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探索者になった。文明が崩壊した。  作者: 歌歌犬犬
第1章
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第8話 最低な結末

 ゴブリンキングは苛立っていた。


 ソレは己がどこでどうして誕生したのかも覚えていない。

 だが1つはっきり言えるのはこんな不可思議な光景の広がる場所で生まれたのではなかったということ。

 整っているようで整ってない、そんな印象をキングは最初に抱いたのだ。

 己が生まれた場所はこんな不完全を取り繕ったような不快感は覚えなかったと。


 それはゴブリンキングと人間の生き方の相違からくる感情だった。


 ともあれそこに己が在るのならそこで生きるしかないというのが世の摂理。

 潔くそう切り替えたゴブリンキングは、手あたり次第に人間を喰った、喰った、喰った。

 それでわかった、そして感じたのは、ここに己を傷つけられる者は存在しないのだという、愉悦。


 巣穴に閉じこもる人間を潰して喰らった。

 箱に乗って逃げる人間を掴んで喰らった。

 赤子を守る人間を纏めて喰らった。


 ゴブリンキングに、いや地球に現れた彼らに食事など必要ない。

 魔素と呼ばれるものを吸収し生きる彼らがそれでも人間を喰らうのは、美味いからだ。

 奇しくも村正が予想した通り、彼らにとっての食事とは娯楽の1つに過ぎないのであった。


 そんな娯楽も、やがて打ち止めがくる。

 少し前にこの広い場所で纏まった人間を喰ってから、ゴブリンキングは次なる人間を見かけなくなった。

 まだ何処かにはいるのだろう、しかしそれを喰らいに行くことはできない。

 感じていたのだ、遠く離れた場所で己と同等かそれ以上の力を持った魔物がいることを。


 それを感じたとき、ゴブリンキングは今は戦力を整える時間だと座して構えた。

 配下のゴブリンは一部進化を遂げホブ、ジェネラルと強くなる個体が現れている。

 このまま戦力が増せばいずれ他所の魔物を喰らいに行くこともできるだろうと、その醜悪な顔をニタリと歪ませていたのだ。


 問題が起きたのはそれから間もなくの頃だった。


 根城より警戒のため散らばるゴブリンたちが、次々と何者かによって狩られているのだ。

 最初、己と比べるべくもない雑兵ゴブリンが弱肉強食の摂理に敗れただけだと静観していた。

 しかしまるで包囲を縮めるように根城周辺の同胞が狩られていくにつれ、ゴブリンキングの頭に〝鬱陶しい〟という感情が浮かんだ。

 這いつくばる虫けら如きが、なにをこの王たる己の領域を荒らしているのかと。


 指令を出す。

 配下のゴブリンジェネラルたちに、調子に乗った虫けらを潰してこいと。


 結果、ジェネラルたちは戻ってこなかった。


 ──鬱陶しい!


 ジェネラルは狩られたのだ。

 鑑定のスキルもない村正によって、『ホブゴブリン』だろうという謝った認識の中で。


 ここに来てゴブリンキングは虫けらを──村正を〝敵〟と判断した。

 ここで周辺を荒らす〝敵〟を潰しに行くのは愚策だ、この巨躯では満足な動きがとれないと、ゴブリンキングは侮りも油断もなく、配下のゴブリンに警戒を厳にさせこの根城の中で迎え撃つ構えを見せた。


 あの狭い人間の道の中ならいざ知らず、この広い空間であれば人間相手に遅れを取ることなどあり得ないと。

 ゴブリンキングのその思考は侮りでも油断でもない……少なくとも彼の中ではそうだった。

 王者には王者だけの在り方がある。

 侮りも油断も王者としての限度があるのだ。

 それを自覚しての思考ではなかったが、ゴブリンキングの己が王者であるというその自負だけは本物であった。


 まだか。

 今か?

 まだ来ない。

 いつ来る?


