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ドール・イン・ファンタジー 〜ドール精霊を救う旅へ~  作者: 屑野メン弱
第一章 リュミエール剣魔学園編
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第六話 最強の魔法使い


 リュミエール南部を占める大森林。

 そこには鉄製の杖を構える水色髪の少女が、熊型の魔物であるガストベアの主と相対していた。

 彼女の名前はフォルティナ・マギア。マギア一族の族長の娘である。

 フォルティナが相対する敵、ガストベアは冒険者ギルドで危険度Bランクとされている魔物である。危険度Bとは、Bランク冒険者が五人のパーティを編成し、。

 彼女はそんな強敵と、運悪くも遭遇してしまった。

 逃げる選択肢を取りたいところだが、ガストベアに隙を見せれば一瞬で殺されるのは目に見えている。それでも戦うよりは逃げる生存確率が高いと判断し、その選択を取る者が殆んどだ。

 しかし彼女に逃亡という選択肢はそもそも存在しなかった。

 そしてフォルティナは全身に魔力を纏わせ強化魔法を施す。


(こんな魔物も倒せないんじゃ、世界最強の魔法使いなんて夢のまた夢!)


 それまでざわめいていた森が、まるで勝負を見守るかのようにピタリと息を潜め、ガストベアの唸り声だけが森全体に響き渡る。

 睨みう合う二人の間に落ち葉が落ち、それが戦いの合図となった。

 先に飛び出したのはフォルティナだ。

 身長が二倍以上もあるガストベアの頭上にフォルティナは飛びかかる。それを可能にしたのは、フォルティナの並大抵ならぬ努力によって手に入れた脚力と、足に強化魔法を優先し施した器用さだ。

 その脚力からなる勢いを生かし、フォルティナは杖をガストベアに向け全力で振りかぶった。

 しかし、相手は危険度Bランクの強敵ガストベア。彼女の攻撃を魔物としての本能で感じ取ったのか、ガストベアは全力で後ろに飛んだ。

 ガストベアがたった今いた場所は、小さい隕石でも落ちたかのような跡が残ると共に、手榴弾でも爆発したかのような轟音が森を支配する。

 世界最強の魔法使いを目指すフォルティナが行った攻撃は単なる物理攻撃。

 マギア一族は魔法……特に属性魔法などを得意とし、強化魔法を使う場合は自分自身の防御や、味方の攻撃の強化などの限られた場面である。つまりマギア一族に物理で戦う者など彼女を除いて誰一人としていない。

 ではなぜマギア一族である彼女が物理攻撃など頼っているのか。

 それは………………フォルティナは生まれながらにして、魔法の才には恵まれなかったのだ。

 恵まれなかった、というだけで使えない訳ではない。

 ただし使えるのはほぼ強化魔法のみで、魔法を放ったり、高度なものは何一つ使えなかった。

 だから彼女は己の未熟さを補うために肉体を鍛えたのだ。

 そんなフォルティナの一撃だが、今の一撃は彼女の渾身の一撃。それが外れ、丸みを帯びた幼めの顔には似合わない言葉をフォルティナは投げ捨てる。


「クソッ!!」


 攻撃を躱したガストベアは、フォルティナの近接攻撃を警戒してさらに距離を取った。

 遠距離攻撃の術を持たない彼女にとって致命的である。

 そしてガストベアは左手の鋭く生え揃った爪を振りかざし、風の刃を放つ。

 ガストベアの危険ランクが高い理由がまさにこれにある。これは決して魔力で放ったではなく、ただの腕力なのだ。

 つまりガストベアの体力が尽きない限り、風の刃は無尽蔵に飛んでくるという事。

 近距離、遠距離と隙のない危険な魔物だ。

 放たれた刃はフォルティナに向かって一直線に襲い掛かる。

 フォルティナはなんとか刃を凌ぐが、かなりのスピードで迫るため一つを避けるのに精一杯。さらに風の刃は、フォルティナの後方の木を真っ二つに切り裂き、それがそこかしこに倒れるため、フォルティナの意識は後方にも散らされる。

 フォルティナはなんとか距離を詰めようと隙を窺うが、敵はそれを決して許さない。回避にも強化魔法を施しているため、もしもフォルティナの魔力が切れればそこで試合終了だ。しかもフォルティナの魔力はマギア族一少ない。

 攻撃を避け続ける彼女の体には徐々に疲労が蓄積し、攻撃が掠り始める。

 そしてフォルティナの劣勢が続き、一本の木がフォルティナ目掛けて倒れた。

 フォルティナが倒木に意識を刈り取られたその時、ガストベアはそれを待っていたかのように一気に彼女との距離を詰め、風の刃を産み出す腕力でフォルティナの腹部を強打した。


「うっ!?」

  

 フォルティナはその攻撃により嗚咽し、血を吹き出し、吹き飛ばされ、幾つもの木々をなぎ倒し一本の大木に身を預けた。

 幸い強化魔法で身体を強化していたため、即死だけは何とか免れた。

 だが恐らく今の一撃で肋骨の何本かは折れただろう。


(くっそ………………まともに息ができもしない………………こんな所で死んでたまるか………………)


 彼女の願いはガストベアに届く筈もなく、ガストベアはどんどん距離を詰めていく。

 そんなガストベアの立ち振舞いを見て、フォルティナは死を実感した。


(あはは…………本当にやばいや………………これは本当に死んだかもな)


 フォルティナの中に芽生えたのは、自分に対しての怒りだった。

 なぜこんなに自分は弱いのだ、もっと……もっともっともっともっと努力しなかったのだと。

 一歩一歩確かに歩み迫るガストベアに、その怒りを乗せ、潰された腹から最後の足掻きかのように泣き叫んだ。


「私の名はフォルティナ!!!!!!!! いつか世界一の魔法使いになる女だ!!!!!!!!」


 叫び声は森中に響き渡り、それに感化されたかのようにガストベアは雄叫びを上げる。


「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!」


 そして四足歩行で一直線にフォルティナへ向けて突進した。

次回「マギア族の落ちこぼれ」

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