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ドール・イン・ファンタジー 〜ドール精霊を救う旅へ~  作者: 屑野メン弱
第一章 リュミエール剣魔学園編
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第十六話 少年と精霊


 私はその日、大切なものを失った。

 彼女とは幼い頃からいつも一緒で、そこにいるのが当たり前だった。

 私は第二王子の立場でありながら、いつも城を抜け出し、スラ街に遊びに行ったことを今でも鮮明に覚えている。

 そう……あの時は今とは違って自分の立場なんて考えず、自分がやりたい事を常に優先していた。

 あぁ……とても懐かしい。


 ◆◆◆


 ――今から八年前。

 私は父からの言いつけも守らず、よく城を抜け出し街を駆け回った。そんな私を街の人は毎日見かけるものだから、私の顔を覚え温かく見守ってくれた。

 そんな日々を過ごしていると、賑やかな場所とは異なり人気のない場所を見つけたのだ。

 不衛生かつ悪臭漂う路地裏。

 その頃の私は、まさかそんな所に人が住んでいるとは思わず、単なる好奇心でそこに足を踏み入れた。アンデットと遭遇してもおかしくなさそうな、光の届かない狭い道を進んだ先に、開けた場所を見つけた。

 そこには私と同じくらいの歳の少年少女が、十人程度のグループを作り共に行動し遊んでいた。彼らの服装は私の豪奢な服とは違い、汚れが目立ち風通しがとても良く、身分の違いというものを思い知らされた。

 しかし、生きることに精一杯であろう彼らは、今まで会った人の中で誰よりも幸せそうだった。決められた挨拶、決められた服装、そして他人の顔色を窺いながら生きる貴族とは違って。

 だから私は彼らに興味を持ち、勇気を振り絞り話しかけた。初めは迷子になった貴族の子供と勘違いされたが、私が友達になりたいという気持ちを伝えると、皆が優しく迎え入れてくれた。

 それから私は毎日スラムに顔を出すようになった。かくれんぼに鬼ごっこ、どれも王城では出来ない遊びを皆んなが教えてくれた。

 彼らをまとめるリーダー…………いや……今では私のリーダーでもあるアルクという少し年上のお兄さんがいつも私の事を気遣い、一緒に居てくれた。スラムで分からない事があればすぐに教えてくれて、私は彼を敬いアル兄と呼んだ。

 そんな彼に、私はこの国の第二王子である事を伝えた。その立場と身分の違い、そして彼らの貧しい現状が私たち王侯貴族にあると知れば、突き放される当然だと思った。

 しかし彼は私の事を友と言ってくれた。立場など関係なく、気兼ねなくレクスと呼んでくれた。私はそれがとてもとても堪らなく嬉しかった。

 今思えば、私たちは既に親友と呼べるほどの仲になれてたのだと思う。

 なぁ……そうだろ? アル兄…………。

 そしていつものように、私とアル兄が二人路地裏を歩いていた時、何やら見かけない男達が周囲を気にせず揉めていた。


「しっ! レクス静かに!」

「うん!」


 よく見ると男達が囲う中心には、何やら小さな生き物が飛んでいた。小さな生き物は言葉を介し、男達に抵抗している。


「離してなの!!! やめてなの!」

「大人しくしろ!!!」

「チッ! 黙ってこの中に入りやがれ!」


 男達は手に持つ小さい箱の中に生き物を押し込もうとしていた。


「誰か!!! 助けてなの!」


 その言葉を聞いて私は迷わず飛び出した。


「お、おい! レクス!」


 私はアル兄の言葉を無視して男達の前に出る。


「そこまでだお前達! その子は嫌がってるだろ!!!」

「あ? 何だお前。ガキが何の用だ」

「その子を離せと言っている」

「ハハハ! なんでガキの言うことなんざ聞かなくちゃならねぇんだ?」

「私はこの国の第二王子だ。剣に魔法、体術だってそこそこ自身がある!」


 いくら剣や魔法を学んでいても所詮は一人の子供。大の大人三人に敵う筈がないのは瞭然たる事実であり、私は相手に舐められないよう虚勢を張る。しかし当然そんな虚勢を男達が信じるはずもないため、私は詠唱を唱え彼らに戦う意思を示した。


