Lap 6「勝利の味」
予選トップタイムを出した悟のAE86トレノは、堂々とポールポジションに並ぶ。だが当の本人は、ヘルメットの下で冷や汗をかいていた。
(なんか……急に現実味がすごい)
スタート直前、ピットウォールから手を振る早矢の姿が目に入る。そして後ろでは、古川がニヤニヤしながら腕を組んでいた。
「いよいよだな。まぁ、無事に帰ってくりゃ上出来だろ」
──レッドシグナルが順に点灯し、全消灯と同時にスタート!
やや遅れ気味にクラッチを繋いだ悟のトレノ。2台、3台が一気に横へ並びかけるが、悟はビビらない。
(筑波は1コーナー勝負だろ)
イン側に寄せつつ、ブレーキングポイントをギリギリまで引っ張る。ピタリとフロントタイヤを白線に乗せ、アウト側から仕掛けてきたマシンを封じ込めた。
「……うわ、マジで抑えたぞ」
ピットの古川が思わず口にする。
「すごいライン取り…」
早矢の目が輝いていた。
3周目あたりから、悟はトップを守りつつ、後続との距離を微調整していた。
(グランツーリスモと違って、タイヤが熱ダレしてきてるな。そろそろフロントの入りが甘くなる)
少しだけ進入スピードを落とし、トラクションを丁寧に扱う。後ろの2番手マシンがじわじわ詰めてきたが、悟は慌てなかった。
──そして迎えた最終ラップ。
最終コーナー……悟は縁石ギリギリをかすめるようにして立ち上がる。
少しリアが滑った。でも……それも想定内。
まるで、グランツーリスモでライン取りを練習した時の“そのまま”だった。
バックストレートを駆け抜けたAE86が、真っ先にチェッカーを受ける。
奇跡のような──いや、蓄積されたゲームの技術が実を結んだ勝利だった。
ピット内、拍手と驚きが入り混じったような空気。
早矢が小さく叫ぶ。
「すごい……ほんとに、勝っちゃった」
悟が車を降りると、古川が開口一番こう言った。
「お前、マジで“グランツーリスモで覚えたライン”で勝っちまうとはな……」
「いや〜……正直、何度かスピンしかけたけどさ」
照れ笑いしながら、ヘルメットを脱ぐ悟。その髪は汗でぐっしょり濡れていた。
早矢が駆け寄り、タオルを差し出す。
「おめでとうございます、悟さん……! 最高でした!」
「いや、俺は何も……クルマが仕上がってたからだよ。古川と……早矢ちゃんのおかげだ」
でもその目は、間違いなく“ドライバーの目”をしていた。
筑波サーキットでの初勝利、そして悟の“走り屋人生”が、本格的に動き出すきっかけとなったレースだった──。




