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探索者になった。文明が崩壊した。  作者: 歌歌犬犬
第二章
14/25

第14話 崩壊後に生きる者達

 ダンジョン前から連行される村正。

 しかし途中、前を行く女が立ち止まり思案の様子を見せた後、手近で形も大分残っている一軒家を見て指を差した。


「塔に行くと言ったばかりですまないが、あの家で一旦話をしようか。簡単な自己紹介だけでもな」

「「御意」」


 女の言葉に左右の男たちが真っ先に反応する。

 彼女の言葉は自分に向けられたものでは? と村正は思うも、特に反対意見もないので素直に従う。

 それに話し合いをするなら正面から彼女を見れるはずだと期待もしていた。


 一軒家に入った村正たちは、その辺の椅子や机を引っ張って座り込む。

 いや座ったのは女と村正だけであり、左右の男たちは女の横に移動して立ったまま控える構えのようだ。

 机の上に胡坐をかいて座った村正は、上からの眺めに何度か頷きつつ女の言葉を待つ。

 村正も無意識のうちだが、場の主導権は女のものであると認めていた。


「さて、では自己紹介からだな。私は古鳴楓。これでも名家の生まれなのだが今となっては存続も怪しいものだ。気軽に楓と呼んでくれていいよ」


 ガタタッ、と何処からか音がする。

 その音に村正は首を傾げながらも、それじゃ楓さんと、と至って普通に名前呼びを了承した。

 再度ガタタタッ、と何処からか音が聞こえた。


「右近です」

「左近です」


 続いて楓の横で控える男2人が自己紹介をした。

 名前だけのシンプルなもの、更にいえば偽名くさい。

 そんな考えが伝わったのか、右近と名乗ったほうが補足をする。


「我々の名は楓様に仕えると誓った際、主家より襲名したものでございます。生まれた時の名でこそありませんが、この名こそが我々の真の名です」


 右近の言葉に左近も横で無言で頷いている。

 どうやら楓のいった名家生まれというのも相当なものらしいと村正は悟った。

 名家のお嬢様がなんて大胆な格好を、と思うと湧き上がるものもある。


 さて目の前の3人が自己紹介を済ませたなら次は自分の番なのかと、村正は少し間を開けて口を開く。


「佐々木です」

「下の名を教えて欲しいな」

「村正」

「ふむ、やはり知らない名だ」


 当たり前だろと村正は内心で突っ込んだ。

 自分みたいな毒親に育てられた人間が名家のお嬢様に知られてるわけもないと。


 そんな村正の考えを読んでか楓は「あぁ」と溢してから説明をする。

 先程から人の考えを読むのが好きな連中である。


「先程も言ったが、我が家は名家だからな。私が探索者であることもあり日本在住の探索者名簿一覧は把握しているつもりなんだ。危険因子からなにまで、ね」


 と、楓はウインク付きで軽く語る。


──個人情報の扱いどうなってるんだ?


 それに対し村正がかつての探索者協会に不信感を抱いたのは言うまでもない。

 しかしそれなら崩壊と同時に探索者となった村正の情報を知らないというのも当然のことだ。

 楓もまた先程のダンジョン前での問答を覚えていたのか、村正に対して「崩壊と同時に探索者というのは、祝福すればよいのかなんとも微妙だな」と苦笑いを浮かべていた。

 村正からすればその力なしに命はなかったのだから歓迎したことであれど、それをわざわざ口にして祝福を媚びるような真似はしない。

 村正は目の前の楓という人物が悪い人間ではないと感じてはいるものの、未だそのアーマーを脱ぐ様子はない。

 要は下手な馴れあいは不要と、無意識の部分でストップをかけているのだろう。


 そんな村正は先程から気になっていたことを訊ねる。


「楓さんたちはいつも3人で行動を?」


 それは暗に、まだ誰か近くに潜んでんだろと聞いているも同然だった。


 村正の問いに笑みを深くした楓は、「警戒心が高いんだね」と誰に語り掛けるでもなく呟いてからその名を呼んだ。


「秋夏。()()()()()


 それは静止の声。

 村正が潜む誰かを指摘したその瞬間から、村正は首筋に一本の短刀を押し当てられていた。


 後ろにいるのは何者か?

