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86の約束  作者: 仙道 神明


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Lap 15「老骨に鞭打って」

──夏の夕方、日が傾き始めたガレージ風馬。


 シャッターの隙間から差し込む光が、工具棚やジャッキの影を長く伸ばしていた。悟は、作業台の向こうにいた古川に声をかけた。


「なぁ、古川。……GT300に、出られねぇかな」


 古川は手を止め、首を傾げる。


「ん? お前が? それとも早矢ちゃんか?」


「両方だよ」


「……」


 古川は一拍置いて、鼻で笑った。


「冗談だろ? そりゃ気持ちはわかるが──GT300は遊びじゃねぇ。

GT3マシンを揃えるだけでも数千万、チーム運営費、エントリー費、スタッフの手配……」


「わかってる。金がかかるのも、夢物語だってことも。でもな──」


 悟の声が少し熱を帯びた。


「俺には、もう時間がねぇんだよ。チャンスがあるなら、やれるうちに全部やりたい。

……自分の体が、動くうちにさ」


 古川は、その言葉に眉をひそめた。


「……らしくねぇな。悟、お前がそんな風に食い下がるのは珍しい」


──沈黙が流れる。


 古川はしばらく黙ったまま、オイルの染みた床を見つめていた。


 やがて、静かに口を開いた。


「……やるとすれば、まずGT300にエントリーできるGT3マシンを買う。エントリーできるレースには片っ端から出て、勝ちまくって存在をアピールする。

──とりあえずスーパー耐久か。

その実績でスポンサーを引っ張る……それしかねぇ」


「……」


「簡単な話じゃない。金も時間も人も足りねぇ。でも──それでも、やってみるか?」


 悟は、小さくうなずいた。


「俺のゴールは……早矢をGT300のグリッドに並ばせることだ。

それまで身体がもてばいい。老骨に鞭打って……なんとか、頑張るさ」


その瞬間──


 物陰からひょこっと現れる人影。


「やだやだ!」


 早矢だった。ずっと、陰で話を聞いていたらしい。


「私、悟さんとGT300乗るもん!……だから、一緒に頑張ろ?ね?」


 笑顔を浮かべる彼女の瞳は、ほんの少し潤んでいた。悟は照れたように頭をかきながら、ゆっくりと頷いた。


「……ったく、しょうがねぇな。ほんとに、やるんだな?」


「うんっ!」


 古川は肩をすくめ、苦笑した。


「なら、こっちも腹括るしかねぇか。期間は約1年ちょい、再来年の参戦を目標にする──

風馬レーシング、GT300プロジェクト、始動だ」


 ガレージの奥で、AE86が静かに佇んでいた。


 その横で、悟と早矢が並んで立ち、未来を見据えていた。


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