第七話 マギア族の落ちこぼれ
私はマギア族、族長の娘フォルティナ・マギアとして生まれた。
父はリュミエール王国の元国王専属魔法使い、そして母はリュミエールにおいて名誉のある魔法具研究者の一員だった。
そんな二人の間から生まれた私は、同じマギアの一族皆から期待の眼差しを向けられた。
父と母は周りからの期待に応えるべく、幼い頃から二人の持つ魔法の知識を私に叩き込んだ。
しかし私に魔法の才はなかった。
何年経っても魔法の上達しない私に両親は愛想を尽かしたのか、口も聞かなくなった。
両親から向けられる目は実の娘を見るものではなく、まるでスラム街の子供でも見ているかのような、そんな目付きだった。
今でもその目線は私の脳裏にしっかりと焼き付いて決して離れない。
私が七歳になった頃、そんな目線は両親だけじゃなく一族皆から向けられるようになった。
道を歩けば石をぶつけられ、一族の恥さらしなどと子供から大人まで私を罵った。
そんな中、武器屋のおっちゃんだけは私に優しく接してくれたのだ。
今思えばそれが心のどこかで支えになってたんだと思う。
私はおかしかったのかも知れない。
それでもまだ私は、ここが自分の居場所だと思った……いや、子供の私にとってそれしか縋るものがなかったのだから仕方がないといえば仕方ない。
そして十歳の頃、私が家を出る決意をする出来事があった。
ある日の深夜のこと。
私はふと目が覚め、リビングに足を運んだ。
しかしリビングには両親の姿が見え、私は部屋の直前で足を止めた。
そして私は二人の会話を聞いてしまった。
「ごめんなさいあなた…………私があんな子を生んでしまったせいで…………」
「大丈夫だ。お前が気に病むことじゃない。寧ろ私こそお前に辛い思いをさせてしまってすまない」
それは母が父に泣き付く姿だった。
この時、私はこの家に居てはいけない子なんだと悟った。
悔しかった。
たまたまこの家に生まれてしまっただけなのに。
だから私は、いつか両親をも認めさせる最強の魔法使いになると心に誓った。
そして次の日には荷物をまとめて家を後にした。
向かった先はマギアの領海にある三つの内の一つ、山と森が大半を占める島。
ここには魔物も多々棲息し、修行にはうってつけだった。
しかし所詮は十歳の小娘。
いきなり魔物を倒せるわけもなく、魔力の才すらない私はその肉体を鍛えることにした。
たまに森の何処からか視線を感じていたが、直ぐにその正体には気づいた。
武器屋のおっちゃんだ。
隠れられているつもりなのだろうがバレバレだった。
私のことを心配して、かなりの頻度で見守りに来てくれた。
そして体を鍛え、小さな魔物を狩り飢えを凌ぎ、四年の歳月が過ぎた。
マギアの一族は十五歳になると、リュミエール剣魔学園の門を叩くのだ。
来年には私も十五歳。
リュミエール剣魔学園に入学すればあらゆる知識が手に入る。
最強を目指すならなんとしても入学したいところ。
しかし家を出た私には入学する術はなく路頭に迷う。
そして私はある覚悟を決める。
盗み。
私は迷うことなくそれを選択した。
盗みは悪などと甘い考えを捨てなければ、最強にはなれない。そう思った。
どんな手を使ってでも最強の魔法使いになってやると。
そしてさらに一年後、私は五年ぶりに自宅へと帰宅した。
誰も出歩くことのない深夜。
族長の家へと侵入し、私はリビングの一番上の引き出しから一枚の入学願書を手に取った。
その時……。
「誰だ! 誰かそこに居るのか」
僅かな物音で気配を察知したのか、両親が目を覚まし私の元へとやってくる。
マギア族お得意の炎魔法で暗闇を照らし、私の後ろ姿を両親は目にする。
「も、もしかしてフォルティナか? い、生きていたのか………………」
「嘘!?」
私は両親には答えずその場を後にしようとした。
しかし父が呼び止めようとするが、
「ま、待ってくれ!」
父の制止は意味を成さず、私は窓を破り家から脱出した。
最後に「さようなら」という言葉を残して。
家を出た私は、船のある海へと向かうために村を駆けた。
そんな私に一人の男が声を掛ける。
「フォルティナの嬢ちゃん!!! これを持ってけ!!!」
「!? これは……」
武器のおっちゃんだった。
おっちゃんは私に鉄製の杖と革の小袋を投げたのだった。
「餞別だ。持ってけ。」
「ありがとう!!! おっちゃん!」
そして私はマギア島の小さな船を一隻盗み、リュミエールへと出発した。
しかし船でリュミエールに直接入国すると不正入国になるかもしれない。
そんな危惧を抱いた私は遠回りを選び、リュミエール大森林へと上陸しリュミエールを目指すことにした。
リュミエール大森林の魔物は、マギア島の魔物より明らかに強敵であったが、苦戦するほどではなかった。
だがそいつは突如として私の目の前に現れた。
ガストベア、その強力な腕力から風を産み出す危険な魔物。
私は、そいつと向き合ったとき勝てる気はしなかった。
しかし逃げるという選択肢は、私のプライドが許さなかった。
最初の攻撃さへ当たれば、私が有利に戦いを運べる筈だった。
しかし私は奴の知性の高さを侮った。
奴は私の強力な近接攻撃も回避した後、即座に自分の得意な遠距離攻撃に切り替え、私を圧倒したのだ。
さらには森という戦場をガストベアに完全に把握し、この戦いの主導権を常に握り続けた。
そして私は敗北した。
なにが最強だ………………。
こんな魔物ごとき倒せず、なにが最強だ。
もっと、もっと自分を磨いていれば…………。
しかし今さら後悔しても遅い。
これから私は死ぬのだから。
次回「水色髪の少女」