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ドール・イン・ファンタジー 〜ドール精霊を救う旅へ~  作者: 屑野メン弱
第一章 リュミエール剣魔学園編
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第十話 聖光ヴィーナス大聖堂


 太陽が少し傾き始めた昼下がり、俺とフォルティナはリュミエールの活気溢れる大通りを歩いていた。

 ユノはというと、人目に付かないように俺の影に隠れいる。俺とユノは隷属契約を結んでいるため、言葉を介さずとも互いの魔力に思念を乗せて意思疏通が可能であった。


(ユノ? とりあえず教会? に向かえばいいのか?)

(いえ、その前に正式な身分証の発行を済ませましょうか)


 ちなみにフォルティナにはユノの思念が飛ばせないため、伝達事項があればその都度俺を介して伝えた。

 まず俺たちは身分証を発行するべく役所に向かった。整然と並ぶ建物の中に一際目立つ建物は、ここが役場だと言わんばかりに堂々と佇む。

 今現在俺たちは壁内の外側にいる。そのためか建ち並ぶ建物は民家がその殆んどを占めているため、それ以外の建物がとても分かりやすい。

 役場に入ると、商人っぽい人や冒険者、一般の人など、とても様々な人で賑わっていた。外から人も訪れるためか、まさに西洋という感じの屈強な兵士、騎士が警護に当たっている。

 早速俺とフォルティナも受付の人に仮の身分証を提示した。入国した際と同じように荷物検査や、聞き取りが行われたが、今回はそこまでの時間拘束されなかった。


「案外さくっと終わったね。フォルティナはこの後どうするの?」

「私はすぐにでも剣魔学園に向かおうかなと」


 剣魔学園に向かうというフォルティナだが、彼女もまた完全には体が癒えてはいないはず。フォルティナも一緒に治療をしに来るべきだと思う。


「まだ傷治ってないんでしょ? ちゃんと治療しないと駄目だよ」

「で、でも……」

(フォルティナも一緒に来るように伝えて。一度ちゃんと診てもらいなさいって)

「ほら、ユノも言ってるよ」

「わ、分かったって……でも回復薬の値段にもよるでしょ?」


 余程早く学園に向かいたいのか、フォルティナの答えは渋々であった。しかしフォルティナの言う通り、問題はその値段にある。以前ユノに教わった話によれば、この世界は銅貨と銀貨が主流で銅貨百枚で銀貨一枚、銀貨百枚で金貨一枚の価値を持つと言う。金貨についてだが、金貨はその殆んどが貴族などの上級階級の人間が持つ代物で、市場には余り多く出回らないそうだ。ユノとフォルティナに回復薬の値段を聞いたが、可能性として金貨数枚の価値があるかも知れないそうだ。そうなると一本買うのすら困難となる。

 ともあれ実際教会に行って聞いてみないと、なにも始まらない。

 フォルティナも同行することが決まり、俺たちは学園や貴族の屋敷が連なる壁内の中心地へ向かった。




 その姿はまさに西洋の大看板、あまりにも特徴的なその形からこの世界を殆んど知らない俺でも一目見れば教会だと分かる。


「ここが教会なんだよね」

(ええ、恐らくここが聖光ヴィーナス大聖堂……嫌な名前ね)

「え? 名前?」

(いえ、なんでもないわ。取り敢えず入りましょうか)


 大聖堂にはたくさんの信者やそれ以外の一般人も出入りしていたため、俺たちはそれに続いて教会へと足を踏み入れた。教会の巨大な空間はいくつもの足音を反射させ、信者達の会話などがそれぞれ混じりあい、雑音として響いていた。

 しかし更に奥へ進むと俺たちはその異変に気づいた。

 まるで俺たちを迎えるかのように、何人かのシスターが佇立していた。


「御待ちしておりました。司教様より御案内するよう仰せつかっております」

(レイ! 警戒して!)

(分かってる!!!)


 おかしい、どうゆうことだ。誰も俺たちがリュミエールに向かうことを知らないはず、例え知っていたとしてもなぜ大聖堂に向かうことが分かったんだ? もしかして追手……俺たちがリュミエールに向かうことを予測して、先に情報を与えていたのか? でもそんなことをするのだったら自分で捕まえた方が速いんゃ……もしかしてフォルティナの知り合いだったとか? だがフォルティナの様子を見るからにそうは思えない。或いは司教が特別な力を?


「そう警戒なさらなくても大丈夫です。私たちは貴女方に危害を与えるつもりはありません」

(どうするユノ? この人のこと信用できるの?)

