第4話 誕生日
濛々と砂煙が舞う中、1つの人影がわけがわからないという風体で身体を起こす。
村正である。
彼は自身の無事と辺りの状況を確認して驚愕に目を見開いた。
そこには、目測で半径10メートル程だろうか、綺麗に周囲の家を、物を、地面を吹き飛ばし、村正を中心とする巨大なクレーターが出来上がっていたのだ。
「……これ、僕がやったのか?」
ゆっくりと頭を右から左へと動かして、どの方向を見ても同じ光景しか見えないことを認めた村正が爆心地唯一の生き残りである自分に疑問を向けた。
村正はこうなる直前、ゴブリンの集団を突破するため狭い部屋を駆け回り、そして扉を塞ぐ個体に向けて吶喊したことを覚えている。
その接触の間際、突如自身の身体が強く発光し、そして轟音が轟いたのだ。
状況的に見て犯人は村正である。
よく見れば地面のそこかしこに魔石の輝きが散見され、村正を襲った個体と数は合わないが恐らくそれは吹き飛んだだけだろうと魔石の回収にあたった。
この状況においても村正がまず求めるのは魔石である。
幸か不幸か大規模な爆発に警戒したか付近にゴブリンの姿はない。
一通り散らばる魔石を回収した村正は地面に腰を落とし状況の真犯人を追求することに決めた。
危機的状況から復活し、冷静になった今だからわかることがある。
──【神風アーマー】、あれは問題児だ。
その予想を裏付けるために村正はダンジョンショップの購入済み一覧からスキルの説明分を読んだ。
スキル:【神風アーマー】
能力:敏捷値の大幅な増幅。時間経過と共に上昇率は跳ね上がり、スキル発動から10秒の後確定で自爆する。なお爆発脅威はスキル保持者の総合防御値で増大する。
頭を抱えたくなるような曲者だった。
スキル説明を読んだ村正は同時に【HPアーマー】の効果と現状も知り、今度こそ頭を抱えた。
「HPゼロ……これ【HPアーマー】なかったら僕自身の身体が全損してたってこと……? は、はは……」
残存HPゲージが徐々にゼロから回復している状態を見て、きっとこれが【リジェネアーマー】だなと説明を読み自身の予想が正しいことを確認する。
村正はあの咄嗟の状況で自身の本能に従いこの2つのアーマースキルを取って良かったと、心の底から安堵した。
いや本能で「なんか強そう、いや絶対強いね」と一番に心そそられたのがその別格の問題児であるのだが、もはや村正にそこを指摘する気持ちなどなかった。
──生きている、その結果が今はすべてだ。
そう結論をつけ自身の気持ちに整理をつけた村正。
次なる行動を考える。
なお問題児【神風】は当然の如く封印指定スキルとして村正に認められた。
取得した3つのスキルすべてが【神風】によって効力を発揮できない現状においては仕方のないことである。
いや、【リジェネアーマー】の効力は村正の左腕に現れ、徐々にその傷を治しているからそれだけは例外であろうか。
しかし【リジェネアーマー】は【HPアーマー】にも作用し、HPが残っている限り村正自身の肉体が傷つくことはないという点を見れば、HPを全損させ回復が間に合わないこの状態はやはり【神風】許すまじというものであった。
一通り【神風】に当たり散らかした村正は、されど状況を打破した功績も認め一旦話を他所に置いておくことにする。
他所に置かれた話が再度拾われるかは定かではない。
もう一度周囲に視線を投げ、村正はまだゴブリンが寄ってくることはないらしいことを確認し、新たに入手した魔石をポイント変換していく。
同時に、先程までは熟読できなかったスキルの一覧を軽く読み込み、今必要なものを揃えるため早速ポイントを消費した。
既に会得済みのスキルもLv.50まで上昇させることができると知った村正がまず最初に上げたのは、【リジェネアーマー】と【HPアーマー】である。
一覧を軽く読み込んで今自身の生存率を一番上げてくれるのがこの2つだと確信したからだった。
なによりHP全損のこの状況は村正にとって心臓に悪い。
スキルもなにも得ていないのと変わらないのだから、それも当然だ。
Lvを上げたスキルたちはその効力も上昇する。
最大値の増えた【HPアーマー】がその分だけHPゲージを確保し、【リジェネアーマー】の回復力も増加したため一旦の余裕が生まれた。
時刻はまだ真夜中。
相も変わらず車の警報音や燃える炎が空を目指しているが、それでも村正の心は幾分かの落ち着きを取り戻した。
──他にもなにかで死んだゴブリンの魔石あるかも……拾いに行かないと。
そんなことをぼんやり思考してから、眠るにはまだ早いと頭を振って立ち上がる。
そんな村正の視界に、見慣れた本の紙切れが黒焦げて落ちているのが見えた。
そんな状態になっても、村正はここまで命を繋いでくれた相棒に気付かないなんてことはない。
黒焦げたそのエロ本だったものを拾い上げ、しかしそのすぐ側からぼろぼろと崩れ落ちる相棒を、村正は別れを見届けるように眺め続けた。
やがて掌に幾ばくかの炭が残ったのを認め、それをグッと握りしめる。
──文明は崩壊した。
もはや人の悲鳴すら聞こえなくなった夜の空を見上げ、村正は実感する。
とんだアンハッピーバースデーを女神は寄越してくれたものだと、崩壊した世界に生まれ落ちた新たな自分を想い呟いた。
探索者になった。
文明が崩壊した。
されど崩壊世界で生きる術を、村正は手に入れている。
「……あんま変わんないな」
ポツリと1つ、村正は呟く。
毒親たちから生まれた状況が、女神に生かされる状況に変わっただけ。
崩壊していた家庭が、文明に変わっただけ。
生きるためのエロ本が、探索者としての力に変わっただけ。
なんにも、変わらないと。
村正は静かに歩き出す。
時刻は真夜中。
今日は村正の、誕生日だった。




