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クロユキ姫と七人の異世界恋人  作者: 水上栞
第五幕 ◆Dopey(おとぼけ)@召喚された勇者タケル
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■第五話 ザ・サプライズ・パーティー!


 私の計画が実行されたのは、王都に最も近い宿泊地。王室が所有するカントリーハウスに足を踏み入れたメンバーたちは、そのゴージャスな内装に驚いていた。


 ここは私たち王家が毎年夏を過ごす別荘で、30以上もあるゲストルームに大きなバンケットホールを備え、バラ園や図書館、美術品を収蔵したギャラリーなども併設されている。従業員は総勢約100名。その大半がずらりとエントランスに並んで、英雄パーティーを出迎えた。


「おおお、すっげぇ! 今までの宿も高級だったけど、ここはお城みたいだな!」


 タケルが興奮して馬車の窓から身を乗り出す。きっと元の世界でこういう建物は見たことがないだろう。そして、天蓋付きのベッドがどーんと鎮座する特別室に案内されると、思った通りの反応を示した。


「ひょーっ! ラブホみてぇじゃん! すっげぇええ」


 言うと思った。とりあえず仕込みは上々。後は夜を待つだけだ。ザックと爺様も私の計画に協力してくれることになり、それぞれ今夜の予定があることをタケルとジェシカに伝えてある。


「私は図書館で溜まった執務を片付けるわ」


「儂は温泉とマッサージじゃ」


「俺は武器屋に行く(ブレない)」


 それを聞いて、タケルとジェシカは密かにアイコンタクトを交わした。邪魔者がいないラブホ(みたいな部屋)で、彼らが何をするか。答えは一つである。



 そして、ついに夜がやってきた。お待ちかねのサプライズだ。私は応接室のドアをそっと開くと、ドレスの裾をつまんで淑女の礼を執った。


「国王陛下と王妃殿下に、ご挨拶申し上げます」


 先日の私の「お願い」とは、最後の宿泊地に国王夫妻を呼ぶことだった。正式には翌日、王宮で謁見の儀が行われるのだが、その前に身内で祝勝会がしたいと可愛くおねだりをしたのだ。


 ――王都に着く前日、別荘にてサプライズパーティーを計画しております。できれば、私の婚約者であり国難を救った勇者に、国王自ら労いの言葉を賜りたく、お忍びで別荘までご足労願えませんでしょうか?♡


 娘の頼みに二つ返事でOKした国王夫妻は、こっそりと紋章のない馬車でやってきて、応接室で隠れて待っていたというわけだ。ホールではパーティーの準備が整い、ザックと爺様もそれなりの衣装に着替えて待機中である。ただ、タケルとジェシカには何も教えていない。サプライズだからね(イヒッ)


「クロユキ、大儀であったな。して、勇者殿はどちらにおられるのかな」


「二階のゲストルームだと思いますわ。早速、驚かせてあげましょう」


 こうして、ワクテカで向かった特別室。格の高いゲスト専用のゴージャスなドアの前に立ち、私がノックをして室内に声を掛けると、数秒後ひどく狼狽したタケルの声が返ってきた。


「……も、もしかしてクロユキ? ちょ、ちょっと待っ」


 皆まで言わせず、私は遠慮なしにドアをフルオープンした。いいよね、私たち婚約者なんだもん♪


「タケルさ〜ん、素敵なお客様がいらしたわよ〜」


 能天気な小芝居をしながら、私は国王夫妻を部屋に招き入れた。しかしそこにタケルの姿はなく、あるのはベッドの中央にこんもりと盛り上がったシーツの山だけ。よく見たら震えてるようだけど、気のせいよね、きっと。


「やだ〜タケルさんったら、かくれんぼなの?」


 私は純真無垢な聖女なので、当然そんな不自然なシーツは引っ剥がす。すると、あ〜ら不思議。私の婚約者とアーチャーのジェシカが、すっぽんぽんで絡み合っているわ。私は目を見開き、ふらふらと倒れる芝居をした。その瞬間、国王の怒声が部屋中に響き渡る。


「勇者タケル、この事態を説明せよ! 皆が納得できる理由があるのだろうな!」


 私は失神したふりをしながら、婚約破棄と制裁がダブルコンボで成功したことを確信した。こういう仕返しの王道パターンは、サレ妻リベンジ系の小説でがっつり学習してるんだよ。読み専なめんな!




