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探索者になった。文明が崩壊した。  作者: 歌歌犬犬
第二章
20/25

第20話 見る目の変化

 村正から他地域の覚醒個体、そしてそれを撃破した際の恩恵の話を聞いて、楓は呟く。


「夢があるな。その話は」


 と。

 しかし続く言葉は無念そうな表情と共に綴られた。


「しかし私たちに月下狼を倒すという選択肢はない。あれは、私たちで勝てる相手ではないのだから」


 それは本当に無念そうで、楓も村正の話に現状を打破する希望を感じたことは間違いない。

 それは普通のことで、ただ村正が手に入れた恩恵をあまり活用していないのがおかしいだけなのだ。

 それほどにこの魔物で溢れた世界というのは、探索者である楓たちにとってさえ受けいれ難いものだった。


「楓さんたちだけなら、僕の所有するダンジョンまで案内できるけど」


 だから、村正がこう発言するのも無理からぬことだ。

 ここで村正が楓たちだけ、という但し書きを付けたのは単純に護衛の問題である。

 避難民30名のことは頭に入っているが、流石にそれを魔物から守りながら進むなど実現可能云々以前に村正はやりたいとは思わなかった。


 だから村正は〝楓さんたちだけなら〟と言ったのだが……。


 それは彼女を、楓の心を過剰に刺激した。


「村正。それはどういう意味だ? まさか彼ら避難民を見捨てろということか?」


 眼光鋭く、楓は村正を凝視する。

 いきなりの豹変に村正は変に腰を上げたポーズで固まる。

 いったいなにが彼女の琴線に触れたのか、必死に思考を回した。

 楓の発言からもその答えの在り処はすぐ想像がつくのだが、如何せん言った村正に悪気など一寸もないために若干答えに辿り着くのが遅れた。


 なんとか返せた言葉は。


「……避難所は多い方がいいよね?」


 という、()()避難所かは明言せず、こんなご時世行く当ては多いほうが安心できるよねという風で返した。


「…………」


 楓の視線が、村正を貫く。

 バトルアーマーに穴でも開くんじゃないかという錯覚を覚えるほど、楓の目には〝本気の想い〟が宿っていた。


 秋夏も右近も左近も、楓の様子を見ているのになにも言わない場の静寂。

 村正も視線を外してもどうせ見えないのにと思うのに、楓と正面から見つめ合っていた。


「……ふぅ。そうだな。避難所は多い方が()()も安心する。恩に着るよ村正」

「い、いや。僕も少し無神経な発言をしたから。ごめん」


 緊張の糸が切れたように、楓が笑うと同時に村正も腰を上げた。

 変なポーズで固まったことで痛い腰をトントン叩きながら、村正は「一体何だったんだ」と疑問に思う。

 楓の人となりから避難民を見捨てるとかを考えることがないのは、村正も百も承知だ。

 しかしかといって先程のあれは過剰に……いや過敏に反応し過ぎではなかろうかと、村正は楓の闇を見た気分になった。


──もうえっちぃ目で楓さんのこと見れないかもな……。


 危険人物、という認識ではないが、関わり過ぎると自身もあの闇に引きづり込まれるかもしれない……そんな警戒を覚えた村正は、精神的栄養の供給を絶つことにした。


「となると、あれが必要か……」

「何がいるんです村正。この秋夏が手伝ってやるですよ」


 失ったものの代わりを果たすために必要な物を探してキョロキョロする村正に、何気なく近寄った秋夏が声を掛けた。

 それに村正は特に気にすることもなく答える。


「エロ本」

「──っ! そ、そんなもの楓様の倉庫にあるわけないです! やっぱりお前はエロガキです、エロガキで十分です!」

「じゃあクソガキはそっち探して」

「誰が手伝うかっ! 勝手にしてろです! ふん!」

「なんだあいつ……」


 種明かしすれば秋夏は楓の豹変で村正がなにか悩んでいないか心配で近寄ったのだが、村正は斜め上を行く悩みを持っていたために秋夏は顔を真っ赤にして去っていった。

 そんな後ろ姿を言葉通り変な奴を見る目で見る村正こそ、十分変な目で見られるべき存在だとこの場の誰も教えてはくれない。

 楓はなにやら独り言を復唱してうんうん頷いているし、右近左近はそんな楓の側に何気なく控えている。


「なんだこいつら……?」


 だから、村正のそんな呟きが聞こえる者もおらず。

 彼は、思った以上にこの街には問題が山と積み上がっていそうな不安を覚えたが、それを誰に言うでもなくただ首を傾げた。

 なんでそこまで避難民に深入りするのかね……と、理解に苦しみを覚えながら。



