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クロユキ姫と七人の異世界恋人  作者: 水上栞
第二幕 ◆Grumpy(おこりんぼ)@獣人の王子ユリウス
9/12

■第二話 えっ、ズボンに隠れた◯◯◯を見せてくれるの?


 それからユリウスは、私の街に約半月ほど滞在した。その間、彼は大雨で壊れた橋の修復を手伝ったり、孤児院の子どもたちに体術を教えたり、貧民街の炊き出しに参加したり、この街に多大なる貢献をしてくれた。旅の荒くれ者に見えても、やはり心根が王族なのだ。私はそんなユリウスにくっついて回り、さらに彼の素晴らしさを実感した。


 そんなある日。ユリウスがまるで天気の話でもするように、欠伸をしながらこう言った。


「俺、そろそろ行くわ。お嬢、世話になったな」


 ああ、とうとうその日が来ちゃったか。仕方ないよね、彼には帰るべき場所がある。しかしこの街の記憶が、ユリウスにとって単なる旅の思い出になってしまわないよう、私は出立間際の彼に駆け寄った。


「ユリウス、私が大人になったらお嫁さんにしてくれる?」


 予想では、笑い飛ばされると思っていた。それでも、あと何年かしたら家出してでも押しかけ女房になるつもりであった。ところが彼は予想に反し、あっさりとこう答えたのだ。


「おう、もちっと色気が出たら来いや。いつでも嫁にしてやるぜ」


 なんと、まさかの即OK。しっかり言質いただきました! それを見ていた両親は、ユリウスが子どもをからかったのだと思ったみたいだけど、私と彼の年の差は、たった12歳(しかも前世の実年齢は私のほうが4歳年上)。十分、射程距離内なんですけど! 世間には親子ほど年の離れたカップルだっているんだし、夫婦としてともに過ごすうち、なんでもないようなことが幸せだったと思えるのよ、きっと。




 その日から私は、ユリウスの嫁になるためのトレーニングを開始した。肌や髪を磨き、ストレッチや腹筋でナイスバディづくりに励むと同時に、将来の王妃にふさわしい教養を身につけるべく、勉強とマナー学習に勤しんだ。前世では劣等生の代表だったけど、明確なビジョンがあれば人間は頑張れるのだ。


 そのお陰で、16歳の誕生日を迎えるころには、私はかなり完成度の高い美少女になっていた。髪はサラサラ、お肌ツヤツヤ、幸い胸の発育もよかったので、ボンキュッポンの峰不二子体型である。そのため街の男たちから求婚が絶えなかったけど、さくっと無視してユリウスのためだけに自分磨きを続けた。



 そんな私を見て、両親はとても心配した。そりゃそうだ、異種族間の結婚は非常に稀だし、いくら口約束があっても相手が王子ともなれば門前払いになる可能性が高い。万が一受け入れられたとしても、獣人国はこの街から船と馬車を乗り継いで3ヶ月ほどかかる遠方だ。親としては大事なひとり娘に、そんなリスクの高い嫁入りをして欲しくないのは当たり前である。


 でもね、私はもう決めちゃったの。せっかく「バン恋」の世界に転生したんだもの。この状況で恋する相手は一択だし、そういう設定で飛ばされたんだよ運命だよ! そんな私の頑なな決心に負け、父が渋々ながら獣人国に手紙を書いてくれた。「娘のクロユキが16歳になり、ユリウス様に嫁ぎたいと駄々をこねているが、どうしたもんですかね云々」みたいな内容だ。イヤイヤ感が半端ないが、まあ書いてくれただけでも良しとしよう。


「断りの返事が来たら、潔く諦めなさい。返事が来なくても、諦めるんだぞ、いいね?」


「わかりました、お父さん」


 しかし私は必ず良い返事が来ると信じていた。だって「いつでも嫁にしてやるぜ」って言ってくれたもの。ユリウスはいい加減な嘘をつくような人じゃない。ダメならそのときにキッパリと断ってくれるはずだ。




