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ドール・イン・ファンタジー 〜ドール精霊を救う旅へ~  作者: 屑野メン弱
第一章 リュミエール剣魔学園編
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第十二話 模擬戦


(さて、試験と言ったが過去にこんな事例はなかったからな、どうしたものか)


 グランデールは学内の小さめの訓練場に向かいつつ、試験内容を考えていた。というのも、理事長自ら試験を担当することすら異例中の異例であり、試験管は別に存在するからだ。では何故理事長自ら試験を行うのかというと、単なるグランデールの好奇心から来る行動であった。

 迷宮かと思うほど長い廊下をいくつも曲がり、グランデール、レイ、フォルティナの三人は訓練場にやって来た。

 学園に存在するいくつかの訓練場は、魔法や剣の授業の実技に使われたり、生徒同士の決闘などに使われている。小さめといえど、数十人の生徒が同時に向かい合い、剣や魔法で打ち合うには十分な広さであり、その見た目は闘技場に近い。そんな広さにレイとフォルティナは唖然としつつ、理事長の後に続き、その中心へと向かう。それと同時に影に潜むユノが、再び姿を現した。


「それではまず君からだ、レイ。今回は精霊の魔力を借りるのは無しだ。もちろんユノ様が手出しすることもな」

「わ、分かりました」

「そうだな…………五分以内に攻撃を一度でも当てられたら上出来といったところだ。魔法でも接近戦でも構わないよ」


 ルールを確認し、レイとグランデールは向き合い、戦闘態勢に入る。


(ふむ……姿勢や、試合前の視線の落とし方から推測すれば、戦いに置いてはかなりの素人と見える。しかし…………この世に特異精霊と契約出来る者が未だに存在したとは…………)


 ユノの正体を見破ったグランデール…………ではなく、ユノ正体に気づいた司教ベルゼーは、その事をグランデールに伝えていた。話を聞いたグランデールは自分の耳を疑うほどの衝撃であったのだ。俄には信じ難いその事実は、ユノがその姿を見せることでグランデールに現実を突き付けた。

 グランデールも、レイを素人と侮る事なく、フォルティナの合図で戦いは始まった。

 フォルティナとユノが見守るなか、レイは冷静に魔力を練り上げ、グランデールにシャドウスピアを放つ。

 だが勿論レイの攻撃が通用する訳もなく、グランデールは歩いてその攻撃を躱す。


(やはり闇の魔法か…………しかし魔法の発動が遅すぎるな……今まで魔法を使ったことが無いのか?)


 グランデールはレイの攻撃を避けながら、考え事をする余裕すら見せる。それもそうだろう、理事長グランデールは、嘗てこのリュミエール学園で魔法成績次席、剣術成績次席を叩き出した実力者であり、魔剣士としてなら彼の右に出る者はいないだろう。魔法は集中力が求められる高等技術であり、剣を構えながら使用するなど、普通の人にとっては不可能に近い。つまり剣と魔法を両立する魔剣士というだけで、その実力の高さがうかがえるのだ。

 そんな実力者相手に、レイは闇影魔法を屈指し対応するが、その攻撃は全て回避された。

 残り時間僅か、レイの魔力も僅かに近づいた時、レイはグランデールに仕掛ける。


「敵を捕縛し、その自由を奪えシャドウバインド!」


 レイが使用した魔法は、自分の影を利用し敵を捕縛する魔法。一時的ではあるが敵の動きを封じることが出来る。以前ユノが冒険者相手に使った、敵の影を利用し、敵を捕縛する魔法シャドウリストレインの下位互換ではある。

 そもそも影を操る魔法を使えるのは、この世界でユノとレイだけであり、初見殺しには持ってこいだった。

 レイの足元の影はグランデールに向けて一直線に襲いかかる。この魔法は敵そのものを攻撃する物ではなく、敵の影を狙うもの。そんな希有な魔法に対応出来なかったグランデールは、レイの魔法により拘束された。身動きの取れないグランデールに一撃与えればレイの勝ち。そう思いレイが攻撃魔法を放とうとするが、グランデールはいとも簡単に拘束を解いてしまった。

 その時間僅か一秒。

 そしてグランデールが試合を止めた。


「よし! そこまで! 合格だ、レイ」

「え? でも攻撃魔法を当ててませんが」

「確かに……だがこれが戦場だったらどうだ? 私は君にほんの僅かながら動きを封じられた。その僅かな時間が戦いでは勝敗を左右する。よって君は合格だ」

「あ、ありがとうございました」


(素人といっ言って切り捨ててしまえばそれまで……………戦いのセンスはなかなかのものだ。自分がいかに弱いかという事を理解している。自分の実力を測れるものは、そうはいない)


