表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86の約束  作者: 仙道 神明


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/26

Lap 16「Lexus RC F GT3 始動」

──早朝のガレージ風馬。


 ピットの奥に鎮座する、Lexus RC F GT3。


 悟と早矢がその前に立っていた。


「……やっぱ、すげぇ迫力だな。こいつがGT3のマシンか」


「ね、音もビリビリするし、オーラもある。これ、ほんとに動かせるのかな……?」


 そう言いつつ、早矢の目はわずかに震えていた。市販車とは違う、“勝つためだけに作られマシン”。

 その迫力は、早矢の胸を高鳴らせると同時に、未知への緊張を与えていた。


──そこへ、古川がガレージの奥から出てきた。


「よう。2人とも、気合入ってるな」


「古川さん、これ……まさか自腹で?」


「ああ。全額じゃねえけどな、融資と借金で何とか」


 古川は笑って、苦い缶コーヒーをあおる。


「馬鹿な話だろ?自分とこの客にせっつかれて、オッサンがGT3買うなんてよ」


「……ごめん、無茶させて」


「別にいいさ。なにより──面白ぇじゃねえか」


 古川はマシンを見上げ、にやりと笑う。


「借金返すには、勝つしかねえ。やるぞ、風馬レーシング!」


 その言葉に、ガレージ全体の空気が熱を帯びた。


──


 ある日、取材用にガレージの写真を撮るため、早矢は朝からメイクをバッチリ決めて現れた。

 ハイライトの入った髪、華やかなアイシャドウ、目元は鋭く──だが美しく。

 いつもの早矢とはひと味違う、まさに“戦う女性ドライバー”の顔だった。


 そして──後日、完成したポスターが届いた。


「New Generation Driver:Haya」

Presented by Lunaire Cosmetics(ルネール化粧品)


「えええっ、ガレージ中に貼るんですかこれ!?しかもこの顔、決めすぎてない!?」


 早矢は耳まで真っ赤になりながら、壁に貼られた自分のポスターを見上げていた。

 ピット横、事務所の壁、休憩スペースの冷蔵庫──


 至る所に、華やかな早矢の顔がある。


「いいじゃん。見栄えするし、うちのイメージモデルってことでさ」


 悟は笑いながら、少しだけ嬉しそうに言った。


「スポンサーに感謝だな、悠斗くんの紹介だっけ?」


「うん、あいつ……こういうの得意だから。ちょっと悔しいけど」


──悠斗。早矢と同じジュニア出身で、今はGT300で活躍中の同期。


 今では彼のチームとの関係も良好で、風馬レーシングは経験面で多くを支えてもらっていた。


「ま、持つべきものは頼れる同期ってやつだな」


 悟はそう言って、Lexus RC F GT3のボンネットを軽く叩いた。


「……さぁて、老骨に鞭打ってやるか。この借金返すには、勝ち続けるしかねえからな」


「ふふっ、じゃあ、ポスターの子も頑張らなきゃね」


「そいつは大変だ」


Lexus RC F GT3── 風馬レーシング仕様、初公開。


 その車体は、情熱の赤をベースに、ボンネットやルーフには悟の愛車・AE86をオマージュしたパールホワイトのラインが大胆に走っていた。

 リアウイングの端には、小さく「FUMA RACING」と書かれたロゴ。


──そして数日後。


風馬レーシングは岡山国際サーキットにいた。


 Lexus RC F GT3のシェイクダウンを兼ねたプライベートテストと、次週開催のスーパー耐久の練習といったところか。


 隣のピットには、悠斗の所属する現役GTチーム。サインボードや無線機器の使い方、タイヤの温め方に至るまで、彼らのクルーが手取り足取り、風馬チームをサポートしてくれていた。


「マシン下がりすぎてるな、フロントのバネ固めよう」


「無線、タイミングズレてるよ!セクター1抜けたら入れる感じで!」


──経験の浅いチームに、プロの現場の空気が流れ込む。


 ピット内では、悟がモニターを見つめ、データロガーをチェックしていた。


「うーん……ブレーキングが深すぎるな、早矢、もう少し手前から減速してみようか」


「了解!でもこの車、思ったより曲がる。楽しい!」


──早矢は嬉しそうにレーシングスーツの袖をまくりながら、何度もコースインしていく。


 一方、悟も走行セッションに参加。86では経験したことのない強烈なダウンフォース、GTマシン特有のハイグリップタイヤ──


「……こりゃ、ゲームより全然ムズいな……!」


 とは言いつつも、走行3本目にはコンマ秒単位でタイムを詰めていた。

 ピットウォールの裏で見ていた悠斗は、思わず口笛を吹いた。


「マジで……この人、やば!」


 夕暮れどき、ピットでマシンを囲みながら、古川が言った。


「ようやく“形”にはなってきたな。あとは……レースで結果を出すだけか」


 悟は首にかけたタオルで額の汗を拭きながら頷く。


「準備はできた。あとは、やるだけだな」


──風馬レーシング、GT300への挑戦。


 その始まりの光は、静かに、しかし確かに、岡山の空の下で燃え上がっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