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探索者になった。文明が崩壊した。  作者: 歌歌犬犬
第二章
16/25

第16話 〝奴〟の話

 その塔は、近くで見れば村正の思う数倍は大きく感じるものだった。

 和風なようで現代の高層ビルの面影もある巨大な塔。

 これなら例え避難民が1000人を超そうが余裕で収容できるだろうと予測を立てる。

 思った以上に大きな声で出迎えてくれるかもな、なんて遠回しな皮肉を内心で呟いた村正は、そこでチラ、と背中の泥棒袋を見た。


──これも没収だろうか。せめてダンジョンクルミだけでもキープしたいけど。


 中にはここのダンジョンで採取した木の実が多数、それ以外にも水の入ったクルミの水筒や栄養満点なダンジョンクルミがたくさんだ。

 村正はこれだけ大きな塔であれば必要な物資も相当な量になるだろうし、塔に入れば持っていかれるのではないかと危惧した。


「……塔の物資は足りてるのか? 世話になるといっても、ダンジョンクルミは手放したくない。補充に戻るのが面倒だ」

「あぁ……いや、そこは心配せずとも問題ないんだ。なにせ中には、30人ほどしか避難民がいないからね」

「30……? 随分と少ない」


 恐る恐ると尋ねるも、予想外に齎されたその数字。

 気になった村正はもっと尋ねようかと思った。

 しかしその前に前方で秋夏が「寒いから早く来るのです!」と声をあげたため、後でいいかと村正も楓たちに続く。


──崩壊が急であったにせよ、もっといると思ったんだけど。僕のいた街と違って避難する場所がこれ見よがしに存在するところなのに。……変なの。


 首を傾げながら入った塔の中は、なぜか明るかった。

 それに村正にはわからないがどうも暖かいらしいことが秋夏の様子から伝わってくる。

 そういえば塔に近づくにつれブラッドウルフと接敵しなくなったなと、関係ありそうな情報も思い出す。


「これは塔の機能?」

「ん? その説明はまだだったか。まぁ、機能の噂を知ってるなら話が早い。製作者があると言って確かめられなかった機能はすべて、今こうして稼働しているというわけさ」

「大きな魔石が必要と聞いたけど」

「そこは私にも謎だね。ダンジョン崩壊と共に機能し始めたらしいから、そこが関係してるとは思う。そのうち余裕ができたら調べてみるさ。この塔は生命線だから」

「ふーん……?」


 塔を上へ上へと昇る中で楓と話す村正。

 塔の機能がすべて効果を発揮するのならそれは確かに生命線かもしれない。

 魔物が跋扈する世界で魔物が寄ってこないというのは、それだけで力なき一般人からすれば希望の象徴だろう。


 だからこそ、塔にいる避難民は30人程度という楓の言葉が、村正にはわからない。


 上へと進む中で時折村正の視界に避難民らしき者達が映るのだが、その様子はなんというか〝怯え〟のようなものを感じさせる。

 1人2人ならいざ知らず、出会う者たち皆がその反応を同じとするのだから、不思議を通り越して困惑もする。

 しかし楓たちの人となりを見た村正には彼女たちが圧制を敷いているとも思えず、またそんなことをする意味すらないことも承知している。

 この崩壊世界で一般人は探索者の助けなしに活動するのはかなり厳しい。

 しかし逆はないのだから。


──……まぁ、避難民の声が大きくないのは、ありがたいことだけど……。


 内心を悶々とさせながら、村正は街を見渡せる塔の上層へと迎えられた。


「部屋は見ての通り有り余っている。好きなところを使ってくれ。避難民たちも、()()()()()()()()()()()()()()。そっとしておいてくれれば問題ないよ」


