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おにぎりの白熊堂  作者: 黒本聖南
現在の白熊さんとあざらし君
5/13

映画館に行く

 火曜日は『おにぎりの白熊堂』の定休日。白熊とあざらしは珍しく遠出することにした。

 あざらしに観たい映画があるのと、一時間くらい電車を乗り継いだ場所に新しい映画館ができたとのことで、デートも兼ねて行くことになったのだ。


「あざらし君がサスペンスに興味持つのって、なんか珍しいね」

「そうですか? やたら宣伝していたから気になって。……サスペンスは気が進みませんか?」

「あざらし君と観られるから、けっこう楽しみ」


 昼の陽光が入り込む窓を背に、電車の座席に並んで座り、仲良く手を繋ぐ白熊とあざらし。車内の暖房はまだ入っていない季節だが、互いがいるだけで温かかった。


「二人だけでお出掛けっていうのもいいですね」


 あざらしがそう口にすると、絡めている指に力が込められる。嬉しかったので、あざらしも指に力を込めた。


◆◆◆


 映画館に着くと真っ直ぐに発券機へと向かい、二席分購入。


「昔だったら、チケットカウンターで受付の人に観たい映画を伝えてチケットもらうんだよね。それが今じゃタッチパネル。便利になったよね」

「知らない人と話すのは緊張するので、こっちの方がいいです」

「そっか。じゃあ、ドリンクやポップコーンは俺が買ってくるから、先に席で待ってる?」

「あ、いえいえそんな、悪いですよ。それに、白熊さんのお店で働いているので、人と話すのも慣れましたから、気にしないでください」


 両の手をばたばたと振りながら遠慮するあざらし。そんな彼を愛おしそうに見つめ、白熊はあざらしの頭を撫でた。


「恋人の為に何か買いたいだけなんだよね。じゃあ、パンフレット買ってきてくれる? 帰ってから一緒に見ようよ」

「いいですね、分かりました!」


 あざらしも笑みを浮かべ、二人はそれぞれの売店に分かれて向かう。

 パンフレット売り場は人が並んでいない。そのままパンフレットを買おうとしたが、その前にグッズが目に入るあざらし。

 これから観る映画の関連グッズ。主人公が巻いているマフラー風の携帯ストラップだった。

 白と黒のボーダーカラー。何となく二個手に取って、あざらしはレジに足を向けた。


◆◆◆


 飲食の売店コーナーは並んでいたこともあり、白熊はあざらしより遅くやってきた。

 二人分のオレンジジュースとLサイズの山盛りポップコーン。それらを座席のドリンクホルダーに差せるトレイに乗せており、白熊はそれを二人の席の間にあるホルダーに差した。


「好きに食べて」

「ありがとうございます」


 一粒二粒頬張りながら、何となくあざらしは周囲を見渡す。公開して間もないからか席は埋まっており、友人同士や一人客が多いが、カップルの姿もそれなりにあった。

 まだ照明の明るい内から恋人繋ぎをしているのを目にすると、あざらしもなんだかうずうずしてくるもので。

 ちらりと、白熊を見れば、分かってるよもちろんとばかりに、手を差し出してきた。


「よく分かりましたね」

「大好きだもん、分かるよ」


 トレイにあったおしぼりで手早く手を拭くと、真ん中のトレイを気にしながら、あざらしは白熊と恋人繋ぎをした。

 手を繋げた幸福感と、映画の上映までの高揚感に、あざらしの身体はあったまっていく。


「映画、楽しみだね」

「はい。……あ、白熊さん。この後渡したい物があるんですよ」

「あざらし君からのプレゼント? 楽しみ」


 微笑み合っている内に、照明が暗くなってきた。

 映画が始まる。

 名残惜しさを感じながら、あざらしはスクリーンに意識を向けることにした。


◆◆◆


「すごい爆発してましたね!」


 駅までの帰り道、手を繋いで歩きながら、あざらしは楽しそうに感想を口にしていた。


「車が何台も吹っ飛ぶ様は圧巻だね」

「実際にそうなったら怖いですけど、フィクションだとテンション上がります」

「車の上を走ったり跳んだり、主人公すごいよね。あれどうやって撮ったんだろう」

「パンフレットに撮影秘話あるといいですね」

「役者さんのインタビューも楽しみだね」


 共に満足のいく映画だったらしい。

 あれが良かった、前のめりになってたよ、あそこすごかった、目がキラキラしてたね、なんて話し合っている内に、駅が見えてくる。


「どこか寄ってから帰る?」


 もしかしたら、物足りないように見えたのかもしれない。白熊からの提案に、あざらしは首を横に振った。


「真っ直ぐ帰りましょう。ちょっと、その……」


 恥ずかしそうにもじもじするあざらしに、可愛らしいものを見るような目を向けてくる白熊。余計に恥ずかしくなってくるが、あざらしはええいままよと言いたいことを言った。


「……二人に、なりたいです」

「俺も」


 人の目があるからと、気にしてくれたのか。

 素早く顔を寄せ、軽く唇と唇を触れさせると、あっという間に離れていった。


「……っ」


 あざらしの顔は真っ赤だ。


「帰ろ?」

「……は、い」


 手を強く繋ぎ合い、二人は家路を急ぐ。

 ストラップ、今日渡す暇があるかなとあざらしは一瞬思ったが、明日でもいいかと思い直した。


◆◆◆


 翌朝、先に目が覚めたあざらしは、眠る白熊の傍に映画館で購入したストラップを置いといた。自分のストラップは既にスマホに取り付けている。


「喜んでくれるといいな……」


 もちろん、起きた後、プレゼントに気付いた白熊は喜び、そのままの勢いであざらしを押し倒すのだが、まだそんな未来だとは知らないあざらしは、のんびりと白熊の寝顔を眺めるのだった。

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