第10話 思わぬ戦利品
装備を一新した村正。
彼は一頻りバトルアーマーの動きや性能を確かめた後、「さて」と一言呟き気分を切り替えた。
「武装一体型アーマーか……。せっかく提示された攻撃手段だけど、これに飛びついていいものか。いつまでも知らない子の自爆に頼ってたらいつか狩り残しであっさり死んじゃいそうだけど、こっちはこっちで高いのなんの」
とは言いつつ、商品項目のページを漁りまくる村正。
確かに高価とはいえ、村正はまだあのロマン溢れる武装一体型アーマーの獲得を諦めてなどいない。
それは戦うためというより、娯楽の1つに近いだろう。
勿論手に入れば戦闘力は飛躍的に向上するだろうが、だからといって戦闘狂になるような性格を村正はしていない。
ただかつての生きる術がエロ本であった頃同様、生きるための精神的栄養というのは彼にとって求めてやまないものなのだ。
そういう意味では、村正はこの状況においてもエロ本を欲している。
性欲が強いのではなく、見ていると興奮するからだと本人は宣うが、そこを深く突っ込むのも馬鹿らしいと真相は闇の中である。
つまるところだ、村正にとってロマン装備を獲得するため動くのは精神的にも実利的にも望まれる行動指針であった。
ただそうするとこの地域を出て隣町まで遠征に行く必要が出てくる。
キングが消え復活するかどうかも定かでない今、ここいらにいるゴブリン程度では既に大したポイントにもならないからだ。
目指す隣町に存在するダンジョンの危険度はD。
ここがFランクダンジョンなので少し危険度は跳ぶが、今の自分ならなんとかならないことはないだろうと村正は考えている。
結局、悩んでいるフリなどしながらも村正は隣町でどう動くかを思案しているのだ。
精神的に暇を感じると何をするかわからない上、ここで引きこもっていても女神の気まぐれでいつ死ぬかもわからない世の中だと村正はもう知っている。
それは生きるために、更なる装備の高みを村正は望む。
目標は決まったも同然で。
ならばと村正は移動する前に近場のゴブリンダンジョンへと足を踏み込もうと歩を進めた。
というのも中の状況も気になるが、ここ最近で食料問題も気になり始めているのだ。
ダンジョンの食料資源を当てにできないかという思惑である。
もとよりダンジョンとは資源に溢れた場所だ。
場所によって得られる資源は異なるとはいえ、食料の1つや2つどこも見つかるだろうと村正は期待した。
ゴブリンダンジョンの中は洞窟型で、壁に生えたコケが光ってある程度の明かりは確保できているようだった。
ゴブリンとの遭遇率は疎らで、キングのような村正を脅かすほどの強敵は出現せず、装備が強化されたこともあり難なくダンジョン内を村正は進む。
今のところただただ洞窟が続くだけだが、資源の中には鉱石類もあると知っている村正はきっとここにそれがあるんだろうと思いつつ、採掘する必要性は感じていなかった。
今求めているのは食料、加工で躓く未来しか見えない鉱石類など現状必要ないと村正は奥へ奥へと進む。
1分、10分、30分と洞窟型ダンジョンの中を彷徨うが、村正が食料資源を発見することはなく。
ともすれば迷っていた。
「出口はどっちだ……いや、食料はどっちだ」
退屈なプライドを垣間見せながら村正は壁に手を当てる。
この壁はさっき見たことがあるような気がする、などと呟きながら右手を壁に当て先を進む方法を取ることにしたようだ。
学校で誰かが話しているのを聞いた覚えがあるだけのやり方だったが、とりあえず村正はこれで良しと1歩を踏み出すことにする。
いや、踏み出そうとして、やめた。
それは手をついた壁が発光を始めたからだ。
「な、なんだ……?」
発光は始めに紋様のようなものを描き、次いで縦長の長方形を紋様を中心として描いた。
洞窟の壁、という一面を除けば、それは客観的に扉である。
「でもドアノブもなにもな──」
い、とは続かず。
最後まで言う暇を与えられないまま、村正は謎の発光扉の中へと吸い込まれた。
◆
村正の眼前にでかでかと表示されるテロップ。
またこのパターンか、と村正は瞼を開けた先で見えたものに溜息を吐く。
そのテロップの内容を見る前に辺りを見回すが、そこは四方を純白の壁で覆われた狭い一室だった。
そして中央にこれ見よがしに存在する台の上の宝玉。
台には優美な装飾が施され、透き通る青の宝玉と相乗効果を齎すような配色も成されている。
──綺麗だ。
素直に、村正はそう思った。
