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探索者になった。文明が崩壊した。  作者: 歌歌犬犬
第二章
25/25

第25話 ころころ動く村正の顔(バトルアーマーの下で)

「クソガキ……? お前、なにやったらそうなる」

「うるさいのです……」


 朝一番、塔のリビングにて秋夏の無念そうな姿を見ることになった村正。

 その無念さたるや、先程読んだ置手紙がかわいく思えるほどだった。


 秋夏は両手を後ろで縛られ、右近と左近により地面に転がされている。

 その更に奥には仁王立ちする楓がいるが、なぜだかいつしか見た恐怖を感じさせる笑みを浮かべていた。

 故にそんな楓に迎えられた村正は「なんで僕まで」と理不尽を感じ、秋夏に小言を言ったのだ。


「はぁ……最近溜息吐く回数が多い気がする……ん?」


 思わず溜息を吐いた村正は、1人の時のほうが楽だったななんて思い……そして気付いてしまった。


──クソガキを縛ってる紐……新聞紙だ。しかもうっすい。なぜ??


 それは地面に転がされるクソガキの処遇……それが思ったより甘いんじゃないか、ということだった。


 なぜかペラペラの新聞紙で縛られる秋夏。

 抵抗は容易そうだ。

 なぜか広いリビングの絨毯の上に転がされる秋夏。

 地面は柔らかそうだ。

 なぜか拘束しているように見せてボディタッチすらしていない右近と左近。

 女性への配慮が透けて見える。


──紳士だな、右近左近。


 最後の1点に目を向けた際村正はそう思ったが、すぐいやいやと首を振る。


──なんだこの茶番……。


 と。

 勿論のこと秋夏の状況は楓も承知しているようで、なんなら発案は彼女かもしれない。

 いったい秋夏がなにをやらかしてこうなっているのか村正にはわからなかったが、やっぱり仲の良い4人だなと思うのであった。


 状況に然して緊迫感がないと悟った村正は頭を掻いて問いかける。


「あー……それでクソガキはなにをやったんだ。僕にも関係あるのか?」

「秋夏はすべきことをやっただけなのです! あれは必要なことでした!」

「はいはいクソガキは黙ってようね。当事者の意見は後だ後」


 ギャーギャー喚く秋夏を適当に流して村正は楓の方を見る。

 この秋夏を厳しく拘束しているようでまったく厳しくも拘束もしていない現状、問題はそう大きくないような気がした。

 村正は先程よりも落ち着いた心で楓の口から真実が語られるのを待つ。


「秋夏がな、避難民たちに突撃したのだ。苦言を呈しに」

「ド地雷じゃないか……」


 笑みを深くして語られた真実に、村正の顔がキュッと萎む。

 ここ最近彼の表情は昔に比べて非常に豊か、そろそろバトルアーマーに表情再現の新機能でも欲しくなってくるところだ。

 なお表情が動く要因の中身ついては語ってはいけない。


 息を吸って気を取り直した村正は、それでなぜ自分まで呼ばれるのかと楓に問うことにした。

 秋夏の暴走なら自分には関係ないだろう、と。


 すると楓は素でぽかんとした顔をし。


「私たち5人の問題だぞ? 1人だけ除け者になどするものか」


 と、当たり前のことのように言った。


──むしろ除け者にしてほしい。いやしてくれ。僕は傍観者でいいんだよ。危なくなったら勝手に逃げるから。


 村正は楓の好意、と思われる言葉に内心そう返したが、口に出すことはできなかった。

 これが嫌がらせや、巻き込んで問題解決に付き合わせようなどの魂胆があるならはっきり言えたのだが、純粋な好意からくる仲間意識は無下にできない。


 やっぱり誰かといるのは面倒だ、と村正は感じる。


 その後、村正は何故か自分に仲間意識を持っている楓から事の詳細を聞いた。

 順を追って説明すれば、それは昨夜秋夏が村正の部屋を出た後での出来事だと思われる。


 1.まず秋夏が村正の部屋を出る。

 2.避難民の下へと向かう。

 3.いい加減付き合いきれないと怒鳴り散らす。

 4.避難民が震える。

 5.騒ぎを聞いて楓たち合流。

 6.翌日の朝、村正が起きる前に秋夏を拘束して待機(???)。


 ということらしい。

 村正は最後のところでなんでそんな真似をわざわざする必要があるのかまるでわからなかったが、仲良しイチャイチャに突っ込む気にもならないので黙っておいた、懸命な判断である。


 つまるところ、秋夏は昨夜の村正からの声援を受けて自分が思うすべきことを行った、ということだった。


──個人的には行動しただけ偉いと思うけどな。座して待つだけじゃバッドエンドだし。でもそれを言ってもまた話がループするんだろうなぁ。僕が口出しする問題でもないし……うーん。


 村正はここで秋夏の処遇や行為に対する意見を言ってもややこしくなるだけだと知っている。

 そもそもが傍観者でありたい村正は、話の流れを変えるように別のことを、なるべく自然な形で聞くことにした。


「……そういえばドラゴン対策の話はあれから進んだのか? 猶予があるのかないのかもわからない現状、ゆっくりもしていられないと思うんだが。言っちゃ悪いが、この塔は目立つぞ」

「……そうなんだがな。妙案が浮かばんのだ」

「そうか」


 村正の話の振り方はいささか以上に急カーブであったが、幸いにも楓は表情を変えてその問いに答えた。

 その顔は苦々しく、固い。

 進展がないことなど話を聞く前からわかっていたが、思いの外真面目に悩んでいるようだったことに村正は軽く驚く。

 避難民どうこうのトラウマがなければ、楓はもしかしたら現状を突破していたのではないか……と思うほどに、楓は真剣に悩み、そして行き詰まっている様子だった。


──どうするクソガキ……お前の頑張りは見たいけど、破滅が待ってくれる保証なんてどこにもないぞ。


 楓の答えに、村正は転がる秋夏を見る。


 ……彼女は、固く押し黙る楓を、真剣な瞳で見上げていた。


「……なるようになるか」


 呟いた、無意識に。

 自分の言葉の中身は、後から知った。

 村正はその瞳に、芯を感じたのだ。

 果たしてそれは強い覚悟の表れか、楓を守るという意志の強さか。

 村正は、それを綺麗だと思ったのだ。


 昨夜村正が眠った後、秋夏が避難民相手にどう啖呵を切ったのか、彼は知らない。

 しかしその瞳を見れば、決して無駄ではなかったのだろうと、思うのである。


「……僕は外に出る。なにもしないより、魔石でも集めてたほうがいいからな」


 また話が止まったその場にそう残し、村正は足を前へと進める。

 途中、秋夏の横を通り過ぎるとき、彼女の瞳に揺らぎがないことを知って、彼は笑った。


──案外、楓さんよりいい淑女なのかもな……。


 決してエロ本の代わりにはならないけれど。

 精神的栄養を摂取するに足る存在ではないけれど……。

 淑女ではあるのかもしれないと、村正は笑ったのだ。


 ……やはり、バトルアーマーに表情再現の新機能が欲しいところだ。

 あるいはそれは、いつか見せるかもしれない彼の素顔が、その望みを果たしてくれることも……あるかもしれない。


「さーて。頑張って魔石集めしますかねぇ」

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