第22話 秋夏の叫び
穴を見つけたその日の夜。
村正たちは塔の中にて集まり、今日見た穴から推測できることの対応を話し合っていた。
色々と仮説を立てることはできるが、今は話の前提をドラゴンの侵略に置いている。
それはそれが最も警戒しなければならないことで、だからこそ最も話に真剣さが増すから……のはずであったが。
「どうやって塔を防衛しようか」
対応策会議の始まりは、楓のその一言で塔の防衛を基準に定められてしまった。
──無理があるだろ……ドラゴン相手に天高く聳える塔で迎え撃てって? 塔は無敵じゃないって言ったのはあんただろうに。
そのことに村正は早くもこの会議の必要性を見失っていた。
村正が話し合うべきと思ったのはどうやってドラゴンから見つからないよう動くか、だったのだが楓は真っ先に塔の防衛を口に出した。
塔の防衛機能が無敵じゃないのは楓が前に説明した通り、その上で迎え撃つと言われてもそもそもドラゴンを狩る戦力がない。
まずAランク最強のドラゴンはここの覚醒個体より強いだろう。
その覚醒個体たる血飢えの月下狼に勝てないと断言した楓がまさかドラゴンと戦おうなどと宣うとは、流石に村正も予想外が過ぎた。
しかも。
──一向に話が進んでないんだが。
先程の楓の言葉は初めてのものでなく、話し合いの末回り回って何度目かもわからない発言だったのだ。
チラリ、と右近左近に目を向ける村正。
バトルアーマーで目は見えないが、どうせあの2人なら視線にくらい気付くのだろうと思った村正だったが、右近も左近もまるで反応を示さない。
それは気付いていないのではなく、ここで意見を述べることはできないというような姿勢の表れだった。
──面倒くさいんだが???
もう村正の頭に会議の内容など入ってこず、ただただこの無駄な時間を内心の愚痴と共に過ごしていた。
勿論村正も最初楓が塔の防衛を提案したとき、反論したのだ、それは無理があると。
しかしそのときの楓は。
『避難民を連れて別の場所に移動するほうが無理だろう?』
と、微笑んでいるのにどこか怖い表情で首を傾げ村正に返した。
そのやり取りだけで十分だった。
村正の中から話し合いの文字が消えるのは。
察したのだ、これは塔内部で起きている問題が解決しないと話し合いにならないと。
だからこそここで話し合うべきはそっちであり、ならば部外者の自分は第三者として臨むべきなのだと。
しかしいつまで経っても右近も左近も何も言わず、秋夏も俯いているばかり。
村正はこの状況に見切りをつけ始めていた。
このままなら生き残るため自分1人で行動するべきだ、と。
もう泥棒袋持って今すぐ塔から出ようかと考え始めた村正。
しかしそのときになってようやく事態が動く。
机を強く叩く掌の音。
それと共に勢いよく倒れる椅子の音。
それらの音をあげて立ち上がったのは、ずっと俯いて何も言わない秋夏であった。
「いい加減にしてください楓様!! いつまであの避難民共に縛られているおつもりなのです!」
それはずっと進まない話に微笑みばかり浮かべていた楓の顔すら、驚きで目を見開かせるほどの気迫。
涙目で強く楓に不満を露わにする秋夏に、流石の楓も口を開けて呆けてしまっている。
「な、どうしたんだ秋夏。私は別に縛られてなど」
「縛られております楓様。秋夏は〝あの日〟からずっと、微かに残った火種を大事に抱える楓様を見てきたのです。それが楓様にとって生きるための行為だと、秋夏はなにも言いませんでした。でもここで避難民諸共ドラゴンに喰われるとあらば、秋夏ももう黙ってはおられません!」
「秋夏……」
秋夏はとうとう目から涙を溢し、息を荒くして楓に訴えかけた。
睨みつけるような視線になってしまっているが、それが楓を想ってのものであることはこの場の全員が理解していた。
だからそんな秋夏を見て楓は──。
「……そうだな。塔の防衛と拘らず、彼らと共に新天地を探すのも1つの手だろう。村正の提案してくれたダンジョンを目指すのもいい。ありがとう秋夏、視野が広がったよ」
とびきり優しい笑顔で、残酷な答えを秋夏に返した。
「……っ!! ……答えてください楓様。彼ら避難民は本当に、良き隣人であるとお考えなのですか……?」
「秋夏。彼らは人を殺めない。彼らは人を陥れない。害する悪意など持たぬ者たちだよ。それは秋夏もよく知っているだろう?」
「……秋夏にはよくわからないのです」
どれだけ訴えても、楓が変わることはなかった。
それがわかってしまった秋夏は、諦めたように下を向き、なんとかそう楓に返してその場を1人去っていく。
残された面々をなんとなしに見ていた村正も、先程の楓の返しに「答えになっているか微妙なところだな」と適当に思いつつ、この先の行動をある程度決めていた。
村正が話はこれで終わりだろうと席を立つ。
背を向けて最後に部屋に忘れ物がないかだけ確認しようと歩き出した村正に、背後から楓が言葉を投げた。
いやそれは漏らしたといっていいかもしれない。
「ふられてしまったな……。村正、秋夏を頼む」
心ここにあらずといったその言葉に、村正は返答するか迷った。
だが俯き泣いて去っていった秋夏の表情が脳裏を過ぎり、不安定な楓に言える最大限の皮肉を残すことにした。
「あんた別に告ってないだろ」
と、その言葉には村正の怒りが籠められている。
想いを伝える努力も、理解を求める姿勢も、この楓という人間はなにも見せていないと。
むしろそれをあんな辛そうになってまで、嫌われる覚悟を持ってまで見せたのは秋夏であり、無下に断ったのがあんただろうと。
そんな皮肉を、村正は楓に返したのだ。
「は、はは……なにを言うんだ村正。こんなのただの、例えだよ……」
「……そ」
楓と村正の応答は終わり、今度こそ村正はその場を立ち去るのだった。
「遅かったですね」
「……勘弁してくれ」
沈んだ空気の楓を置いて部屋へと戻った村正は、そこでベッドに座り足をぶらぶらさせて待つ秋夏に出迎えられた。




