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探索者になった。文明が崩壊した。  作者: 歌歌犬犬
第二章
15/25

第15話 村正の特異性

 秋夏の猛抗議も落ち着いた頃、時刻はもうじき夕暮れ。

 ただの自己紹介を済ませるだけで大分時間が経ったものだと村正は苦笑する。

 もっともその苦笑も、結局脱ぐことのなかったアーマーによって隠れて見えはしない。

 だがもしその顔を見られていたなら、誰かしら「楽しかったか」と別の視点でものを言ったことだろう。


 そんな時間ももう終わり。

 村正はこの先は楓たちと別れて行動するべきだと考えていた。

 楓たちがこの街で活動する発言力ある探索者であろうと、避難民の数による声というのは思いの外大きい。

 実際避難民がいるかどうかは確かめていなかったが、この状況ならいないはずもないだろうと村正は前提に置いている。

 邪推云々を抜きにしても、わざわざそんな魔窟に跳びこむのは嫌だと。

 まだブラッドウルフに噛まれながら寝ていたほうが100倍マシであると、本気で考える男が村正であった。


 故に楓から当然のように提案される誘いを、村正は拒絶するつもりでいる。


「もう暗くなるな。電気もなくなった今では太陽が活動の基準だし、私たちは塔へ戻ろうと思うのだが村正も一緒にどうだろう?」


──きた。


 人の良い楓なら必ずしてくると思った提案がきたことに、村正は少し身構える。

 完全に善意で固められた提案を拒絶するということに、一定の罪悪感でも感じているのかもしれない。

 崩壊の前日、担任教師から脅されたあの1件も、本当は自分を想っての善意100%であると村正は気付いていたが、エロ本という相棒の関わる話、拒絶も簡単だった。

 だが今回は拒絶するにそれらしい理由もないのだから、ともすれば幸せなお胸とさよならするのだから悔いも残ろうというのに果たしてこれでいいのか?


「僕は塔へは行かない」


 深く思考する前に、村正は確定事項を述べた。

 きっと深く考えても答えは一緒だろうと思うことにして。

 それに楓が提案した時から秋夏が騒いでいるのも、村正の拒絶に一役買ったかもしれない。


「楓様が好意で提案してるのに拒絶とか、エロガキまじ死ぬといいです」

「お前はいったいなんなんだこのクソガキが」


 楓の提案を聞いて真っ先に騒ぎ立ててた人物の掌返しに流石の村正も困惑を隠せない。

 困惑と一緒に罵倒するのはもうこの2人の間では挨拶みたいなものである。


「まぁまぁ2人とも。始めから村正が塔へ来るのは確定事項なのだから、そういちゃいちゃしてくれるな。私はまだ独身なのだぞ?」

「楓様っ!」

「……確定事項にされても困るんだが……」


 空気を入れ替えるようにふざけた調子で泣き真似をする楓に、秋夏は怒りを露わにし村正はたじろぐ。

 だがそんな和やかな空気も瞬時に真剣な表情へと変わった楓の一言で吹き飛んだ。


「時期が悪かったんだよ村正。もうじき満月……()が現れる」

「……奴」


 出会ってから一番の真剣みを帯びた言葉に、右近も左近も、それまで騒いでいた秋夏ですら神妙な顔で黙り込む。

 その様子、楓の言葉を聞いて、村正は察した。


──これ覚醒個体の話だ。


 と。


「詳しく話をしたいがもう日が暮れる。共に塔へ行こう村正。これは知っておいてもらわねば、私たちの身の危険にも繋がる話なんだ」

「……わかった」


 この空気の中でそんなことを言われては、流石に村正も断ることはできなかった。

 それに楓たちは覚醒個体に関して何か知っている……それを認めた村正にしても情報は多いほうがいいと、一行は揃って塔へと向かう。


 その道中、ブラッドウルフとの遭遇でわかったことがある。

 楓たちの戦闘力だ。


──秋夏が索敵と遊撃。後方より楓さんが弓で援護。右近と左近で前線を維持、か。よく連携の取れたチームだな。けど……1人1人の力量は目立ったところがない。これはダンジョンショップの関係だろうか?


 下手に戦闘に加わると連携が乱れると、村正は手を出さずに戦闘を観戦している。

 それで思うのは、みんな普通だということだ。

 楓の弓も、右近左近の槍も、秋夏の忍者っぽいなにかも。

 戦い方に幅はあるものの、村正のような特化したそれではない。

 きっとこれが『戦士』であるか『装備』であるかの、ダンジョンショップの違いなのだろうと村正は悟った。


 恐らく楓は弓使いかなにか。

 右近左近は槍使いだろう。

 秋夏は格好や行動からして忍者だと思われる。


 これらのダンジョンショップの特徴は戦い方を〝買える〟ということだ。

 弓兵に必要な視力。

 槍を扱うための武術。

 忍者として必要な立ち回り。

 それらはすべてダンジョンショップにてポイントと引き換えに購入できる。


 崩壊前の世界でそれらを身に着けていた者など少ないだろうが、ダンジョンショップがあればすべて解決する。

 だからこそ探索者として『装備』より『戦士』のダンジョンショップが当たりだと言われ続けていたのだ。

 実際剣ショップを得た者はそれを扱う素の人間が貧弱で探索者として大成できなかったという実話もある。


──僕のアーマーショップは、今考えるとかなり異質だ。


 これまで周りと比較する機会もなかったから気付かなかったこと。

 だが一度考えれば村正は違和感しか感じない。

 身に纏うという意味でアーマーなのか、村正のダンジョンショップは鎧とは違う。

 それを楓たちの戦闘を見て村正は知ったのだ。


「うぅ、大分冷えてきたのです……」


 そんなことを考えているうちにいつの間にかブラッドウルフは倒され、戻って来た秋夏がそんな弱音を吐いた。


「軟弱なんだなクソガキ。いい気味だ」

「ぶっ殺すっ」


 戦いの第2ラウンドが始まろうとするのを楓が抑え、逆に村正に問いかけた。


「村正は平気そうだな。やはり全身をそのSF鎧で包んでいるからか?」

「あぁ……体温調節機能が付いてるから」

「はぁ!? なんなのですそれは! エロガキのくせに生意気ですっ!」

「クソガキのいうことはわけがわからないね」


 と、楓の質問に答えつつも、これもアーマーというには飛躍した機能だなと村正は思う。

 やはりアーマーショップ、女神から与えられた『魔石ポイント変換率10倍』と合わせなにかありそうだと村正は邪推した。


「……というか、薄着でいうなら楓さんが一番寒いのでは?」


 思考を切り替えるように楓の胸部に目を向ける村正。

 そこはサラシで巻かれただけの肌色が露わになっている。


 そんな村正の問いに楓はなんでもないように答えた。


「これくらい名家の生まれならなんともないさ」

「すごいんだな名家」


 村正の思う名家はお淑やかとか高潔とか意識してそうだったが、実態は武者修行のような過酷さを求められるものだと知って村正は慄く。

 自分の生まれなど大したことなかったのだと恥じ入った。


「……楓様は特殊なのです……」


 秋夏の呟きは、戦慄に震える村正には届かない。


 そんな他愛ない会話をするうち、遂に村正は警戒の場、塔へと辿り着くのだった。

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