──人が良いのにそっとしておくってなんだ。


 楓の説明に村正は内心そう突っ込むも、それを言葉にはしない。

 塔の内部から楓たちに目を移して気付いたのだ。

 右近も左近も秋夏も、腫物でも扱うように避難民を見ていると。


 楓たちのこの対応、塔の大きさや機能の割りに少ない避難民、そしてその避難民の怯えの様子。


 村正は当初予想したものとはまるで違うが、やはりこの場所には問題しか感じなかった。


──覚醒個体の情報を得たら、早いとこ出よ……。


 やはり外でブラッドウルフに噛まれながら寝ていた方が余程マシであると、ここに来て村正は確信した。



「さて、では私たちが警戒する〝奴〟の話をしようか」


 部屋を確認し、設備や物資状況を見せてもらった村正はホールのような場所で腰を落ち着かせた。

 前には楓とその膝に秋夏。

 右近左近は相変わらず横で控える構えのようだ。


 ようやく知りたい話を聞けるとなって村正の姿勢も正される。

 これ見よがしに存在する塔内部の問題など村正は御免被る。

 そっちはそっちで勝手にやってくれと切に願う村正は、この情報交換の場をオアシスのように感じた。


 楓が最初に口を開く。


「あれは血飢えの月下狼だ」


 その表情は、悍ましいものでも思い出すかのように歪んでいた。


「最初に奴を見たのは満月の夜だった。崩壊後、初めての満月だ。その夜は月が紅く、いつもと違う空気を纏っていたよ。その異質の元凶を確かめんと塔から街を観察し、そこで見てしまった。白銀の巨狼がブラッドウルフを天に掲げ、噛み砕き血を浴びているのを。……毛並みは幻想そのものさ、あの狂気に満ちた紅い瞳さえなければ、天からの遣いだと信じていたほどにね」


 そこで一旦ふぅっ、と息を吐いた楓は、一口水を口に含んだ。

 その手が秋夏の頭を執拗に撫でまわしているのは、恐怖や嫌悪感を誤魔化すためであろうか。

 楓の話す様子から、村正はその血飢えの月下狼が敵わない相手であると、彼女たちが認めているのを見て察した。


 コップを置き、まぁ、と楓は続ける。


「月下狼が現れるのは満月の夜だけだ。他にも出現条件があるのかもしれないが、私たちは知らない。それに現れても月下狼はその場でブラッドウルフの血を浴びるのに夢中だから、下手に刺激しなければ問題はないんだ」

「……あぁ、あの一ヶ所に集中した魔石はそういう」


 楓の説明で、村正はここに来る前に見たあの1000を超える魔石の山を思い出した。

 なぜこんな一ヶ所で、なぜ誰も拾わない、と疑問はあったが、それもこの話で納得する。

 そりゃ例え満月の夜しか現れないと思っていても、なにが条件かわからないのに拾いになんて行きたくないだろう。

 少なくとも今村正の目の前にいる楓という女はそういう判断をする探索者だった。


 しかしここで村正は1つ新たな疑問を抱く。


「楓さんは弓を使うんだろ。塔からペシペシ射ってれば勝てるんじゃないのか?」


 それはこの塔の製作者が言ったとされる、機能の一部を利用した狩り方。

 塔には魔物は近寄れない。

 また塔には魔物の攻撃に反応する結界が張られている。

 それら機能を利用すれば、遠距離で戦える楓なら上手くいけば狩れるのでは、と村正は思ったのだ。


 しかしその話をした途端、楓たち4人は顔を曇らせた。


「あ、いや。できたらもうやってるよね。忘れてくれ」


 その様子を見て、これは月下狼とは関係ない部分で地雷踏んだと悟った村正は急ブレーキをかける。

 だが時既に遅し。

 楓は、寂しいそうな顔で塔の機能の不完全さを教えてくれた。


「塔に魔物は近寄れない……結界が張られているから魔物の攻撃も怖くない……それらはすべて、限度があったんだよ。ここのブラッドウルフでも時折接近する個体は出てくるし、結界に関しても強力な個体なら容易く突破するだろうね。この塔は立派だけど、造ったのは神ではなく私たちと同じ探索者だ。限界もまた、私たちと同じということさ」

「そ、そうなんですね……」


 楓の辛そうに語る姿を見て、村正も思わず敬語になる。

 そんな辛いなら無理に喋らなくても、と思うも、この情報はかなり重要だった。

 要するに塔も完全な安全圏というわけではないようだ。

 楓たちが辛そうに語る背景になにがあるか村正は知らないが、どうせ塔内部の問題と直結するんだろと敢えて深く聞くことなんてしない。


 つまるところ、血飢えの月下狼が現れる満月の夜は外出せず、塔の中で嵐が過ぎ去るのを待ってようという、そういう話だと村正は理解した。

 むしろ満月の日以外外で自由に活動できるなら万々歳だと、村正は楓たちの話に承諾する。


 だから頼むから、塔内部の問題はこっちに持ってこないでねと、願掛けを行いながら……。

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