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ドール・イン・ファンタジー 〜ドール精霊を救う旅へ~  作者: 屑野メン弱
第一章 リュミエール剣魔学園編
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第十五話 契約破棄


「そこまで! 勝者! フォルティナ・マギア!」


 フリーズが勝ち名乗りを上げ、試合は終了した。

 誰も予想出来なかった結末に闘技場全体が活気に満ち溢れ、歓声が鳴り響く。

 一方、観客席にて次の試合を控えていた二人は、フォルティナの勝利の余韻に浸る間もなく、気を引き締めていた。


(次は俺たちの番だね。最初は出来る限り自分の力で頑張ってみるから見ていてくれ。)

(分かったわ。あまり無茶はしないでね。姿が見られたくないと言っても、人族は特異精霊の姿やその力に詳しくない筈だから、そこら辺は気にし過ぎなくて大丈夫よ)

(了解。それじゃあそろそろ行こうか)

(ええ、必ず勝ちましょう)


 そしてレイとユノは、闘技場のフィールドへと向かった。

 フィールドには既に第二王子が剣を持ち、精霊と共に待っていた。

 そんな第二王子に対して、レイはまだ剣も扱えず杖を持っていないので、体から直接の魔力変換を行い魔法を使用する。つまり手ぶらという訳だ。

 鋭い眼差しで二人は睨み合い、戦闘態勢に入った。


「私が勝ったら約束通り精霊とは契約解除してもらう」

「約束はした覚えないんですが……とはいえ負けるつまりは一切ありませんので」

「そうか、悪いが全力でいかせてもらうよ」


 第二試合。

 第二王子VSレイ。

 フリーズは双方の準備確認をした後、試合開始の合図を出した。


「それでは! 試合開始!!!」


 合図と同時にレイはレクスから、背を向けずに距離を取る。

 しかし第二王子はそれを許さず距離を詰める。さらに光の精霊ウィリアが、レクスの後方から魔法を放つ。


「くそッ! ダークネススピア!」

「ホーリーアロー!」


 レイは第二王子に向けて闇魔法を放つが、ウィリアの光魔法で完全に相殺される。そのタイミングでレクスはレイに斬りかかるが、レイはギリギリこれを回避した。

 その攻防を見ていた観客は、レイが闇魔法を使用した事に戸惑いを覚えた。


「おい、今の見たか?」

「あ、あぁ、あれは闇魔法だ……」

「どうゆうことだ? 闇魔法を使えるのは異世界人か精霊使いだろ?」

「ってことはあいつは、そのどちらかということか…………」


 観客席は騒然としているが、レクスは構うことなく攻撃を続けた。

 完全に二対一の状況ではレイは、攻撃魔法を防御が代わりに使うことしか出来ず、逃げることで精一杯。そんなレイに第二王子は、レイの見えてない右目の方から攻撃を仕掛け優位を維持する。その攻撃は当たれば致命傷、又は死に至るほどの勢いであった。

 そんなレクスに物申したのは、審判でもレイでもなく、ウィリアだった。


「レクス! いい加減にしてなの!!! そんな攻撃当たったら致命傷になっちゃうなの!!!」

「うるさい! これでも手加減してやってるんだ!」


 レクスとウィリアは試合中にも関わらず揉め始め、ウィリアの攻撃の手は止んだ。しかしレクスは一切攻撃を止めることなく、レイを容赦なく追撃した。


(クソっこのままじゃ!)

