■第一話 まさかの冒険者パーティーからスタート
もう何度目かの転生なので、そろそろ慣れても良いころなのだが、いま私は非常に戸惑っている。
気がついたら焚き火を囲んでいた。手には串に刺した肉。異世界あるあるだけど、実際には何の肉かわからないので食べるのが怖い。そして、周りのメンバーがどう見ても冒険者である。ここって、異世界恋愛の世界じゃなかったっけ?
仕方がないので、記憶が流れ込んでくるのを待つことにした。すると、隣に座っていた男が、私の顔を覗き込んだ。
「あれぇ、クロユキ元気ないじゃん。だめだよ、食べとかなきゃ。もうすぐ最後のダンジョンなんだからさぁ」
近い近い、距離が近い! なんなんだ、馴れ馴れしいなと腰が退けた瞬間、記憶のチャージが終わったようで、その男のデータが目の前に映し出された。うわ、これはアレか。ステータスオープン、ってやつか。
名前:タケル(下村尊)
年齢:26歳
職業:勇者
レベル:999
HP:104991 /MP:64002
身長/181cm
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このプロフィールには見覚えがある。どうやら私は、アニメやゲームにもなった人気作「おとぼけ勇者、天然スキルで俺だけがレベルアップ」の世界に飛ばされたようだ。そして、なぜ私が冒険者のパーティーにいるのかもわかった。
この作品は、当初ハイファンタジーのジャンルで投稿されたが、コミカライズするにあたり、鬼のように競争率の高いハイファンから、異世界恋愛にジャンル変更された。そのため、原作よりも漫画やアニメは恋愛要素が濃い。私が読んだのも縦読みの漫画で、戦闘シーンよりイチャラブが多かった記憶がある。
ちなみに、さっきの距離なし男は主人公のタケルで、日本からこの世界へ召喚された勇者である。そして私は、国王の一人娘で聖魔法の使い手クロユキ(原作ではイザベラ)王女。輝くようなプラチナブロンドと、エメラルドの瞳を持ち、国民からは聖女として崇められている。
私たち勇者一行は、国に蔓延る瘴気を祓うため、その根源を探して旅に出た。そしてとうとう、ラスボスのいるダンジョンを突き止めたのだ。ここまでは、原作の大筋と同じ。しかし何だか……主人公に違和感がある。
「食いなよ〜、俺が食べさせてやろっか♡」
人気作品なので原作も読んだけど、タケルってこんなにチャラかった? 確か登校中に召喚された19歳の大学生で、天然な発言や行動で敵を油断させて、その隙に大技を発動するという、おとぼけキャラだったと記憶している。
それなのにどうだ、目の前の男は。確かに見た目は長身痩躯、アイドル系の顔立ちで、主役としては映えるかもしれない。でも、何か私が描いてた勇者タケルとはギャップがありすぎる。
それによく見たら、耳にピアス跡がいっぱいだ。ステータスの年齢もけっこういってるし、もしかしていろいろ詐称してないか?
「今日は食欲がないから、もう先に休むわね」
私はそう言って謎の肉をタケルに押し付け、さっさとテントに入った。いろいろ考えたいことが多すぎて、一人になりたかったのだ。
「状況を整理しなくちゃ、ジェシカが来てしまう前に」
私たちは5人組のパーティーで、そのうち女性は私とジェシカの2人である。ジェシカの職種はアーチャー。それって防御力あるんか?と思うような際どいビキニアーマーを身に着けており、顔はキツめだがスタイルは抜群だ。
男性メンバーは、タケルの他にタンク役のザック。ガタイのいい無口な男で、短いアッシュブラウンの髪と、鋭い薄青の瞳。いかつい見た目だが、やたらと料理がうまい。そして、パーティー最年長の魔導士ハッサン。背が小さく痩せっぽち、眠っているような表情だが、無詠唱で強烈な魔法を連射する恐ろしい爺様だ。
私は女性用テントの端で体育座りをしながら、混乱する脳内から状況を拾い集めた。まず最も困惑しているのは、さっきのチャラい勇者と私が婚約中であることだ。
タケルがこの世界に召喚されたのは、今から約一年前。来た当初のタケルは魔物を見たこともなければ、闘ったこともなかったが、訓練によって勇者のチートが発動し、あれよという間に国で最高のレベル999に到達した。
