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探索者になった。文明が崩壊した。  作者: 歌歌犬犬
第二章
12/25

第12話 痕跡

 言うまでもないことだが、この地は村正にとって知らない場所だ。

 いるかもしれない覚醒個体に警戒はしつつも、魔石を集めるためブラッドウルフと戦う村正には1つ心配事があった。

 それは、この地には避難生活をしている一般人が残っているかも、というものだ。


 襲い来るブラッドウルフを無傷で返り討ちにした村正は、魔石を拾った後その先で見えるものに目を向ける。

 先、といっても大分遠い。

 だが遠くとも見えるものが、村正の視線の先にはあるのだ。


 塔。


 それは塔だった。

 日本の城をデザインのベースにしたのか、縦に高く聳えたつその塔は五重塔が一番近い例えになるだろうか。

 しかしその五重塔よりも更に高く、高く聳えるそれは東京タワーほどではないにしろ大きい。

 それが、この崩壊した文明の中でも揺るぎなく残っている。

 それはむしろ当然なのかもしれないと、村正は思う。

 なぜならあの塔は、そのために造られた建造物のはずなのだ。

 村正と同じ探索者によって、もう90年も前に造られたと聞いている。


 村正が始めゴブリンの出現を前に祈ったことがあったように、ダンジョンショップには大きく分けて戦闘系と生産系がある。

 その塔は生産系のダンジョンショップを得た探索者によって造られた。


 村正もその塔のことは……というか、ああいった生産系探索者によって造られたもののことは流石に知っている。

 文明が滅ぶ前は学校の授業でも語られたことなのだ。


 曰く、最後の砦。


「……そう言われていたのはダンジョンが現れたばかりの最初期だけだったのにねぇ。今になって本当に最後の砦になってそうだ」


 そう言って村正は塔から目を離し、再度ブラッドウルフを探しながらその塔より遠ざかった。

 人類がまだ女神を信頼できていない頃の遺物だとか言われたらしいが、そういった背景に村正は興味がなかった。

 ただ覚醒個体とは別の意味で警戒しているのだ。

 ああいった建造物はかつて最後の砦と言われるだけあって、その堅牢さは折り紙付きだ。

 また特殊な力を有する探索者が造っただけあり、なにやら真偽不明の機能も備わっているらしい。


 魔物を寄せ付けないだとか。

 魔石があれば電力もなにも必要ないとか。

 見えない結界が実は張られているとか。


 造った本人たちがそう主張するのだからあるのかもしれない。

 だが悲しいことにそれらはすべて機能の有無を確認されることはなかった。

 この文明崩壊に至るまで、魔物はダンジョンから出てこなかったこと。

 魔石は探索者にとって貴重な戦力向上のアイテムで、またランクの低いものだと意味がないという問題も抱えており。

 見えない結界は魔物の攻撃にのみ反応すると語られたということもあり。


 結果、ダンジョン出現の最初期に造られたそれら建造物は、少しだけの間最後の砦と讃えられその後は……わざわざ語るまでもないだろう。


 そんなかつての最後の砦が、今こうして崩壊した世界でそこだけなにもなかったかのように立っている。


 最後の砦は、健在だったのだ。


「こんなもの建てるとは女神への背信行為だなんだと騒がれたこともあったらしいけど、100年の後にはあの塔が正解だったと証明されたわけだ。真偽不明のあれやこれやも本当なのかも」


 村正は今はもう寿命でいないだろうかつての先達たちに敬意を抱きながら、やはり塔から離れるようにブラッドウルフを狩り続けた。

 せっかく女神でない人間の用意した〝避難所〟があるのに、村正は向かわない。

 というより、それは〝避難所〟であるからこそ向かわないのだ。


 ゴブリンキングのいた場所と同じである。

 村正は、自分がいいようにこき使われるのが嫌だった。

 ともすれば自分だけのダンジョンを獲得までしているのに、今更安全な場所でぬくぬくしていることに魅力も感じないと。


 結果、村正はこの街のシンボルともいえるその塔を忌避し、いるかもしれない避難民との接触を避ける道を行く。


「ここら辺には覚醒個体も来ていないのかな……?」


 幸いなことに、先程村正が見た一ヶ所に集中して落ちる魔石らはあの場所以外には見つからなかった。

 それはつまり覚醒個体の活動範囲があの一ヶ所だけだということになるが、それを考えると益々わけがわからないと村正は首を振る。


「そりゃあれだけの数が落ちるくらいあの場所にいたんだろうけど、今はいないし。そもそも覚醒個体って魔物を殺すのか? キングはむしろ統率してたけどな……」


 結論、なにもわからない。

 それが村正が今出せる最大限の答えだった。


 だがあの一ヶ所が少なくとも根城ならばと、村正は塔とその根城を避けて行動するだけだと決める。

 あの1000を超える魔石の数々は村正も惜しいと思うが、命あっての物種だ。

 それを理解しているからこそ、村正にあの場に戻るなどという選択肢はない。


 ないのだが。

 散策を続けるうち、村正はまたも見たくないものを見つけてしまう。


 今日はよくなにかの痕跡を見つける日だと、村正はヤレヤレと首を振った。

 今回村正が見つけたものは覚醒個体とも、避難民とも警戒の色を別とする痕跡。


 それは矢だった。


 こんなものを使う人間がこの時代にいるだろうか?

 いる。

 いうまでもなく探索者だ。

 その矢は折れてもいないし汚れてもいない。

 また家屋の壁に突き刺さっていることからも、文明が崩壊した後に放たれたもので間違いないだろう。


 つまりこの街には覚醒個体と避難民の他に、探索者までいるかもしれないということになる。

 選り取り見取りじゃないかと村正は笑う。

 そのどれもがまだ存在をその目で確認しているわけでもないので、いるかもしれないという憶測に過ぎないのだとは村正もわかっている。


 だが一ヶ所で魔物を殺し続けているらしい覚醒個体。

 堅牢で最後の砦とまで言われた塔。

 Dという比較的低いランクで、危険度が小さい魔物しか出現しない街。


 かなり好条件だ。

 この崩壊世界においては良物件ではなかろうかと村正は思う。


 いるかどうかわからない?

 この場所で誰もいないならもうどこにも人類はいないだろうなと、村正は確信していた。

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