表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86の約束  作者: 仙道 神明


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/26

Lap 20「クリスマスプレゼント」

12月25日・クリスマス


 冬晴れの空が広がる朝。ガレージ風馬の店内には、いつも通りの空気が流れていた。


 いつも通り、シュミレーター前でタイムアタックを終えた悟が古川の元に戻ってきた。

 早矢も片付けを終えて、休憩スペースに顔を出す。


「ふー、疲れたー! 今日のタイム、まぁまぁってとこかな!」


「へっ、俺のが速かったけどな」


「え~っ、あれは一回だけじゃん!」


「あはは、確かにな」


 そんなふたりに向かって、古川がニヤニヤしながら声をかける。


「今日はシュミレーター作業終わったら予定ないんだろ? どうだ、2人して食事にでも行ってこいよ!」


「……え?」


「な、なんで急に……?」


「実はな、スポンサーの招待で嫁と食事の予定だったんだが、嫁が風邪ひいちまってよ、代わりにお前ら行ってこいよ!」


「……」


「……」


「な、なんだよ、そんな顔すんなよ……!早矢に、その…あれだ、いつも世話になってるしな!スポンサー対応とか」


 早矢の目がぱっと輝いた。


「都内の老舗ホテルだぞ! フルコース! 夜景見える窓側!」


「えっ、本当に……? クリスマスの夜にそんなの……!」


 悟はぽりぽりと頬を掻きながら、照れたように苦笑した。


「……まぁ、せっかくだし。俺たちみたいなのが行っていいのかはわからんが……な」


「ふふっ、行く行く。ね?」


「お、おう。じゃあ、行くか」


──


 いったんそれぞれ自宅へ戻り、ドレスとスーツに着替えた二人。日が沈んだ頃、悟がハチロクで早矢を迎えに来た。


「……乗るの、ちょっと緊張するな」


 早矢はドレスの裾を気にしながら助手席に乗り込む。悟は軽く笑いながらエンジンをかけた。


「動く博物館だな、こいつは」


「でも、いい音。これが悟さんの音なんだって感じする」


 赤信号で止まった交差点。フロントガラス越しに、街のイルミネーションがちらちらと映り込む。


「……今日のメイク、いつもより丁寧だな」


「そりゃ、クリスマスだしね。……変じゃない?」


「いや、似合ってる」


 くすっと笑いあって、再び静けさが戻る。


 クラシカルなエンジン音が、冬の街に馴染んでいった。


──ホテル到着


 ライトアップされた高級ホテルのエントランスに、AE86が滑り込む。

 そのレトロな佇まいに、出迎えたスタッフが一瞬動きを止めた。


「キーをお預かりします」


 差し出された手を、悟がやんわりと断る。


「すみません。この車、ちょっとクセがあって。自分で移動します」


 スタッフが戸惑いながらも頷く中、早矢がくすっと笑った。


「やっぱり、悟さんじゃないと動かせない車なんだね」


──クリスマスディナー


 館内レストランの一角。静かな照明のもと、キャンドルが揺れるテーブルに二人が向かい合う。


 グラスが軽く触れ合う音が響く。


「まさか、本当にこうやって二人で来るなんてね」


「古川のおかげだな。早矢ちゃんに嘘ついたことの罪悪感もあったんじゃない?」


「古川さん、嘘つくの下手なんだもん、バレバレ。」


 コース料理の最後、デザートが運ばれてきたタイミングで、早矢が少しもじもじと鞄を開いた。


「……あの、はいっ」


 差し出された小さな箱。中には、白と黒のツートンのAE86 ──ミニカーが収まっていた。


「急だったから、他に用意できなくて……でも、悟さんならこれが一番かなって」


 悟は驚いたように笑い、自分のコートの内ポケットから小箱を取り出す。


「奇遇だな。俺も……用意してたんだ」


 開けると、そこには真っ赤なGR86のミニカー。


 思わず2人、同時に吹き出した。


「お互い、車バカってことか」


「うん。でも、それが一番嬉しいプレゼントだったりするんだよね」


 キャンドルの炎が、ミニカーのボディを静かに照らしていた。


──その後のことは、あえて語るまい。


 それは野暮というものだし、そもそも、語られるようなことでもないのだから。


ただ、ひとつだけ確かなのは──


 あの夜、彼らの胸に灯った温もりは、冬の空気の冷たさなど簡単に溶かしてしまうほど、やさしく、そして確かなものだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