表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おにぎりの白熊堂  作者: 黒本聖南
現在の白熊さんとあざらし君
10/13

人鳥君初来店

 いつもこの時間は、実家の洋食屋で仕込みをしている斑鳩だが、珍しく店主である父から休みをもらい、今日は客として、『おにぎりの白熊堂』に来ていた。


「働いてるお前を眺めるのもたまにはいいな」

「うちは私語厳禁だよ、ベルーガ」

「ちょっとくれぇならいいだろうが」

「だめだめ、お口チャック」


 ぐいっと口をジッパーで閉めるような素振りを白熊がすれば、んだよ、と笑いながら軽口のように言って、斑鳩は頼んでいたおにぎりに手を伸ばす。

 塩握り三個に鮭の混ぜ込みおにぎりを五個頼んだ斑鳩。その日本刀の鋭さを体現した細い身体のどこに、大量のおにぎりを受け入れるスペースがあるのか。

 まずは塩握りに手を伸ばした斑鳩。口の中へと運ぶと、鋭い三白眼は途端に柔らかくなる。


「ばあさん譲りの味だな」

「変わらぬ味と、あざらし君への愛を込めていますから」

「……うーん。うん。そうか」


 何も言うまい。顔にはそう書かれていた。

 味わうように残りの塩握りを食べると、次は鮭の混ぜ込みおにぎりを食べ進めていく。


「鮭の塩気が良い塩梅だな」

「でしょう? あざらし君も喜んで食べてたよ」

「おお、そうか。つうか、あざらしはどうした?」


 店内を見回しながら斑鳩が訊ねる。珍しいことに、あざらしの姿がどこにもない。

 皿を洗いながら、白熊が彼の行方を教えた。


「買い出しに行ってるよ。ほうじ茶のお茶パックが切れちゃってさ。帰ってきたらそのまま休んでもらうつもり」

「そうか」


 そろそろ斑鳩のおにぎりもなくなる。追加でもういくつか頼むか、なんて考えながら、ほうじ茶に手を掛けた時だ。──カランコロン、と軽やかな音が店内に響く。

 ちらりと斑鳩が音のした方へと視線を向ければ、出入り口に突っ立っている少年がそこにいた。

 高校生だろうか、アシンメトリーの髪は明るい茶色。ジャケットは羽織らず、珈琲色のカーディガンに袖を通している。


「いらっしゃいませ」


 柔らかな声で白熊が話し掛ければ、少年はどこか安心したような顔をして、白熊の正面まで近付いてきた。


「──おにぎり屋さん、なんすか?」


 レジの横に置いてあるメニュー表を見ながら少年が訊ねれば、ええ、そうなんですよと白熊が丁寧に答える。どうやら、初めての客らしい。


「うわっ、おにぎりが俵型だ!」

「塩握りと日替わりの二種類用意しています。店内ご利用の場合はほうじ茶が無料で付きます」

「じゃあ、店内で。おにぎりは……塩握りを一個」


 お好きな席にどうぞと言われ、少年は店内を見回し──斑鳩と目が合う。

 スキンヘッド・三白眼・休みの日なので背中に龍の刺繍がされたジャージと、少し近寄りがたい雰囲気の斑鳩。怖がられることが多々あるので、斑鳩はそっと視線を逸らす。

 だが、少年は斑鳩の隣に座った。


「こんにちわ」

「……おう」

「お兄さん、ここの常連なんすか?」


 えらく親しげに距離を詰めてくる少年。少し困惑しながら、斑鳩はまあなと返した。

 注文を終えた後に、ほうじ茶と一緒に渡されるおしぼりで手を拭きながら、尚も少年は話し掛け続けた。


「この町、初めて来たんすよね。海の傍におにぎり屋って、なかなかないっすよね」

「……そうか? 子供の頃からこの店あっから、あんまりそういう風には」

「えぇっ! じゃあ、あの人いくつなんすか?」


 何か勘違いしているのか、白熊を見つめる少年。白熊は今、次の客の対応をしていた。


「俺と同じ二十五だよ」

「え、あ……じゃあ元々は違う人が」

「あいつのばあさんとじいさんがやってた」

「はー、そうですか……。昔ながらの味ってやつですか。楽しみです」


 ほうじ茶を呷ると、満足そうに吐息を溢していた。

 なんか、あんまり見ないタイプの奴だなと思いながら、斑鳩もほうじ茶を一口飲む。そろそろなくなりそうだ。


「一応言っとくがな、この店、読書とおにぎりを楽しむ所なんだわ」

「ブックカフェ的な感じっすか? あ、本読んでる人ばかり。黙った方がいいっすかね」


 ついさっきまで白熊相手に話し掛けていて、言い辛さもあるにはあるが、顔には一切出さずに、そうだなと斑鳩は返す。


「ちょうど本持ってるし、読みまーす」


 そう言ってリュックから取り出したのは、一冊の本。タイトルと共にでかでかと写る将棋の駒からして、将棋関係の本なんだろう。

 斑鳩はそんなに本を読まない。ただおにぎりを楽しむのみ。追加分の注文をしようと、席を立った。


◆◆◆


 追加分も食べ終え、そろそろ帰るかって頃に、あざらしが買い出しから帰ってくる。


「白熊さん、戻りました」

「ありがとう、あざらし君。ケガしなかった?」

「僕、そんなおっちょこちょいじゃないので大丈夫ですよ」

「おっちょこちょいとか言うの、あんまり聞かないね」

「そういえばそうですね」

「あざらし君は可愛いなあ」

「何でそうなるんですか……」


 いつものことだな、と思っていたら、そんな二人を凝視する少年の姿が目に入る。何か気になるんだろうか。


「……白熊と、あざらし」

「そういう名前なんだよ」


 あざらしの方はあだ名だが、確か名字がそう読めるんだよな、と斑鳩はぼんやり考えながら、少年の様子を窺う。


「……ぼく、人鳥ひととりって言います。人間の人に鳥で人鳥」

「……ぺんぎんって確か」

「人鳥って書きます。だからぼくはぺんぎん君っすね」

「そうかよ」


 おしぼりで手を拭きながら、斑鳩は適当に返事をした。


「あざらし、あざらし君ですか」


 少年ことぺんぎん的にも、斑鳩のことは気にならなかったんだろう。独り言のように呟いていた。


「──ぼくの好きな人も、あざらしなんですよね」

「……あ?」


 斑鳩はぺんぎんに視線を向けるが、彼はずっと二人を──あざらしを見続けている。


「何か関係、あるのかな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