒くないように暖められている。

彼の優秀さが文字通り肌に沁みるようだ。


「あら、ロアンも来ていたの?」


服を着替えて部屋へ戻ると、

サーとロアンがなにやら思案顔をしている。

割れたカップや溢れたお茶の

後処理はすでに終わっているようだが、

何を話していたのだろうか。


「これはこれはお嬢様。

いえいえ、シャルル君の不始末は

私の不始末でもありますので、

お説教の用意をしていた所でございます。」


「シャルルの不始末…?」


確かに割れたカップは

シャルルが用意してくれた物だが、

割ってしまったのは私だ。

それに、カップが割れるかどうかなんて

ヒビが入っているとか

古くなってしまっているとか、

そういった理由でもない限りは

事前に誰にも分からないはずだ。

それがシャルルの不始末とは、

一体どういうことだろうか。


「シャルル君、このティーセットは

どこから持ち出した物ですか?」


「えっと…キッチンの棚の

奥の方に入れてあった物です。」


「箱に入れてあったのでは?」


「はい、箱に入れてありました。」


「箱に文字は書いてありましたか?」


「文字…?わ、分かりません!」


「では、こちらをご覧なさい。

ティーセットはこの箱に入れてありました。」


「はい、『不良品につき』と書いてあります。

……………………ふ、不良品!?」


「この箱とティーセットのことは

サー君も知っていましたし、

君にもきちんと伝えていましたね。」


私は頭を抱えてしまった。

確かにこれはシャルルの不始末だ。

不良品だという文字を書いて箱に入れ、

しかもそれは棚の奥の方にしまっていた。

うっかり使わないようにするためだろう。

ロアンもサーも把握していて、

シャルルにも共有していたはずだ。

しかし、シャルルはそれを使ってしまった。

主である私が使う物として、である。

みるみるうちに彼女の顔が青くなる。


「も、申し訳ありませんでした!」


シャルルはすぐに両手をついて

額を床に擦りつけた。

それに合わせてロアンもサーも頭を下げる。


「お嬢様、この度は我々の不手際で

お身体を危険に晒したばかりか、

本家様より頂いた大切なお洋服を

汚してしまう結果になったこと、

大変申し訳ありません。

執事及びメイド一同、心より謝罪申し上げます。」


従者である彼らの主として、

私には彼らに処罰を下す権利がある。

サーは無関係なのでお咎め無しだが、

お目付け役であり彼らの指導者であるロアンと

当事者であるシャルルには

相応を罰を与えるべきだろう。

何もケガがなかったとは言え、

服は私が大切にしていた物だ。

もしもあの服にシミが残るようなことになれば、

甘い処罰を下す訳にはいかない。

私は喉を一つ整えてから、

威厳のありそうな声で言った。


「…この件に関しての処罰を下すわ。

まず、サーはお咎め無しよ。

上の立場っていう訳でもないし、

すぐに駆けつけて対処してくれたから。」


「寛大なお心に感謝致します。」


「次にロアン。あなたには掃除を命じるわ。

さっきのティーセットみたいな

不良品や使えない物を

徹底的に探し出して適切に処理しなさい。」


「はっ、承知致しました。」


「最後にシャルル。あなたにはあの服の

洗濯と手入れを命じるわ。

シミや汚れが残らなければそれでいいけど、

もしも少しでも変化があるようなら、

あなたには次の春が来るまでの間、

毎日外の雪かきをしてもらうから。」


「ま、毎日ですか!?」


「なによ、文句があるの?」


「いえいえ!お嬢様のお言葉に文句など

あるはずがありません!」


「じゃあそれで決まりね。」


「はい……。」


珍しく演技ではなさそうな涙を流して、

シャルルは反省の色を見せるのであった。

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