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エイプリルフールに愛を吐く

作者: 人参大根

 かつて、この世界ではない者がやってきた。歴史には迷い人と刻まれ多くのことを成したとされる。彼いや、もしくは彼女だったかもしれないが、彼の人が残したものとして代表されるものの一つとして『文化』がある。文化は人々が集まり、手を取り合い一つの国家を形成するに至った。それこそが、この世界唯一の国家「イデア」である。争いがなく、人が共に生きるこの国では4の月の初めの日をエイプリルフールと呼び、冗談を言い合う日として親しんでいる。これは、平和な世界での一組の名もなき男女の短く歴史には残りもしない物語である。


 「ねぇ、今日何の日かしってる?」

 「エイプリルフールだね?」

 「そうそう!あなたはもう何か噓ついた?」

 「ついてないなー」

 「えー、もったいないなぁ。一年に一回しかない特別な日なんだよ?」

 「そんなこといったって…。君はもう何か言ったのかい?」

 「うん!朝起きてすぐにママに!」

 

 そう高く結ばれたポニーテールをまるで意志を持つかのように揺らし、天真爛漫を絵にかいたような少女が語る。

  

 「そう、どうだったんだい?」


 大人しく、かといって引っ込み思案というわけではない少年は少女の笑顔を目いっぱいに受け、少年自身もひまわりのようなほほえみを浮かべつつ相槌をうつ。


 「うん!それがね、『ママ!大変、今日学校あるのにもう6時半よ!』っていったの!そしたら、ママったらベットから転げ落ちてしまったのよ!」

 「それは大変だったね。でも、ちゃんとママには謝ったのかい?」

 「うん。エイプリルフールだからって浮かれすぎていたわ…。でも、ママもそのあとに『今日の朝ごはんはシュールストレミングね?』って言ったのよ!」

 「あははっ、それは冗談だったのかい?」

 「もちろん!そんなことをしたらお家の窓という窓を開けなきゃいけないわ。」


 シュールストレミングは迷い人と呼ばれる人が考案した保存食で長く保存できる代わりに、臭いと味を犠牲にしたような食べ物で、家で開けようものなら一週間は家に人を呼ぶことはできないような食べ物?なのだ。

 

 「確かにね」

 「あなたもエイプリルフールを楽しまなきゃ!私楽しみにしているわ!」

 「そうだねー」

  

 少年は噓をつくのがあまり得意ではなく、エイプリルフールというものに少し苦手意識を持っていたが、この少女のために一つくらい今日一日で噓をついてやらないとと、決意した。

 

 「なになに!なにか思い付いたの!」

 「まだだよ。もうちょっと待って!」

 「もう!待ちきれないわ!」

 

 少女の期待のこもった笑顔にすこし、プレッシャーを感じながら嘘を考えていった。


 「そうだね、じゃあ今から少しお話をするからお話の中の嘘を当ててくれる?」

 「それは、エイプリルフールって感じしなくない?」

 「うーん。そうかもしれないけどまぁ、聞いてて?」

 「わかった!!」

 

 少女が納得してくれたことに胸をなでおろし、話し始めた。

 

 「これは、作り話なんだけどね?」

 「ん?それを言ってしまったら全部が嘘ってことになるんじゃない?」

 

 少女の意外な鋭さに少しヒヤッとしたがそのまま続けることにした。

 

 「いいから聞いてて?」

 「うん!」

 「僕あんまり嘘とかつくの苦手なんだ。だけど、素直に意見を言ったりするのも苦手で…。だけどね、一人だけ素直に話せる女の子がいるんだ。」

 「それはだれ?」

 「あはっ、最後にわかるよ。それでね?その子は笑顔が素敵で素直な女の子なんだ。」

 「うわぁー!素敵な女の子だね!」

 「うん、それで…。僕はその子のことが好き…なんだよね。」

 

 少年は頬を林檎のように紅潮させ、作り話ではないということ。そしてそれは、今話している少女であることを表情で語っていた。

 

 「さぁ、嘘はどこかわかった?」

 

 少女も流石にこの話が作り話ではなく、少年話したことが自分に対する告白であることに気づいていた。そして彼女もまた、表情で語っていたのだ。その、恋する少女の顔で。

 

 「うん!」

 

 歴史にはこの少年と少女の名前は残らない。だが、彼と彼女がこの「イデア」に存在したことに嘘はない。迷い人が作ったこの世界が、いつまでも理想郷であり続ける歴史を歩むこともまた嘘ではないのだ。

 

 



 



 

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