 こうして、浮気現場を国王に押さえられたタケルは、当然私との婚約は解消。さらには王宮への立ち入りを一生涯禁じられ、王族への夢は途絶えた。もちろんドラゴンを倒した功労者なので、称号と褒賞金は与えられるが、身分は平民のままである。


 それを知ったジェシカの落ち込みようは、見ていて笑えるほどだった。タケルという金づるを失い、自分も不貞を働いたくせに、泣くわ喚くわ暴れるわ。彼女自身も罰として冒険者ギルドの登録を解除されてしまったため、明日からは無職の一文無しだ。ざまぁ〜



 結局その週のうちに、タケルとジェシカの不倫カップルは、王都を去ることとなった。命令が下ったわけではないけれど、まあ普通に居心地は悪かろう。有名人であるだけに、どこへ行っても噂が立つ。


 お気楽なタケルは、これをチャンスと捉えて心機一転やり直すそうだ。全世界のダンジョンを制覇して、そのうちハーレムを作るらしい。なんというメンタルの強さ、そして潔いほどの無反省。こんなのと結婚しなくてホントに良かった。


 そしてジェシカは、故郷に帰るらしい。まあ、それが妥当な身の振り方だろうけど、個人的に納得できないのは、ザックと再構築することになった事だ。なんで? ザックならもっと、身持ちのいい素敵な女性がいるんじゃないの?


 私はどうしてもザックを説得したくて、彼を呼び出した。ジェシカみたいな女は、また同じことをするに決まってる。人を陥れて贅沢三昧しようとしていた根性悪だよ?


「最初から、何があっても二人で故郷に帰ろうと約束していた」


 私がジェシカと別れて王都に残ってほしいと懇願すると、ザックはきっぱりとそれを拒んだ。


「どうして。ザックほど実力のある冒険者なら、どんなパーティーにも入れるし、良い女性にも巡り会えるわよ」


 本当は私の側にいてと言いたいが、王女である立場上それはできない。ならばせめて、いつでも会える場所にいて欲しい。彼の活躍を喜び、応援する立場であり続けたいのだ。


「俺たちは、田舎の小さな村で生まれて、兄妹のように育った」


 ザックとジェシカは6歳違い。家が近所だったので家族のように暮らしていたが、ザックが12歳で家計を支えるため冒険者になり、それ以降しばらく疎遠だった。


 しかしジェシカはザックの後を追い、自らも冒険者になった。そして厳しい修行に耐えて一流の弓術を身に着け、16歳でこの国最高と言われるパーティーのアーチャーになった。そこで鉄壁のタンクとして活躍していたのがザックである。


「これまであいつの人生は、俺の世界の中で完結していた。しかし、」


 勇者パーティーのメンバーに抜擢され、ジェシカは初めて広い世界を目にした。やがてザックと正反対なタイプのタケルに口説かれ、身の丈に合わない夢を見た。田舎の村から弓一本で出てきた女には、目の眩むような景色だっただろう。


「ジェシカは愚かだったが、それは俺の責任でもある。今回のことできっとあいつも、目が覚めたはずだ」


 世間知らずのジェシカにとって、貴重な学びの機会だったのだと、ザックは語る。なんという懐の深さよ。しかしそれは、あまりにも人が良すぎないか?


「ザックは、許せるの? 他の男と……その……」


 私が言い淀んでいると、ザックがその言葉尻を掬った。


「きっと、許すことはない、一生」


 先ほどより、さらにきっぱりとした声で、ザックは言い放った。私が驚いて目を見開いていると、ザックはその先を続けた。


「それでも、俺は全て受け入れて生きていく。夫婦とはそういうものだと、覚悟したうえで神に誓いを立てた」


 健やかなるときも病めるときも。聖女である私が、教会で何度となく繰り返し耳にしてきた言葉だ。それをザックの口から聞くことで、改めて神の教えが心に浸透した気がした。


「わかったわザック、元気でね」


「ああ」


 それだけ言うと、ザックは私に背を向けて去っていった。最後まで無口で、愛想なしで、誰よりも頼りになる男。どうやら思ったより、私はザックに惹かれていたらしい。でも泣くのは彼の姿がすっかり見えなくなってからにしよう。


 そう思って涙をこらえていたら、目の前に光る文字が現れた。ああ、正直助かる。今すぐに振られた胸の痛みから私を解放して欲しい。


#勇者と聖女 #三角関係


 まあ、三角関係って言っても私は蚊帳の外だったけど。ロマンチックな小説の裏側を覗けば、ドロドロの人間模様が渦巻いていたわね、今回は。もうすっかり慣れ親しんだ光のチューブに身を委ね、私は次なる世界へと再び飛ばされていった。



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― 新着の感想 ―
クロユキ恋愛しねぇwwww 人間模様にグッときました。いい男は去っていってしまうものですねぇ。 読み専なめんなですね。
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