 そして待つこと3ヶ月、とうとう返事がやってきた。と言っても手紙ではなく、なんと本人が私を迎えに来たのだ。往復で最低半年はかかると思っていたので、いきなり先ぶれの使者が家にやってきたときはびっくりした。


「ユリウス王子が間もなく港に到着なさいます」


 私と両親は慌てて身支度をし、番頭さんに店を任せて迎えの馬車に乗り込んだ。私の住む街には大きな川があり、うちの店も船で荷物を運ぶことが多い。その見慣れた港に立派な帆船が停泊しており、舳先にユリウスが立っていた。


 ああ、遠目でもわかる赤銅色のフサフサ髪、小さなベストだけ纏ったほぼ半裸の上半身には、髪と同じ色のフサフサ胸毛、そしてバキバキの腹筋。間違いない、ユリウスだわ。


「おう、クロユキ。しばらく見ないうちに、えれぇ別嬪になったな」


 少年のように笑う口元からこぼれる、真っ白い牙。それだけで、頑張った日々が報われようというもの。私は帆先から岸壁に飛び降りたユリウスめがけて一直線に走り、勢いよくフサフサの胸に飛び込んだ。その瞬間、体がふわっと浮かび、気がつけばユリウスが片腕で私を抱えあげていた。


「お前らに紹介するぜ、俺の嫁、クロユキだ!」


 甲板からおおーっと野太い歓声が響き渡り、おそらく獣人と思われる乗組員たちから拍手と口笛が飛んでくる。私はユリウスに会えた喜びと歓迎の嬉しさで舞い上がってしまい、まるで夢を見ているような気分だった。


 やがて船から大きな木箱が次々と下ろされ、私の家に運び込まれた。獣人国では嫁入りの挨拶として、夫から妻の実家に贈り物をする習わしがあるという。中身は金銀、宝石、高価なスパイスや香木、そして色とりどりの織物など。さっきまで結婚に反対だった両親は、それを見てちゃっかり商人の顔になり、母など「ふつつかな娘ですが」と、祝い酒をふるまいだした。ゲンキンすぎるやろ、あんたら!


 こうして無事に婚姻の誓いが交わされ、三日三晩の大宴会の後に、私はあの立派な帆船に花嫁として乗り込んだ。ユリウスたち獣人は動物と交信できる能力を使って、水路では川イルカや鯨、陸路では野生馬などの力を借りながら高速移動するんだそうだ。お迎えがやけに早いと思ったらそういうことか。すごいな、大自然を味方につけているのね。



 しょんぼりしていた父と母も、娘がたまに里帰りできると知って少しは安心したようだ。泣きながら「クロユキをよろしく」と言うついでに「両国間の交易は当商会にご一任ください」と、営業トークも忘れない。お父さん、ちょいちょい商売で来ることになるんだろうな。王太子妃の父上なら、きっといい取引先が見つかるよ!


 ちなみに、この時点ではまだ私は正式な妻ではない。獣人国に着いて寺院で禊を済まし、占いで決まった縁起の良い日時に結婚式が行われる。それまでは国の客人であり、晴れて婚姻が結ばれ初夜の儀(キャッ♡)が済めば、正式にクロユキ妃となるそうだ。その他にもいろいろと自分の国とは違う風習があって、ああ外国に嫁ぐのねと実感がわく。



 こうして、私はユリウスのもとへ嫁いだ。あの衝撃の出会いから約3年。ようやくフサフサとバキバキが私のものになったのだ。嫁入りの記念に、さっき耳を触らせてもらったら、めちゃくちゃ柔らかくて感動した。柔軟仕上げかよ! さらには、ズボンに隠れているけど尻尾もあるそうで、こちらは他人には見せないプライベートゾーンなんだって。


「そのうちいくらでも見せてやるから、楽しみにしとけ」


 甲板で夕陽を見ながら、そっと耳打ちされて顔がにやけた。ああ、早く結婚式が終わらないかな。そうしたら、思う存分スリスリしてモフモフしてやるんだ!



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