Lap 26 「約束のグリッド」
「さあ、ついにこの時がやってきました!
世界三大レースの一つ──フランス・サルト・サーキットで行われる、伝統の一戦、ル・マン24時間耐久レース!今年は日本から、あのチームが歴史的な挑戦をします。
「GT3クラスに、ついに初参戦──
その名は《風馬レーシング》!
日本国内で数々の栄冠を勝ち取ってきたこのチームが、いま世界の檜舞台へと挑みます!」
「注目のエースドライバーは、GT300クラスの王者にして、今や耐久界のスター──
島谷早矢 選手!
そして今回は、なんと全員女性ドライバーという布陣での挑戦!
経験・技術・情熱、すべてを兼ね備えた4名が、この24時間を戦い抜きます!」
「チームを指揮するのは──
元GTドライバーにして、伝説の“鬼神のドライビング”を残した男、早矢選手の夫である島谷悟 監督!
2年前、あの壮絶な事故を乗り越え、いま再びレースの最前線へと帰ってきました!」
「チームオーナーは、古川風馬 氏。
国内の走り屋魂をそのままに、世界での一勝を夢見て送り出したプロジェクトです!」
「今、世界が見守る中──
この“物語”の続きが、ここル・マンで始まろうとしています!」
「さあ、風馬レーシング──その挑戦に、世界中が注目している!」
グリッド上。シグナル点灯の直前、チームスタッフたちが次々と離れていくなか、最後に残った悟がゆっくりと早矢のもとへ歩み寄る。
「──ついに来たな」
ヘルメットの向こうに声をかける。
「お前がずっと夢見てた、この舞台だ」
バイザーを上げた早矢が、ふっと笑った。
「……『私たち』の夢でしょ?
でも……ここまで連れてきてくれて、ありがとう」
照れくさそうに頭をかきながら、悟は少し目をそらす。
「ま、まあ……その、あれだ。
……無事に帰ってこいよ」
「──うん、わかった、ダーリン♡」
そう言って早矢は、いたずらっぽくウィンクを残すと、バイザーを下ろした。
その視線はまっすぐ前を見据え、ステアリングを握る両手には、もう一切の迷いもなかった。
コクピット内。コンソール脇には、あの日、ふたりで交換したミニカーが仲良く並んでいる。
一台は、悟が乗り続けてきたAE86。
もう一台は、早矢のGR86。
それは、あの日始まった小さな物語の記憶。
そして今も、ふたりが共に走っているという証だった。
風が静かに吹き抜ける。
エンジンが咆哮を上げる。
新しい物語が、いま、走り出す──。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
本作は「クルマ」や「レース」だけでなく、世代を超えた“絆”を描きたいという思いから生まれました。
人生の折り返しを迎えた悟と、これから未来を切り拓いていく早矢。
二人が同じハンドルを握る時間は、決して長くはないかもしれません。
それでも、その一瞬一瞬は確かに輝き、読む方の心にも何かを残せると信じています。