そんなタケルの活躍を見て、この体の本来の持ち主イザベラが恋に落ちてしまった。そして父親である国王が、娘の初恋を叶えてやるため「ラスボスを討ち取った暁には、王女を妻に取らせよう」と約束してしまったのだ。
王宮と教会くらいしか知らない10代の娘にとって、異世界から来たヘンテコ勇者は新鮮に思えたのだろうが、三十路クロユキの頭で考えるとトンデモ案件である。ちなみにその時のタケルの返事は「あざっす」だった。もう、色々とありえない。
なんなら今すぐにでも逃げたい気持ちだが、目の前の敵を倒さないことにはどうしようもない。国の存亡がかかっているのだ。まずは闘おう、タケルとのことはその後で考えればいい。最悪、父に泣きついて婚約破棄させてもらえば……。そう考えていると、ジェシカがテントに入ってきた。
「あんた、具合が悪いんだって? もしかしてあの日?」
生理かどうかを尋ねているのだろう。女同士だから別にいいけど、彼女はたまに男性がいる前でも無神経な発言をする。良く言えばおおらか、悪く言えばガサツ。パーティーを組んでから半年足らずの間に、ジェシカが苦手だと思う瞬間はこれまで何度もあった。
「違うわ、ちょっと疲れが出ただけ」
「それならいいけど。しっかり体調整えてよね、あとちょっとで本丸にカチコミなんだから」
そう言いながらジェシカは、ビキニアーマーのトップを外した。途端、まろび出る豊満な二つの球体。たぶん小玉スイカくらいあるんじゃなかろうか。
すごいなと思って見ていると、その球体のビキニで隠れる部分に赤いアザを発見した。むむ、あれはどこかで見たような? 虫刺されでもなく、ニキビでもなく……、もしかして……キスマーク?????
うわ、間違いない、絶対そう。ていうか、なんでこんな野営の地でそんなものが? 魔物と闘ったときに傷がついたのかもと思ったが、それならビキニの外側だ。えええ〜、もし本当にそうなら相手は誰だ。ザックか、まさかの爺様か?
ジェシカは私の混乱に気づきもせず、さっさと横になってしまった。私も明日のために寝ないといけない時間だが、今夜は眠れそうにない。とりあえず、最優先事項はラスボス。タケルとの事は後回し。そう心に決めて横になったところで、あることを思いついた。
(ステータス、オープン)
口に出さずに思い浮かべるだけで、ジェシカのステータス画面が闇の中に浮かび上がった。しかし、それが見えるのは私だけのようで、かなり明るいはずの画面の光は、ジェシカの方には全く届いていない。
ようやく思い出したが、私のサブスキルには「鑑定」があり、その人物が目に入る場所であれば基本データが読み取れる。しかしプライバシーに関わることなので、誰彼構わずステータスを覗くのは、国の法律で禁止されている。
とは言え、人間だもの。興味が勝ってしまうこともある。今の私がそうである。命を預け合うパーティーの仲間くらい、データを知っていてもバチは当たらないはずだ。
名前:ジェシカ
年齢:24歳
職業:アーチャー
レベル:681
HP:50085/MP:33417
身長/170cm
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ジェシカのデータは、まあ想像通りというところだ。ギルドに登録するとき書類に記入した「自称」のプロフィールではなく、鑑定は真実の情報が引き出されるので、裁判や詐欺の判定にも使用される。
となると、やはりタケルは嘘をついている可能性が高い。ラスボスのダンジョンまでは、約半月。もしかすると、奴の嘘を暴くチャンスがあるかもしれない。いや、何とかして暴いてやる。騙されたままだと癪に障るじゃん、読者として。読み専なめんな!
ちなみに、私のステータスも鑑定してみた。スキルや装備が記載されている「▷さらに見る」はレベル不足で開かなかったが、だいたい原作と違わないようだ。
名前:クロユキ
年齢:18歳
職業:聖女
レベル:793
HP:48772 /MP:81025
身長/156cm
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ていうか、なによこの身長。前世の私と全く同じじゃない。せめてそこは憧れの160cm台に設定して欲しかった。異世界に来ても頭身に恵まれないなんて悲しい。そんなことを考えているうちに、いつしか私は眠りに落ちていた。




