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ドール・イン・ファンタジー 〜ドール精霊を救う旅へ~  作者: 屑野メン弱
第一章 リュミエール剣魔学園編
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第四話 ユノ


 冒険者が去った後、私はすぐにレイの元へ駆け付けた。


「レイ! 大丈夫? 怪我はしてない? 顔を見せて」


 ――!?

 顔を上げた彼には既に右目はなかった。


「レイ…………………………………………ごめんなさい…………本当にごめんなさい」


 誓ったのに……貴方を元の世界に無事に帰すと…………そう誓ったばかりなのに! 私は…………。

 自分に怒りをぶつけている場合じゃない。今はレイを!

 血まみれのレイは顔を上げるとゆっくりと口を開いた。


「…………なんで君が謝るのさ…………でもよかった………………やっと話してくれて………………」

「ちゃんと説明するから! 今は治療が先よ!」


 私は急いで彼の目に手を当て、闇魔法で止血する。といっても私が使える治療魔法はなく、傷口を無理矢理塞ぐことしかできない。それは完璧なものではなく、彼の右目には斬り傷が残ってしまう…………。

 こんな時、ヴィーナスが居てくれれば………………。しかし居ないものは仕方ない。今はやるべきことをやるだけだ。

 なんとか止血を終えた私たちは一時の休息をとることにした。


 ◆◆◆


 人形が治療してくれたお陰で血は止まり、俺は平常を取り戻した。違和感はあれど痛みはない。決して視力が戻ったわけではないが、血を垂れ流して歩くより遥かにましだ。

 しかしこの人形は一体何者なのだろうか。あんなに物騒な冒険者を難なく追い払ったように見えたが。

 とにもかくにも聞きたいことがあまり多すぎる。まずは一番気になってることを聞こう。


「あの助けてくれてありがとう。えっと…………君は?」

「そういえばまだ名乗ってなかったわね。私の名前はユノ」


 そしてユノは、俺が森で目を覚ますまでの出来事を分かりやすく語ってくれた。


 ――――約三ヶ月前。

 事件の発端は精霊の森が、とある人族に侵略されたことから始まった。

 特異十二精霊……言わば神の使徒のようなもので、ユノと同様にドールの姿を持つ十二体の精霊が、人族によって次々と捕縛されていった。ユノもその内の一人だった。

 捕獲されたユノたち精霊は、皆が散り散りとなってしまい行方が分からず仕舞い。

 ユノの身柄はオスクロ公国のアンベシルという町の教会へと渡った。教会の神父はユノの魔力を用いて、精霊との適性が高い異世界人を召喚。ちなみに人族が異世界人を召喚する理由として、魔王とその民草である魔族の討伐、戦争での兵器利用が挙げられる。神父の場合はその異世界人……つまりレイを洗脳して特異精霊の力を自分のものにしようと企んだ。

 だがその作戦をユノは逆手に取り阻止し、レイと隷属契約を結んだユノは全魔力を使い、町ごと破壊して逃走した。


「つまり、貴方がこの世界に来てしまったのは全て私のせいなの。本当にごめんなさい」

「え? 召喚したのはその神父なんでしょ? なんで君が謝るのさ?」

「それは……私が捕まらなければ、貴方はきっと召喚されずに済んだもの」


 うーん……それは違う気がする。ユノだって捕まりたくて捕まってた訳じゃないだろう。そんなことを言ったら私利私欲のためにユノを利用しようとした神父が一番悪い。

 ユノは怪我の治療もしてくれたし、俺を見捨てずに冒険者から身を守ってくれた。むしろ出てくる言葉は感謝ばかりだ。


「えっと……ユノって呼ばしてもらうね? ありがとなユノ、助けてくれて」


 感謝の言葉を伝えるが、ユノの表情は決して晴れることはなく、その瞳は潤いを見せ、今にも罪悪感で押し潰されそうな趣きだった。

 そういえばもう一つ気になっていることがあった。

 それは俺の名前だ。もしかして俺の名前は…………。


「ねえユノ、もしかしてレイって名前は君が付けてくれたの?」

「……………………うん」

「そっか! 夢のなかで誰かにそう呼ばれた気がしてたんだ。とても良い名前だね。ありがとう」

 

