第九話:三英、鬼神を助く
第九話:三英、鬼神を助く
「はあっ!」
呂布の本気が、方天画戟に宿った。赤兎の神速と完全に一体となり、繰り出される戟はもはや単なる武技を超え、予測不能な嵐のようであった。その変幻自在の攻撃は、黒沙をして防戦一方に追い込んでいく。
(くそっ、埒があかん…! このままでは消耗戦だ。俺の体力が先に尽きるやもしれん…!)
呂布は短期決戦を決意した。彼は一度大きく距離を取ると、赤兎の持つ全ての速力を解放し、赤い閃光となって黒沙へと突進した。必殺の威力を秘めた渾身の一撃。
しかし、黒沙はその瞬間を狙っていたかのように、口の端を歪めて不気味な笑みを浮かべた。彼は呂布の突進を真正面から受け止めようとはせず、ひらりと巨馬の上で身をかわすと同時に、懐から素早く黒い粉末状のものを呂布の顔面めがけて投げつけた。目潰しだ!
「なっ…!?」呂布は咄嗟に顔を背けたが、間に合わない。粉末の一部が目に入り、灼けるような激しい痛みが走った。「ぐっ…! き、貴様、卑怯な!」
視界が歪み、一瞬、目の前が真っ暗になる。致命的な隙。その瞬間を、黒沙は見逃さなかった。彼は獣のような雄叫びを上げ、鉄蒺藜骨朶を呂布の頭上めがけて、渾身の力で振り下ろした!
呂布が死を覚悟した、その刹那。
「――させん!」
凛とした声と共に、横合いから凄まじい勢いで一閃の青い光が迸った。見事な髭をなびかせた関羽雲長が、戦況を見かねて飛び出してきたのだ! 彼の渾身の一撃が、黒沙の鉄蒺藜骨朶を側面から強かに打ち据え、その軌道を大きく逸らした。
「む、貴様は…汜水関の!」黒沙が驚きの声を上げる。
さらに、反対側からは、
「兄者ァ! 大丈夫か! この無礼者めが!」
という雷鳴のような声と共に、巨大な蛇矛が、まるで黒い龍のようにうねりながら黒沙の側面を襲った。張飛翼徳である。
「なにっ!? 次から次へと!」
左右からの予期せぬ挟撃に、さすがの黒沙も体勢を崩し、後退を余儀なくされる。呂布も、目の激しい痛みに耐えながら、涙で滲む視界をなんとか取り戻し、状況を把握した。
「関羽殿、張飛殿…!」
呂布は、命を救われたことへの感謝を感じつつも、自らの一騎打ちを邪魔され、しかも三人掛かりでようやく互角という状況に、武人としてのプライドが深く傷つくのを感じた。(俺としたことが…油断したばかりか、助けられるとは…! しかも、この者たちに…!)複雑な感情が彼の胸に渦巻いた。
しかし、感傷に浸っている暇はなかった。体勢を立て直した黒沙が、怒りと興奮に顔を歪め、三人の猛将に向かって同時に襲いかかってきたのだ。
「面白い! 三人まとめて、この黒沙様の骨朶の餌食にしてくれるわ!」




