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探索者になった。文明が崩壊した。  作者: 歌歌犬犬
第二章
19/25

第19話 〝らしさ〟

「覚醒個体の話をする。僕がいた、ゴブリンに支配されていた街の話だ」


 楓たちにこれまでの経緯、そこから得たものの話をすることにした村正はまずあのゴブリンキングを思い起こす。

 他のゴブリンとまるで別格の、正しく〝異質〟という言葉が相応しい魔物のことを。


 場所は楓所有の倉庫。

 時折ブラッドウルフが現れるもそれは右近左近が処理して進み、一同は村正の話に耳を傾けた。

 必要な物資を漁りながら、これから村正がなにを語るのかとまだ予想もついていない楓たちだが、それは彼の放った次の一言で無視できぬ興味へと変わる。


「覚醒個体ゴブリンキング……まぁ僕がそう呼んでるだけだけど。この街でいうところの血飢えの月下狼にあたる魔物があの街にもいた」

「「「「──!!」」」」


 それは青天の霹靂……とまではいかなくとも、街を出たことのない楓たちには知る由のなかった事実。

 その情報に4人は物資を漁る手を止め、誰からといわず村正へと目を向けた。


 楓が口を開く。


「村正、詳しく聞かせてくれ。君のいた街での出来事を」

「……まぁ、そう多く語ることもないんだけど。覚醒個体を倒したらダンジョンの支配権が貰えて、魔物もそれ以上生まれなくなったっていう、それだけの話だよ」


 楓の真剣な問いに、村正は1人物資を漁る手を止めずに返す。

 村正からすればなんてことない話だ。

 始まった頃はどうなるかなんてわからなかったが、今はもう終わった後。

 彼に言わせれば「昔こんなことがあった」程度のものなのかもしれない。

 事実村正は手に入れたダンジョンを置いて他所に遠征に来ているくらいだ。


 しかし勿論のこと話を聞いた楓たちはそうはいかない。

 資源溢れるダンジョンの支配権。

 魔物の生まれない街の誕生。

 覚醒個体という、それらシステムと関係する存在の出現。


 楓は参ったなという風に息を吐きだし、気分を紛らわすためか物資を漁る手を動かし始めた。

 それに習うように秋夏たちも物資漁りを再開する。


「それで、今の話だと村正はその覚醒個体を倒したのか? ゴブリンキング、と言っていたな。強かったのだろう? よく倒せたものだ」

「まぁ……知らない子の……おかげでね……ぐぎぎ……」

「……? あぁ、村正の他にも探索者がいたのだな。その者は今どこに?」

「…………」

「……村正?」


 何気ない質問。

 しかし村正からの返答がないことに楓は振り向いて彼を見る。

 その村正はというと俯いて歯ぎしりする音が微かに聞こえ、時折何かを追い払うように頭を振る。

 楓は、いやその場の秋夏と右近左近も含め、4人は村正のその姿に嫌な予感を抱いだ。


「む、村正、別に無理に答えなくても──」


 楓がそう静止の声を挙げるのと同時、村正は意を決したように答えを出す。


「知らない子は、もう遠く忘却の彼方だ。二度と再会することはないだろう。確実に。絶対に」

「む、村正……」


 村正の言葉を聞いて、楓たちは悟った。

 村正と共に戦った探索者は、その戦いで命を落としたのだと。

 歯ぎしりするのは悔しさを堪えるためか。

 頭を振るのは後悔や懺悔を追い払うためか。

 村正はその探索者を頑なに〝知らない子〟と呼ぶ。

 それはきっと戦友を思い出して苦しい想いに苛まれぬよう、村正のとる自己防衛なのだ。

 思い出されぬことに、楓たちは思うこともある、しかし。


「すべては時が解決するさ。いつか気持ちに整理がついたら、その者のことを思い出してやってほしい。それは村正、きっと君の力になってくれるはずだから」


 楓たちは優しい顔で、声で、村正の過去に寄り添った。

 楓のその言葉は村正の心を突き動かし──


──絶対、思い出さないねッ! あんな問題児一生封印だ!


 ……楓たちとは違う方向で、決心を新たにした。


 言うまでもないことだが、楓たちの悟りはすべて勘違いである。

 もっとも、村正も思考を鈍らせているので楓たちの勘違いに気付いてないため、その勘違いが正される日がくるのかは定かではない。


 押し黙った(ように見える)村正を気遣ってか、秋夏が誤魔化すように声をあげた。


「そ、そういえばエロガ……村正はどうしてこの街に来たのです? 折角ダンジョンを得たのに勿体ないと思うのです」

「う、うむ。安全なそこで少しゆっくりと休んでも良かったのではないか?」


 その声に我を取り戻した村正は、「あぁ」と顔を上げ、そのまま秋夏の呼び方に首を傾げ、まぁいいかと回答を出す。


「力がないと女神の気まぐれで死にそうだから」


 それはなんてことない返答だった、村正にとっては。

 そしてだからこそ、それを聞いた楓たちは微笑んで頷いた。


「らしいな。実に君らしいと思うよ」

「お前らしい生き様ですね、ほんと」

「出会って間もないというのに、しっくりくる答えですなぁ」

「うむ、納得である」


 と、やはり微笑んで、顔を合わせて笑い合うのだ。


 それが村正の〝らしさ〟であると。

 

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