 それから俺はユノの罪悪感を消すためにいろんな言葉を掛けたが、どれも彼女に届くことは無かった。それも当然だろう。俺はユノのこと、この世界のことをあまりに知らなさすぎる。上辺だけの言葉を並べても何の意味もなった。

 そしてユノの話によれば、俺の右目はこれ以上の回復は難しいとのこと。治せる者に心当たりはあるが、今からその者を探しても時間が経ちすぎて治療は困難と伝えられた。

 そんなどうしようもないことにもユノは謝罪を繰り返した。

 



 ユノが落ち着いた後、俺たちは村の反対方向へと歩き始めた。

 というのも、村での出来事をユノに話したら、村に戻る判断は良くないと言われたのだ。彼女の仮説によると、襲ってきた冒険者たちは村で情報を得た可能性が高く、さっきの冒険者以外にも追っ手がいると考えてるらしい。おそらくユノは、町を消滅させた罪……というのを建前にとして、未だに特異精霊としての強力な力を狙われ、俺は異世界人ということがバレれば各国が自らの国に取り込もうと動き出すのだそう。この世界の異世界人は必ずどこかの人族の国に召喚、管理され、その国に都合よく利用される現状、つまり俺とユノはお尋ね者というわけだ。

 そんな俺たちが向かう先、現在いるオスクロ公国から北西にあるリュミエール王国だ。

 これから向かう先、リュミエールについて俺は聞いてみる。

 

「なあユノ、リュミエール王国はどんな場所なんだ?」

「そうね……私はあまり人の国には詳しくないんだけど、リュミエールには世界に誇る学園があるわ。確か名前は……そう、リュミエール剣魔学園だったかしら」

「剣魔学園? 剣と魔法が学べるの?」

「ええ、それだけじゃなく教養も学べて、幅広い分野が学べるはずよ」


 おお、流石は異世界。学校の授業で剣と魔法が学べるのか。

 中学の時はやりたい部活も無かったし、滅茶苦茶魅力的だ。自分の身を少しでも守る為にも習ってみたいかも。もうあんな思いをしたくないし……。

 俺が興味深そうにしていたことにユノは気づいたのか、質問を投げる。


「レイは学校に興味あるの?」

「うーん、前の世界の学校はすごく退屈だったからちょっと興味あるかも」

「そう、なのね……」


 俺の言葉にユノは神妙な顔を浮かべ少し俯く。

 と思うと、彼女は何かを思い出したのか話に戻る。


「そうだ、リュミエールはマギアの一族と親密な関係にあったわね」

「マギア?」

「ええ、リュミエールの西の海ある小さな島に住む人族のことよ。その特徴は人族でありながら多彩な魔法を操ること。本来人族が得意とする魔法は強化魔法くらいなのよ。それに対してマギアは属性魔法に付与魔法など、魔族に劣ることなく扱えるわ。そのマギア族っていうのが剣魔学園の魔法講師を担当していたはずよ」

「なるほど……人族は魔法が苦手なの?」

「人によるけど、どちらかと言えばそうね。でも人族を甘く見ちゃだめよ。人族は強化魔法が得意なうえに、元々の身体能力がかなり高いわ。さっきの冒険者も常時、強化魔法を使っていたわね」


 そうだった。俺は既に人族の恐ろしさをその身を持って知っている。目にも留まらぬスピードで距離を詰められ、一瞬で剣を抜かれた。もしあの時、ほんの一瞬でも判断が遅れていたかと思うとゾッとする。


「そんな訳でリュミエールは、他国からの留学生もいて情報が集まりやすいのよ」


 リュミエールでは情報収集、そして俺の傷のしっかりとした手当てをしに行くこととなった。俺の傷は魔法で無理矢理塞いだだけだから、一度しっかりと見てもらうべきと言われた。教会に向かえば、上質な薬草から抽出された回復薬がおいてあるからと。森にも薬草はあるがユノにはそれを回復薬にする知識もなければ技術もない。

 こうして俺たちはお互いの知らないことを語りながら、森を進んで行った。

次回「成長する魔法」

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