(全く信用できないわね。何かあったら私が魔法で対処するわ。警戒を怠らず、取り敢えず着いて行ってみましょうか)

「……分かりました。では神父の元に案内してもらってもいいですか?」

「畏まりました。では此方に」


 俺とフォルティナは常に緊張感を張り巡らせ、シスターの後に続いた。

 シスターに案内された俺とフォルティナは主聖堂にやって来た。入り口とは異なり、ここは不気味なほど静かだった。

 そして、立派な司教座の前に立つ男が恐らく司教だろう。一切の着崩れのない姿、佇まいは嫌になるほど神々しく、一目見ただけでかなりのプレッシャーが全身を駆け巡る。

 神聖なる身なりから、明らかに高い地位に位置するであろう男は、頭を俺たちに頭を下げ挨拶の言葉を送った。


「この度は聖光ヴィーナス大聖堂に足を運んでいただき誠に感謝致します。私がここの司教を任されている、ベルゼーと申します」

「は、初めまして。私はフォルティナというものです」

「俺はレイと言います」


 俺は今のやり取りに異様な違和感を感じた。本来司教という立場の人間が、そう易々と一般人に頭を下げて良いものなのだろうか。信者達にはそれなりに威厳というものを示さなければならないのではないだろうか。そんな司教について聞くべく、俺はフォルティナにコソコソと話し掛けた。


「ねぇ、フォルティナ。司教っていうのは結構偉いんじゃないの? 一般人にああやって頭下げるものなの?」

「そうね、司教は大司教に次ぐ地位の人間。この国では教会そのものにかなりの力があるはずなんだけど…………普通の人にあんな態度を取るかしら?」

「だよね?」


 だがそんな疑問は、司教の一言により吹き飛ばされ、違和感はさらなる警戒心に上塗りされた。


「おや? そこにいらっしゃる精霊様にはご挨拶頂けないのでしょうか」

「「!?」」

(!?)


 俺とフォルティナはその一言を聞きと、血相を変えて警戒体制から完全な戦闘態勢に入った。俺は体に魔力を巡らせ、フォルティナは背中に背負った杖を構えた。

 ユノはこの国に入る前から姿を隠している。その姿は決して誰にも見られてはいない。だというのに、司教はユノの姿を見ることなく、精霊と断言した。考えられるのはリュミエールに入る前の俺たちを何かしらの方法で知っていたか、はたまたユノの存在を今現在知ったかだ。

 そんな疑問に答えるかのように、ベルゼーは口を開く。


「おっと失礼しました。そう警戒なさらなくて大丈夫ですよ。私は貴女方に危害を加える気は本当にありません。私は生まれつき精霊の魔力をとても強く感じることが出来るのです。驚かせてしまって申し訳ない」


 司教の口振りを信じるなら、どうやらたった今精霊の力を感じ取ったようだ。だがこの国に入ってからユノの存在に気付く者は誰一人いなかった。本当にそんなことが可能なのだろうか。

 すると隠れる意味を失ったユノは、俺の影からその姿を現した。


「初めまして司教。姿を隠していたことをお詫びするわ。私の名前はユノ。闇を司る上位精霊の一角よ」 

「これはこれは、姿を御見せ頂き感謝申し上げます。上位精霊…………なるほど……我ら聖光ヴィーナス大聖堂一同、あなた様の御来訪心より歓迎致します」


 ユノが姿を晒すと、司教は更に深々と頭を下げ、ユノを歓迎した。その姿はまるで神と相対しているかのよう。


「この度はどのような御用件でおいでになられたのでしょうか」

「高濃度の回復薬は置いてるかしら? 出来れば値段を知りたいの」

「回復薬ですか? 本来でしたら金貨一枚ですが…………」

「そう……やはり高価な品物なのね」

「ですが、精霊様からお金を頂くわけにはいきません。高濃度となるとそこまでの数はありませんので、いくつかによりますが無償で御譲り致しましょう」

「いいの? 悪いけど見返りを求められても、その期待には応えられないと思うのだけど」

「見返りなどとんでもございません。精霊様あっての教会なのです。是非受け取ってください」

「分かったわ。今回はその好意に甘えさせてもらうわ。ありがとう」

「勿体なき御言葉」


 司教の好意により俺たちはポーションをタダで二本受け取った。金貨二枚分も分けてくれるとは随分な太っ腹だ。とはいえそこまでさせる、ユノの存在がどれだけ凄いものなのか改めて実感する。

 用件はこれで済んだ。俺とフォルティナは司教に感謝を告げ踵を返そうとしたとき、ユノが司教を呼び止めた。


「ベルゼー司教、もう一つ頼み事があるのだけれど聞くだけ聞いてもらってもいいかしら?」

「勿論です。私に出来ることであれば、喜んで」


 回復薬以外の用事があったのだろうか? それなら事前に一言くれてもいいと思うのだが…………。


「ありがとう。私の契約者、レイをリュミエール剣魔学園に入学させるため、貴方に口添えをしてほしいの……無理にとは言わないわ」

「ちょっと! ユノ何言って!?」


 ユノがいきなり俺を学園に入学させると言ってきた。確かに以前興味があると口にしたことはあったが、お願いした覚えはない。それにユノの真意が全くわからない。やはり俺が邪魔だったのだろうか。寧ろそれなら納得だ。でも……短い付き合いでも十分分かるくらいユノは優しい。そんなやり方でユノが俺を突き放すとは思えなかった。

 ユノは俺の質問には答えず、司教の返答を待った。


「勿論可能ではあります。ただ他の新入生同様、試験は受けてもらう事になりますが」

「ええ、それで構わないわ」

「分かりました。それでは後日学園の方に足を運んでみてください。学園長と理事長には、私から話を通しておきますので」

「何から何までありがとう」

「いえいえ、当然の事をしたまでです。また何かあれば私にお申し付け下さい」


 こうして俺たちは教会での用事を済ませ、教会を後にした。

次回「リュミエール剣魔学園」

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