 レイは腑に落ちないような顔を浮かべ、ユノの元に戻った。するとユノは今まで見たことがないような笑顔を浮かべていた。


「よくやったわ! レイ! まさかここまで戦えるとは思ってなかったわ!」

「ほ、本当? なんか何も出来なかった気が……」

「あれほどの実力者に一泡吹かせたんだから十分よ!」


 そんな二人を横目に、今度はフォルティナが一歩前へと出た。


「次は私ですね。よろしくお願いします」

「あぁよろしく。君も同じルールでいいかね?」

「グランデール理事長。無礼かと思いますが、一分間の手合わせでお願い出来ないでしょうか」

「ほう? 私は別に構わないが、私はこう見えてそこそこ強いぞ?」

「えぇ分かってます」

「そうか、まぁいい、君からかかって来い」

「ではいきます! 手加減出来ないので全力で避けて下さいね!」


 グランデールに攻撃宣言をしたフォルティナはその距離を一瞬で詰め、グランデールに鉄の杖で振りかぶった。


(!? なんだこの速さ、威力は…………最初から足に強化魔法を施して…………いやただの脚力か……そしてこの威力は強化魔法と単なる力の合わせ技…………シンプルにして強力無比か…………)


 グランールは攻撃のタイミングを合わせ後ろに飛び、なんとかフォルティナの攻撃を躱したが、あまりに強力な攻撃は地面を抉り、とてつもない余波が学園を揺らした。フォルティナは直ぐに体制を立て直し、体制を崩したグランデールにさらに追撃を掛ける。フォルティナは幾度も攻撃を仕掛けるが、グランデールには後一歩が届かない。その様子は敢えてギリギリに回避しているようにも見てとれる。

 無茶苦茶な攻撃を続けるフォルティナに疲れが見えて来たのを、グランデールが見逃すはずもなく、足元に土魔法で壁を作り、一気に距離を離す。


(これは、思ってた以上だな。面白い! まともに打ち合えばこの私が押されそうだ)

 

 グランデールは不利な状況を打開すべく、初級の水魔法でフォルティナを牽制した。初級の魔法を使う理由は単なる手加減である。しかし対人戦の経験がないフォルティナには十分過ぎた。

 間合いが空いてしまったフォルティナは無理にでも距離を積めようとするが、グランデールがそんな余裕を与えない。


「ちっ!」

「そろそろ時間だ。決めさせてもらうよ」


 その一言でグランデールは目に留まらぬスピードでフォルティナに接近した。迫られたフォルティナは、理事長が距離的優位を捨てる可能性を考慮しておらず、理事長の攻撃に反応できず、腹部に強打を喰らい試合は終了した。


「クッソッ!」


 フォルティナは相当悔しいのか地面を殴り付け、己を心を鎮める。そんな様子を見ていたグランデールは倒れたフォルティナに近づき手を差し伸べた。


「合格だフォルティナ。どうやら私は君を過小評価していたようだ。その歳で、ここまでの強者は見たことがない」

「…………あ、ありがとうございます」


(しかし戦って気づいたが、魔力の減り方が異常に早いな…………いやもしや彼女は……………………だとしたら)


 グランデールは何かを思い出し、それをフォルティナに伝えた。


「フォルティナよ。君がこの学園を卒業した時、私は君に二つの道を示そう。それまで自分の腕を磨くといい」

「道ですか? よく分かりませんが、理事長に言われなくても私は日々精進するまでです」


 フォルティナには何の事か理解出来なかったが、理事長に言われなくても己を磨き続けるのがフォルティナだ。


「そうか、それならいい。では二人とも入学手続きをするから、後で理事長室に来たまえ」

「「分かりました」」



 

 グランデールは一足先に理事長室に戻り、立派な椅子に腰を掛けると、無意識にほくそ笑んでいた。


(特異精霊使いに、ロクに魔法を扱えないマギアの娘か。実に面白い。そういえばレクトールが言っていたな、今年はとんでもないマギア族が入学してくると言っていたが……まさかな。しかし問題はレイのほうか…………入学を許可したものの、間違いなく帝国の特異十二騎士が来るだろうな。この国が特異精霊の力を我が物にしようとしていると難癖つけて戦争なんて起こさなきゃいいが…………まぁその時はその時だろう)


 こうして、レイとフォルティナは試験には合格したものの、二人とも歯痒い気持ちを抱えたまま、理事長室に戻るのだった。

次回「マギア族と第二王子」

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