 その後一通り必要な物資を集め、もうこれ以上は持てないだろうと一度塔へと帰還することになった。

 だがそこで村正に問題が生じる。


「困ったぞ。もともと持ってきた泥棒袋が邪魔で持てない」


 それは信用の観点から持ち歩いていた村正特製泥棒袋が追加の荷物を受け付けないという話であった。

 いくら誰かに盗られないか不安だったとはいえお前何しに物資求めに来たと言いたいところだ。


 だがそんなお馬鹿な村正を真っ先に煽りそうな秋夏が一番に解決案を出す。


「それそんな風に呼んでるです……? ならお前はブラッドウルフの相手でもして欲しいのです。秋夏たちは荷物持ってくのに専念するのです」

「了解だ。任せてくれ」


 秋夏の提示した解決案、というか代替案に村正は特に反対することもなく受け入れる。

 もともと村正はこの街に来るまでにずっと泥棒袋を背負って移動し続けたのだ。

 彼に秋夏の提案を断る理由も特になかった。


「村正の戦いか。初めて見るが1人で平気か? 村正は探索者になってまだ1年も経ってないのだろう? 私も後方で援護はできるが」

「大丈夫、ここまでずっと戦ってきたから」

「それもそうだな」


 もう先程の豹変さなど欠片も覚えていなさそうな楓の言葉に、村正も同じくもう忘れたかのように答えた。

 実際楓は終わった話だと切り替えているし、村正は本気でまったく意に介していないため忘れているも同然だった。

 こうして並べると人の個体差というものを強く実感する2人である。


 と、それ以外にも村正が楓に軽く返した理由にはまだ話していない『魔石ポイント変換率10倍』の特典が関係していた。

 これについては村正も話す必要はないだろうと黙っているため、楓たちは本当に村正が〝時間通りの成長率〟であると思い込んでいるのだ。

 事実村正以外の探索者であればそれが普通であり、予想を立てろと言われても無理な話なのだが。


 故に現れたブラッドウルフと村正が対峙した際、楓たちは内密にこう相談していた。


「危なくなったら助太刀するぞ」

「「御意に」」

「世話が焼けるのです」


 しかし、村正が泥棒袋を地面に置いて始まった戦闘は……一瞬だった。


 跳びかかるブラッドウルフ。

 避けもしない村正。

 噛みつく牙。

 無視して頭部を破壊する一撃。


 ここまでの一連が、僅か数秒の間に行われた。

 そしてブラッドウルフが魔石に変わったのを見て、村正は何事もないように泥棒袋を拾い上げる。


「終わった。行こう」

「いや待て待て待て」


 先を進もうとする村正を楓は慌てて引き止める。

 流石に色々とツッコミたいことだらけだった。


「村正はまだ探索者になって私たちより短いんだろう? なんか私たちよりも強そうなんだが……?」

「効率が良かったんだ」

「魔石集めのか? いやそれにしたって限度が……」


 村正の大事な部分を省いた回答で納得できるはずもない楓。

 村正が省いたのは勿論特典の話だが、そこは言う必要はないだろうと意図して省いた村正だ。


「う~ん……他人のダンジョンショップやスキルのことを詮索するのは探索者としてマナー違反だが……気になる……」


 しかし今こうして自分の実力に違和感を持たれた状況は村正にとっても好ましくなく、どうしたものかと考えた末なかなかいい案を天啓のように閃いた。


「あれだよ楓さん。僕がいた街の覚醒個体はもう討伐済みだから。魔石もとびきり大きかったんだ」

「……!! ……そうか、村正と共に戦った探索者は命を落としているから……いや! なるほど納得したよ。これなら戦闘は任せて問題ないな。先を進もうか!」

「……? はい」


 天啓のように思い浮かんだ村正の言い訳は彼の予想とは違う形で楓たちを納得させた、が、それに当の本人は気付いてない。


 ただ、村正を見る4人の目が変わった。


 楓は村正を案じるように、そして応援するような目に。

 右近左近は村正の防御力を知りいざという時に楓を託せられないかと思案を始めた。


 そして秋夏はというと。


──あの時、エロガキに突き付けた刃……きっと通らなかったに違いないのです。エロガキのくせに、後輩のくせに、秋夏より強い。避難民に対してだって、すごく割り切れてて……秋夏はお前がちょっと羨ましいのですよ。


 実力の差。

 性格の違い。

 そんな当然存在する村正だけの個性を見て、眩しいように眼を細めた。

 そしてその視線はそのまま隣を歩く楓のほうへと向けられる。

 気付けば瞳に宿る感情は、彼女に対する不安で染められていた。

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