第9話 崩壊世界の近未来男
村正は巨大なクレーターの中心で空を眺めていた。
【神風アーマー】の自爆特攻によりゴブリンキングを討伐したというのに、その表情は優れない。
はぁ、と1つ溜息を吐く村正は自分の身体を見下ろし、次に残存HPゲージを確認する。
もう何度も行ったその動作こそが、村正の優れない表情の原因だ。
「やはり【神風】、お前は封印だ……」
一頻り頼った後でのこの発言。
しかし無理からぬことでもあった。
村正の見下ろした身体にベースアーマーたる騎士鎧は欠片も見えない。
またHPゲージも当たり前のように全損状態だ。
とりあえず消し飛んだベースアーマーの代わりに自身の身体にアーマースキルを付与する村正だが、このアーマースキル、ベースアーマーとの重ね掛けができない仕様となっている。
【HPアーマー】に関しても付与するたび更新されるなんてことはないので、全損したHPゲージは村正の身体に付与しなおしたところで変わりはしない。
つまり今の村正を守るのは【低減アーマー】や【リジェネアーマー】などの直接防御ができないアーマースキルだけなのである。
村正は、何度見ても同じ全損状態の【HPアーマー】を見つめて、【神風】に封印だ封印とジト目を向け続けた。
なお、この村正の悩みを解決するスバラシイスキルも存在するのだが、あまりのスバラシサに村正は目を背け続けている。
もう一度空に向かって大きく息を吐きだした村正は、終わったことよりこれからに目を向けようと辺りを見回した。
巨大なクレーターに煌めく数々の魔石、これでも大部分が吹き飛んでいるはずだがそれでもかなりの量だ。
数えれば100は確実にあるだろうそれら魔石だが、今更拾っても大した強化もできないうえ大地にめり込んでいて集めるのも一苦労だと、村正はそれらを拾わず足元に目を向けた。
「一際巨大な魔石。これは期待できる」
足元にめり込むそれは神風の……村正の心の安寧のため知らない子というが、その存在の真下で爆発に巻き込まれたゴブリンキングのものだった。
村正が意図したわけでは決してないのだが、真上で爆発を起こしたためその魔石は吹き飛ばされずに済んだようだ。
バスケットボールほどの大きさはあるその魔石を村正はなんとか掘り返し手に取る。
これを手に入れるために自分は戦ったんだと一部記憶を捏造して感慨に耽る村正はそれを熱い瞳で見つめる。
これで消し飛んだベースアーマーも新品を調達できるだろうと、次はどんなデザインのものを買うかとニシニシ笑いながらそれをダンジョンショップに押し込んだ。
村正の特典『魔石ポイント変換率10倍』が効果を発揮し凄い勢いでポイントが伸びる。
途中、ダンジョンショップの画面がブレたようだが村正は気付かずポイントを見続けた。
最終的に村正の獲得ポイントはこれまでの収穫より遥かに高い数値を叩き出したのだった。
顔を綻ばせ、村正は早速とダンジョンショップの品目を漁る。
まずはなにをするにせよベースアーマーを新調しなくてはとダンジョンショップをスクロールして……彼は気付いた。
「……あれ? 知らない品目が増えてる!?」
それは、待ちに待ったダンジョンショップの商品アップデートだった。
まず、ベースアーマーが何故か2つに分かれている。
村正は始めにベースアーマーを新調する気でいたので、その変化にすぐ気付いた。
ベースアーマーには騎士鎧の他にも東洋の武士鎧などデザインはいくつかあり、選ぶことができる。
しかしそれは1つの項目から選択可能なオプションで、2つに分かれているということにはなにか意味が? と村正はそれを押す。
そこにはこう書かれていた。
【ベースアーマー〈バトルアーマー〉】──と。
「…………っ!!」
村正は興奮した。
ここにきての、バトル……戦闘とつくアーマーの出現。
反射を可能とする【リフレクションアーマー】の他に、ダメージを与えるアーマースキルなどなかったのに! と。
しかもこれはスキルではなく装備アイテムだ。
バトルアーマー……村正の少年心を擽る良い響きであった。
商品画面に映るバトルアーマーのそれは、近未来スーツという言葉が一番適しているだろう。
もうこの時点で村正は小躍りしたいほど浮かれていた。
基本色が漆黒というのもまた彼の身をくねらせる。
説明の『これは追加された武装一体型アーマーと併用することで真価を発揮するベースアーマーです』という字面を見て、その浮かれようはもう最高潮に達する。
念願の武装がこんな理想を越えた形で現れたことに、村正は小躍りを通り越して下手なダンスを披露する寸前までいった。
頭のおかしい値段設定を見るまでは。
「えっ……」
村正の表情が、一瞬で冷めたものに変わる。
バトルアーマーだけでなく、武装一体型アーマーというのも素晴らしい性能のものばかりだ。
ざっと一覧を眺めるだけでも相当の強化が見込めるだろう。
集められれば。
「キングの魔石で得たポイント、バトルアーマーだけで全喪失……? いやいや」
あまりの高額設定に、村正は頭を抱えた。
村正はキングとの戦いに備えて各アーマースキルをLv.10まで強化している。
だが今回得たそのキングのポイントがあれば、全てのアーマースキルを倍の倍くらいにはできそうなのだ。
それが、たった1つの装備アイテム、しかもベースアーマーというもので消えてなくなる。
村正は悩んだ。
高額だが先々に繋がるバトルアーマーか、基礎を固めるためにアーマースキルを強化するのか。
「……ポイント集めをすると前提にいれるなら次向かうのはここより1つ危険度が高い隣街しかない。どの道今の僕じゃそこが限界だし、となると基礎は十分か……?」
悩む彼は決め手が欲しいとバトルアーマーの説明欄をスクロールする。
するとそこに、先程は見なかった説明の続きがあった。
『バトルアーマーには身体能力補助や体温調節機能が備わっている』
即決だった。
身体能力補助というのは重い鎧を動かすにも物理で殴るにも期待がもてる機能だと。
体温調節機能に関しては、季節が廻りまた寒くなってきたので丁度いいだろうと村正を後押しした。
斯くして、村正の姿は一変される。
漆黒の近未来スーツに身を包んだ、崩壊世界の近未来男へと。
なお装備更新で一番始めに村正が実感した利点は、「すごく暖かい」だったそうだ。