 それをゆっくりと考えられるくらいには、村正には余裕がある。

 首筋に当てられた刃の感触から、「あぁこれは貫通できないな」と、最近魔物相手に余裕の基準にしがちな考えを即座にしたためであった。


 それを後ろの何者かも察したのか、それとも主君であろう楓の静止に頷いたのか、舌打ちをしてから短刀を離す。


「秋夏。おいで」


 楓が、村正にも右近左近にも見せない優しい顔と声音で手招きをする。

 それに応えるよう、小さな影が村正の横をトトトと通り過ぎた。

 そして楓の膝の上でちょこんと座る。

 それは村正より更に2つは年下、もしかしたら小学生ではないのかという幼子。

 そんな幼女が、楓の膝の上で村正をきつく睨みつけていた。


「エロガキ。楓様に近づくな。エロガキは万死に値するのです」


 飽き足らず、容赦のない罵倒を村正に浴びせる。

 楓はそんな幼女をよしよしと頭を撫でて可愛がっていた。


「楓さん。なんですそのクソガキは」

「あ?」

「この子は秋夏。私のかわいい、妹のようなものだ。少し口が悪いが悪い子ではない。許してやってくれ」


 村正のクソガキ呼びも秋夏と呼ばれた幼女の低い声も無視し、楓は幸せそうな笑顔で秋夏の頭を撫でまくる。

 撫でられる秋夏も村正を鋭く睨みつけながら、抵抗する様子はまったくない。

 村正は怒り心頭だ。

 楓のお胸の部分にちょうど秋夏の頭がある。

 見えないという意味でもそこ代われという意味でも、村正は怒り心頭なのだ。


「クソガキが……」

「エロガキ死すべしなのですよ」


 ここに対立の様相が完成した。

 されど楓含め他3人は大人の視点から「やっと秋夏に歳の近い話し相手ができた」と生暖かい目で見守るのみ。

 鋭い言葉の応酬を止める気はまるでないようだ。


 しばし秋夏とぶつかって馬鹿らしいと思考を切り替えた村正は、今なら聞いても問題なかろうと楓に対し質問をした。


「楓さんたちは探索者になって長いのか?」

「お前よりはずっと長いですよ。だから敬語使えばーか」


 首後ろを撫でて立ち上がろうとする村正を押しとめるように楓が即座に答える。


「実はそう長いわけでもないんだ。1年以上活動しても辿り着いたのはCランクまでさ。それより上……最上位のAランクダンジョンで活動するような探索者たちは皆、命を落としているからもうあまりいないんじゃないかな」

「……? どうしてAランクで戦えるような探索者が? むしろ生き残ってそうなものだけど」

「……Aランクダンジョンは出現する一体一体が街を滅ぼせる怪物ばかりでね。その分ダンジョン内では遭遇率が低いから活動できたのに、崩壊で大量に溢れ出したから。彼らは誇り高く戦った。街の者を守るために。そして誰も生き残れなかった……というわけさ」


 そう語る楓を見て、村正は失敗したなと気付いた。

 やけに情報に厚いからつい聞いてしまったが、崩壊した時点で真っ先に連絡をかける相手がその街にいたのだとしたら、それは知っていて当然だ。

 そして楓の顔を見て生き残れなかったのは探索者だけではないだろうことも、また察してしまった。


 膝の上の秋夏が冷え切った目で村正を見つめる。

 これに関して言い訳もできない村正は気まずそうに横を向き、なにか別の話題がないか必死に考えた。

 しかしこういう時に限ってなかなか思いつかない。


 そんな2人を見てふっと笑った楓は、努めて明るい表情で村正に話しかけた。


「君こそゴブリンのいた場所で他の探索者を知らないか? 例えば天に届く閃光の君──とか」

「知らない子ですね」


 気まずい空気から一転。

 村正はすべての思考を放棄してもはや反射のように即答した。

 胡乱気な視線が秋夏から届く。

 しかし村正も記憶の彼方へと封印した問題児のことを誰かに話すつもりなどない。


 ヤクザでももっとマシな視線を寄越すぞとばかりの秋夏の眼光を前に、村正も意図して無視を決行する。


「エロガキ死ねばいいのです」

「クソガキはずっと潜んでろ」


 また言い争いを始めた2人を見て、楓は静かに内心を溢す。


「やっと秋夏にも春が来たかな」


 瞬時、秋夏より猛抗議が入ったのは言うまでもない。

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