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クロユキ姫と七人の異世界恋人  作者: 水上栞
第五幕 ◆Dopey(おとぼけ)@召喚された勇者タケル
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■第三話 嘘つき勇者と、無口な本物のいいオトコ


「神父さま、私を鑑定なさったのですね」


 神父は地面に這った姿勢から、ゆっくり私を仰ぎ見た。ちょっとスケベ心を出したばかりに、とんでもないことになってしまったという顔だ。私は威厳ある聖女の眼差しで、神父を睨めつけた。


「それがどんなに、不敬なことか。おわかりにならないはずはございませんよね」


 自分もパーティーのメンバーを鑑定しておいて、どの口が言うかという話だが、私は厳しい表情を崩さず神父に問うた。神父は震えている。よし、十分にビビらせたので、そろそろ取り引きに入ろう。


「……貴方の働き次第では、見逃して差し上げないこともございませんことよ?」


 神父は目を見開き、「もちろんです!」と地面に額を擦り付けた。まあ、断れんわよね。王女を勝手に鑑定したんだから、牢にぶち込まれても仕方ない。私はうっすらと笑みを浮かべ、神父に指を突きつけた。


「あなたに、鑑定して欲しい人物がいるの」




 それから約2時間後、私たちパーティーは村を後にした。私の懐の中には、神父を脅して……もとい、協力を得て手に入れたタケルの鑑定結果が入っている。これがまあ、頭がクラクラするような内容だった。


 名前:タケル(下村尊)

 年齢:26歳

 職業:勇者

 レベル:999

 HP:104991 /MP:64002

 身長/181cm

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【装備】勇者の剣、勇者の盾、勇者の鎧、勇者の兜、ヒートテック

【スキル】アルティメット剣術、火魔法、体術

【サブスキル】身体強化、縮地、覚醒、神々の守護、天然(すべり芸)、普通自動車免許、美容師免許、速弾き

【備考欄】出身地/東京都西多摩郡檜原村出、召喚地点/カブキチョー


 基本データだけ見れば、いかにも勇者だ。装備やスキルだって、ヒートテックが防具に入るのかは謎だが、まあ驚くようなものではない。問題はサブスキル以降である。


 天然(すべり芸)に関しては、私もよく知っている。トンチンカンなことをやらかし、それが常に好転するのは勇者のチートに違いない。普通自動車免許も、日本から召喚された若者なら持っていて当たり前のスキルだろう。


 しかし美容師免許が怪しすぎる。19歳の大学生という設定がガセなのは、これでほぼ決定だと思われる。しかも通学路で召喚されたはずなのに、召喚地点「カブキチョー」になってるし。速弾きは楽器関係だろうか。悪い予感しかしない。


 さらには、生まれも育ちも東京の都心部と聞いていたが、いや確かに東京都なんだが、檜原村って都庁より富士山が近くないか。もう色々とツッコミどころが多すぎて、私は頭を抱えた。


 どうせ結婚するつもりはないんだし、放っておけと言う人もいるだろう。でも、この体の中にはタケルを愛した記憶があって、それが私に「絶対に許せない」と叫び続けている。前世の私も、浮気されたことが結果的に死につながった。女にとって愛する人の裏切りは、魂の殺人とも呼ばれるほど辛いことなのだ。


 私は前を歩くタケルの背中を見ながら、まずは嘘を暴いてやろうと心に決めた。そしてそのチャンスは、意外にも早くやってきた。



「お姉さん、エールもう一杯!」


 酒好きのタケルが、エールの空ジョッキを振り回す。いつもは野宿でザックが作ってくれる野営料理を食べているが、この日は運良く宿場町に泊まれたため、居酒屋で夕食を取ることにした。そうなれば当然、冒険者連中は酒を飲む。


「タケルさんの国では、どんなお酒を飲むの?」


 私はそう言いながら、タケルにこっそり回復術をかけた。健康な人なら何の変化も起こらないが、アルコールが入っているときに行うと、酒が回りやすくなる。


「そうだな〜、エールに似たビールって酒があるけど、俺はチューハイの方が好きだな〜」


 いい感じに酔いが回ってきたタケルが、気分よくしゃべり始めた。よし、その調子だ。幸いにもテーブルには私とタケルしかいない。早寝の爺様は宿屋に戻ったし、ザックは防具の修理があるので武器屋へ。ジェシカは違うテーブルでトランプ勝負をしている。