(レイもういいわ。貴方は十分頑張った。後は私に任せて)

(ご、ごめん)


 そしてレイとレクスの間に、闇の攻撃魔法が生まれた。


「ブラックボム」

「!?」


 レクスは突如出現したその攻撃を躱すことに精一杯。すかさず攻撃を止め、後ろに飛んだ。


「な! なんだ!?」


 レイの影の中から精巧かつ精緻な人形が姿を現した。

 

「初めまして、私の名前はユノ。闇の上位精霊よ。よろしくね」

「……やっと姿を表しましたね上位精霊。私は貴方を救うために必ず勝って見せます!」

「はぁ…………何を言っても無駄そうですね」


 レクスは態勢を立て直し、再び剣を構える。


「ここからは本気でいきます! いきますよ! ウィリア!!!」

「………………」

「ウィリア?」


 レクスは応えないウィリアを不思議に思い振り返ると、ウィリアは唖然としていた。


「おい! ウィリア! 戦いは終わってないぞ!」

「無理なの………………私はもう戦えないの…………戦いたくないの」

「な!? なにを言ってる!」


 ユノの姿を見たほとんどは、唯の人形の形をした精霊と認識していたであろう。

 しかしこの場でウィリアだけが彼女の正体を理解できた。知っていた。

 嘗て、ウィリアが見たユノの姿は今とは異なっていたが、その魔力を間近で感じればすぐに分かること。


「レクス……あの方は上位精霊なんかじゃないの…………」

「ど、どうゆう事だ?」

「あの方は特異十二精霊の一角、闇影を司るユノ様なの……」

「な!? こんなところに特異精霊がいる訳ないだろ! 大体! 特異精霊と人間が契約できる筈がない!」


 レクスはウィリアの言葉を信じる事なくその事実を疑った。しかしそれも仕方ないことであった。特異精霊という言葉は、歴史や御伽話の一部でしか語られない単語であり、ここ数百年はその存在が公になることは無かったのだ。それは特異精霊の希少性故か、将又誰かの思惑によって隠されたものなのか、それを知るものはこの場にはいない。

 そしてユノはそれを肯定する。


「やっぱり貴方たちに正体を隠し通すのは難しいようね。貴方、ウィリアといったわね。ウィリアが言ったように私は確かに特異精霊よ。でも一つ訂正しておくわ。今の私たちを魔族達は親しみを込めて、ドール精霊と呼ぶの。出来ればそう呼んでくれると嬉しいわ」

「わ、分かりましたの」

「――――!!」


 戦いを放棄し、精霊と喋り出すウィリアにレクスは怒りをぶつけた。


「おい! ウィリア! いい加減にしろ! 戦わないのなら何のためにお前はいるんだ! それに特異精霊なら尚更助けるべきじゃないか!」


 そんなレクスの八つ当たりに、お淑やかで優しいウィリアは大粒の涙を流しながら遂に反論した。


「いい加減にするのはレクスなの! レクスは変わっちゃったの! 昔のレクスは困ってる人がいたら真っ先に助けて、何の見返りも求めず、優しくて優しくて優しかったの!!!」

「な、何を言って…………今だって! 僕は王子として困ってる人がいたらすぐに助けに入ってる! 何も変わりはしない!」

「全然違うの! 最近のレクスが気にしてるのは王子としての評判ばかり! 私にはレクスが自分の地位の為に動いてるようにしか見えない! レクスは目的を見失ってるの! レクスの夢はなに! 王になること? 違うでしょ! 王になることはあくまで手段だった筈なの! 私は貴方の夢の果てを一緒に見たかったの! 一緒に隣で貴方の夢を叶えてあげたいと思ったの! だから私は貴方と契約を交わした! でも!!! 今のレクスは見てられないの…………ねぇ…………レクス……私は道具じゃないの…………私は今のレクスにはついていけない………………だからごめんね、レクス」


 ウィリアはレクスにありったけの思いをぶつけた後、詠唱を始めた。


「立てた誓いに叛く愚かなる者の名はウィリア!」

「まっ!!! 待ってくれ! ウィリア!」

「共に歩んだ軌跡を断ち切り! かの者レクスを自由の身に! 我が意思! 我が魔力を持って! ここに契約破棄を宣する!…………………………さようならレクス」

「う、嘘だろ………………」


 そしてウィリアはレクスの前から姿を消した。

 ウィリアが姿を消した後、第二王子は戦意喪失し、勝負は無効となった。

 観客が理解できたのは、第二王子の対戦相手が上位精霊使いだったこと。そして第二王子が精霊に愛想を尽かされたことだった。

次回「少年と精霊」

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