「お、おい、こいつマジでやる気だぞ……」

「チッ! 一旦引くぞ! こんな所で騒ぎなんて起こしたら俺らが叱られんだ」

「覚えてろよ! ガキが!」


 拙い子供騙しではあったが何とか成功し、小さな生き物を助けることが出来た。

 事態の収集を陰から見ていたアル兄は、私の元に駆け寄り、


「バカ! 何かあったらどうするんだ!!!」

「ご、ごめん」


 私を心配し、アル兄は怒ってくれた。

 そして私達の元に、助けた生き物が飛んでくる。


「助けてくれてありがとうなの! 感謝なの!」


 そう、これが私とウィリアの出会いだった。

 それから何故かウィリアは私の後を着いてまわるようになった。城へ帰る時も、スラムへ遊びに行く時もずっと着いてきた。

 スラムの皆んなもウィリアと毎日遊び、ウィリアはとても楽しそうにしていた。

 ある時、唐突にウィリアに聞かれた事がある。


「ねぇレクス。この前何で助けてくれたの?」

「え? そりゃあ困ってる人がいたら助けるのは当たり前だろ? 自分が困ってる時に助けてもらえたら嬉しいじゃないか。なんかおかしいか?」

「うん! とても可笑しいの! 私は上位精霊なの。人間は皆んなその事を知ると、契約しようとしたり、私を無理に捕まえようとするの。それが普通なの」

「そうか。色々大変なんだな」

「そうなの」


 ウィリアはどこか嬉しそうにそう語った。

 しかしこの時の私はその精霊の力、そして人間がどれほどそれに固執しているのかを知らなかった。いや、甘く考えていた。

 その三日後にあの事件は起こったのだ

 いつも通り私は城を抜け出し、ウィリアと共にスラムへと向かっていた。

 歩き慣れた路地裏を進むに連れて、私は異変に気付く。

 普段は子供が元気に走り回り、賑やかな場所が気味の悪いほど静かだった。


「おーい。みんなー来たよー」

「何かのサプライズだったりしてなの!」


 そして裏路地を抜け、いつも皆が集まる広場を覗くと…………


「な、なんだこれ……」


 明らかに誰かが争った形跡。汚れた地面をその上から染め上げるように真っ赤な血が飛び散り、いつにも増して異臭が漂う。

 そしてそこには、誰一人も居なかった。

 まるで全てが手遅れと言わんばかりに、静寂が私の心を不安にさせた。

 そんな静寂を作ったであろう人物が私達の前に姿を現した。

 奴らの顔を見て私は確信する。 


「お前達か!」

「この間は世話になったな! ガキ!」

「此処に居た皆は何処へ連れていった!!!」


 すると男達は互いの顔を見合い、嘲笑の笑みを浮かべ笑いながら言った。


「あぁあいつらの事か! いやな? 精霊を探すのに邪魔くさいもんだから奴隷商に売り渡したわ! アハハハハ!!!」

「……………………は?」


 思考が止まった。

 その時の私は、彼等が何を言っているのか理解出来なかった。

 今思えば、あれは私が精霊の捕縛を邪魔した単なる嫌がらせだったのだろう。

 しかし幼かった私にとって、既に奴等は我が友を奪った敵としか見る事が出来なかった。


「ウィリア……力を貸してくれ」

「うん!」

「あ? やんのか!」


 そして私はこの時、初めて人を殺めた。


 奴等を片付けた後私は直ぐに城に戻り、父上……いや王に頼み事をした。


「父上! どうか! 我が友を! 救うために力をお貸し願いたい!」

「そうか……お前はこれまでスラムに行っていたわけか…………おい! お前達! この愚息を牢に閉じ込めておけ!!!」

「はっ!」

「父上お願いです! 話だけでも!」

「話などないわ!」


 父上は聞く耳を全く持ってはくれなかった。

 私は父上の命により、城の地下牢に軟禁された。


「クソ!!!!!!!!! 同じ人間じゃないか!!!」

「レクス………………」


 行き場のない怒りを拳に込めて、罪のない壁をひたすら殴った。

 悔しかった。スラムの人間というだけで関わるなと言われ、何も出来ない、言い返せない自分が。

 知らなかった。人間があそこまで精霊に執着し、その力を欲している事を。

 もっと高い地位があればその現実を変えられるかもしれない。

 もっと知識を身に付けていれば、あの男達に対しても、いくらでもやりようは有ったのかも知れない。

 一週間。

 私は地下牢でそんな事を考え続けた。

 そして決めた。


「ウィリア、私はこの国の王になろうと思う」

「どうしてなの?」

「王になって、奴隷制度を撤廃したい。それだけじゃない。人間社会の格差をもっともっと小さいものにしたい。せめて貧しい人達がもう少しまともな生活を送れるように。この国だけじゃない。他国も含めて出来る限り全ての人がそうであれるように!」

「フフフ、レクスらしいの。もちろん応援するの。じゃあレクス。次期王様には立派な臣下が必要なの。私に貴方の夢の果てを、隣で見守らせて欲しいの」

「あぁ勿論さ。もし私が道を踏み外しそうになったら……その時は頼むよ」

「任せてなの。じゃあレクス手を出して」

「こう?」


 私の手とウィリアの小さな手が重なり合い、ウィリアが詠唱を始めると共に光が生まれた。


「我、光の上位精霊ウィリアは聖光精霊ヴィーナスに誓うの。誰よりも優しきかの者の名はレクス・リュミエール。友を結び、対等たるレクスと今ここに契約を結ぶの! ディア・コントラクト!」

「これから宜しく。ウィリア」

「うん、こちらこそなの」


 こうして私はウィリアと正式な精霊契約を結んだ。


 ◆◆◆


 そうだ。

 私の目標は、夢は王になることでは無かった。

 それはあくまで過程であり、最終的なものではない。

 いつから私はその事を見失っていたのだろう。

 ウィリアはいつもその事を伝えてようとしてくれていたのに。

 私は彼女がいなくなってから気付いた。

 そして彼女がいなくなって、私にとってウィリアがどれほど心の支えになっていたのか気付かされた。

 ただ隣に居るだけで安心した。

 こんな愚かな私では愛想尽かされても当然か………………

 なんて下を向いている場合か! 私は!

 彼女は最後に大切な事を教えてくれた!

 だったら私は! それに応えるべきだろう!!!

 見失っていた道を! 一人であろうと歩くべきだろう!

 そうだろう…………?

 そしたらいつかまた……彼女と再開した時に……私は彼女と正面から向き合えるだろう。

 その時まで私は、私の成すべきことをやるだけだ。

次回「偽りの歴史」

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