 ゴブリンキングは待った。

 それは時を忘れ、〝敵〟が現れるその今という時間だけを意識し待ったのだ。


 時刻は昼時。

 太陽が丁度真上に来たという時間。


 学校の校門に当たる場所から、1人の騎士が姿を見せる。

 手にはなにも持っていない。

 ただ重そうな鎧が陽光を浴びてゆらゆらと陽炎を見せていた。


 得体の知れぬ迫力が、そこにはあった。


「……────」


 なにか言葉を一言呟いた騎士。

 それの意味するところなど知る由もない、知る必要もないのだと。

 ゴブリンキングは醜悪な顔を更に歪め、その巨躯を持ち上げた。


 大きく咆哮を吐いた〝王者〟の雄叫びによって、戦いの火蓋はここに切られた。




 ◆




 村正は一言、こう呟いたのだ。


「最低だ……」


 それは自身への戒めか。

 これからすることへの懺悔か。


 どちらにせよ戦いは始まり、眼前ではゴブリンの軍勢が村正を待ち構え、今にも突撃を仕掛けようとしている。

 あれらに群れで襲われようとその身にダメージがないことはもう知っていた。

 故になんの躊躇いもなく、村正はその新しく取得したスキルを行使する。


「──【ヘイトアーマー】、起動」


 途端、村正を見るゴブリンたちの剣吞さが増す。

 それは敵意を超越し殺意を凝縮したかのような視線。

 親の仇でも見るかのように、鋭い眼を村正へと向けたゴブリンたちは……。


「「「Guruaaaaaaaa!!」」」


 堪えきれないとばかりに突撃を開始した。


 それに合わせるように村正も前へ出る。

 一歩、二歩と歩を進める度、村正の()()()()()()()()()


「最低だ……」


 その戦車よりも硬い鉄壁の身体で以って、ゴブリンたちをひき潰しキングと呼ぶ個体のもとへと駆ける。

 まだ〝時間〟があると、グルグルと巡る思考の中でぐるぐると円を描くように疾走する。


「最低だ……!」


 もはや村正の速度は下手なレースカーよりも速かった。

 村正に撥ね飛ばされたゴブリンが塵へと姿を変える中、村正は歯を食いしばるように走り続ける。


「最低だ……!!」


 何度言うんだとばかりに同じことを呟き続ける村正の身体は、いつしか強く発光を始めていた。


 ゴブリンの王を見た時に、村正は「勝てない」と思った。

 それはあの誇らしげに聳える巨躯に対し、村正の鉄拳パンチがどこまで通用するのかを瞬時に考えたためだ。

 蟻が像を突くようなものである。


 だからこそ。


 村正は二度と頼らないと心に決めた封印を、解いた。

 魔石を集めるうちにダンジョンショップの品目が更新されるのではないかと、そんな期待をしていた村正は終ぞ報われることはなく、決戦の日に封印を解き放つことを決めたのだ。


「こんなの、最低だっ……!!」


 あまりに大きいリスクに、村正の心はそれを呪った。

 呪うのに頼らないといけない自分の無力に、限界に、村正は歯を食いしばらずにはいられなかった。


 眼前にはもうすぐそこにキングの巨躯が聳えている。

 輝き疾走する1本の流星がその巨躯にぶつからんと突撃する。

 それを薙ぎ払うように振るわれる腕を、速過ぎる流星は軌道を変えて上空に躍り出た。


 キングの頭より、更に上。

 真昼だというのに強く輝くその流星は、白い閃光を膨らませ──


「こんな結末っ、最低だぁぁぁぁっ!!」


 【ヘイトアーマー】により敵視を集め群がったゴブリン諸共、吹き飛ばした。



 それは、遠くから見ても異様に過ぎる光景であっただろう。

 真昼に轟く爆音に天を突くような閃光。


 ある塔の上からそれを目撃する者がいた。

 ある山の中でそれに耳を塞ぐ者がいた。

 ある海の下からその振動に興味を抱く者がいた。


 世界の文明が滅んでから早数ヶ月。


 魔物も人も関係なく、その〝異様〟を捉えたモノ達がそこにいる脅威を知った。


 その脅威、名を佐々木村正。

 母校である学校を完全に更地に変え、巨大過ぎるクレーターに自分でも驚きながら地面にめり込む魔石たちを見て。

 彼は言うのだ。


「……やっぱり攻撃手段、欲しいなぁ……」


 かみかぜ?

 何度でも彼は言うし、何度でも彼は否定するだろう。

 そんな子は、僕は知らない……と。

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