「まあ、美味しいのかしら。私も飲んでみたいわ」


「女の子にはカクテルが人気だよ。いろんな酒を混ぜて楽しむんだ。まあ、そのうち機会があれば俺が美味いやつ作ってやるよ」


「そんな技術も持っているのね、すごいわ」


「まあな、ここへ来る前はバーテンダーっていう仕事をしてたんだ」


 キタコレ! お前、バーテンだったのか、カブキチョーから召喚されたのは、そういうわけか! 私はさらに回復をかけた。もうタケルは大学生の設定をすっかり忘れて、べろべろに酔っている。


「へえ、職業があったのね。私が聖女であるように、やはり国から称号を与えられるの?」


「ったりまぇじゃん、俺コッカシカク持ってんだぜ。ビヨーシ、すげぇだろ、ツーシンで免許取ったんだぜ、へへへへ」


 はい、釣れた。うん、確かに国家資格だし立派だけど。続かなかったからバーテンしてたんだよね。それでも真面目にやってりゃ偉いけど。私はさらに掘り下げた。


「すごいわタケルさん。ビヨーシとバーテンダー、どれくらいやってらしたの?」


「う〜ん……、あんま覚えてないけど、ビヨーシは3ヶ月くらい? バーテンは〜、最初の店が一ヶ月半でぇ、あとは2週間とか10日とか、色々……むにゃむにゃ」


 だめだこりゃ。バックレ常習者だ。社会人としてありえない。そうしているうち、いよいよタケルのまぶたが下りてきた。よし、最後の質問だ。


「タケルさんは、何か楽器が弾ける?」


 焦点の合っていないタケルの目に、一瞬光が宿った。


「お、俺はぁ〜、檜原村の高崎晃って言われてたんだよぅ」


 おっと、ヘビメタか。そう言えば昔付き合った男がバンドやってたわ。楽器とスタジオ代で給料が飛んで、私に借金しようとしたから別れたけどね。てかタケル、付き合っちゃいけない男の条件3B(美容師・バーテン・バンドマン)コンプリートかよ、ある意味まぶしいわ!


「もう一つだけ。あんた、ジェシカとデキてるわよね?」


「んん……、あいつはいいケツをしてる……」


 まあ、知ってたけどね。とりあえず疑問が晴れてスッキリしたので、私は酔いつぶれたタケルを置いて宿に戻ることにした。すると店から出たところに、ザックが立っていた。


「ザック、何してるの?武器屋に行ったんじゃなかったっけ」


 私の問いかけには答えず、ザックは逆に私に尋ねた。


「気は済んだか」


 しばらく考えて、ザックはここで私を待っていたことに気づいた。私がタケルと二人で話すつもりなのを察知して、武器屋に行くふりをしつつ、トラブルが起こった時のために店の外で待機していてくれていたのだ。


 なんてやさしいんだ、ザック。言葉足らずで無愛想だけど、息を吐くように嘘をつくタケルより、よっぽどいい男だわ。ザックみたいに思いやりがあって料理上手な男と結婚しときながら、火遊びするジェシカは大馬鹿だよ全く。


「ありがとう、洗いざらい白状させたわよ。何から何まで嘘だらけで呆れたわ」


「そうか」


「でも大丈夫。タケルは泥酔してたから、きっと明日になれば自分が何をしゃべったか、忘れてるはずよ。任務に影響はないわ」


「……お前は、それでいいのか」


 ザックは、私がタケルにベタ惚れしていたのを見てきた。いくら裏切りが明らかになったとはいえ、すぐには諦められないと思っているのだろう。ましてや婚約までしていた相手だ。もし中身が私ではなくイザベルだったら、とても任務どころではなかった可能性がある。


 ところがどっこい、今の私はタケルに毛の先ほどの興味もない、ふてぶてしいアラサーの女だ。私は大丈夫なことを証明するように、笑顔を浮かべて質問を切り返した。


「それより、ザックはどうなの」


「何のことだ」


「……ジェシカのことよ。あなたの方が、私より大ごとだと思うけど」


 ザックはしばらく黙っていたが、やがて肩をすくめた。月の光に照らされて、彫りの深い顔立ちがローマの彫像のようだ。こうして改めて眺めると、いい男なんだよね、ザック。


「今、考えることじゃない」


 確かにそうだ、私も同じである。でも、そんなふうに理性で感情をコントロールできる人間は、なかなかいない。


「宿に、帰るぞ」


 そう言って歩き始めたザックの大きな背中を見ながら、私はラスボスを倒した後のことを想像した。ザックはジェシカと別れるんだろうか。私の知ったことではないが、なるべくザックが傷つかないで欲しいなと思った。


「ねえ、ザック」


「ああ」


「この間、ひどいことを言っちゃってごめんなさい」


「……ああ」



 その夜、タケルとジェシカは帰ってこなかった。もう彼らがどこで何をしていようが、関係ないと思えるほどには、私はすっかり吹っ切れていた。あとは、なるようになるさ。




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