視界の端にでかでかと表示され続けるテロップがピカピカと自己主張をしていなければ、ずっとその満たされる余韻に浸っていただろう。
荘厳な装飾もこれでは台無しだなと村正は呆れながらいよいよテロップの中身へと視線を向ける。
視線を向けると同時にピカピカ主張していたそれは消え、どうぞ読んでくださいと言わんばかりに大人しくなる。
まるで見られているようでちょっと不気味だ、と村正の警戒が強くなった。
肝心のテロップの内容はというと。
『ゴブリンの覚醒個体撃破おめでとう! このダンジョンの支配権は討伐者である佐々木村正に譲渡されました!』
という、インパクトレベルの高いもので。
村正は頭を抱えた。
「ど、どういうことだ? 覚醒個体はあのキングで間違いない、として。ダンジョンの支配権? 僕がここを貰えるのか? それは……破格だな? 本当にいいのか……?」
このテロップの情報、村正に言わせればインパクトレベル3はあるだろう。
ダンジョンとは資源溢れる場所だ。
それが丸々村正のものになると言われれば、破格も破格、女神の冗談を疑いたくなるのも当然だった。
文明が崩壊したと同時、人類が築き上げた生産ラインと物流ラインもまた蹂躙された。
村正がここに食料資源を求めやってくるくらいには、今の世界で資源を得るというのは生易しくない。
外で活動しようにもそこは魔物の天下だ。
ダンジョン内部などアクセス許可紋なしに入れるかどうかも怪しいというのに、そこを村正という個人が手に入れたというのは人類にとって希望なりえる情報だ。
覚醒個体とされる魔物を倒せば、ダンジョンが手に入る。
それは新たな文明への兆しか。
村正は文明再生にそこまで興味があるわけでもなかったが、できるかどうかだけは確認したいと支配権とやらの詳細を求めた。
試しにテロップを触るもページが動くということはなく、次いで村正は台の上の宝玉へと目を向けた。
恐る恐るそれに触れる。
瞬間、膨大なダンジョン支配権に関わる情報……否、それだけでなくこのダンジョン内でできるすべての情報が村正の頭に流れ込んできた。
ここより魔物はもう生まれないこと。
ダンジョン内の精密な地図。
得られる資源の一覧。
ダンジョン内への通行の制限。
今は利用不可とあるが獲得ダンジョン同士を繋げるなんてこともできるようだった。
すべての情報をごく短時間で理解させられた村正。
ゆっくりと頭に手を当て、これが夢じゃないことを確認するように深呼吸をする。
再度頭を上げた時、先程と変わらない光景があることに、村正は歓喜した。
「本当に破格だ。文明滅ぼしといてこれとは、女神がなにしたいのかはわからないけど僕にとっては嬉しい誤算だよ」
今の村正には求めていた食料資源がダンジョンのどこにあって、どう行けばいいのかもわかっている。
水資源もあるようで、村正はそもそも存在しないなんてことがないことに安堵した。
「あとは通行制限か。魔物の出入りは全拒否でいいとして、人間は……事情を知らない奴に制圧とかされたら面倒だ、これも拒否でいい」
ああだこうだとダンジョンでできることを纏めていく村正。
通行に関して彼は他者を無条件で信じるなどできない性格なため、この先誰かと出会うことがあればそのときに人間性を見極めればいいだろうと消極的に判断した。
その後しっかりとダンジョンで食料資源を確保できることを確認した村正は、そこでふと立ち止まる。
「安全なマイホーム、か……」
それはこの危険に満ちた崩壊世界で、外への探索を行うのかどうか、村正を悩ませた。
1つ壁の蔦にできたクルミのような拳大の実を捥ぎ、バトルアーマーの頭部を開いて中身を食べてみる。
味はしないが、腹は膨れるし得た情報によればこれ1つで各種栄養満点らしいと知っている村正。
このダンジョンに他の食料資源がないことも合わせて思い起こした後、彼はこう思うのだ。
──精神的栄養だけは、満点の真逆だな。
ダンジョンクルミ(村正命名)をしっかり完食した後、彼は行動を開始する。
どうせ女神の気まぐれでいつ終わるかもわからないマイホームなど執着するだけ無駄、と村正は切り捨てたのだ。
物資を集め、布に包む泥棒スタイルで遠征への準備を完了させる。
「目指すは隣町。狙う獲物は──ブラッドウルフ」
ロマン溢れる武装一体型アーマー。
それは村正にとって求めてやまないもの。
精神的栄養は満点で、それは生きるために必要だと彼は豪語する。
「でもエロ本も欲しい……」
生きるだけに飽き足らず。
人間の欲望は、留まることを知らないらしい。




