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ドール・イン・ファンタジー 〜ドール精霊を救う旅へ~  作者: 屑野メン弱
第一章 リュミエール剣魔学園編
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第九話 リュミエール王国


 少女を保護した二人は一息つける川辺までやってきた。

 少女の外傷はユノの魔法で塞げるが、骨折などの怪我は治すことが出来なかった。

 ユノは少女の水色の髪を見て何かを思い出したかのように呟く。


「この水色の髪…………もしかしてマギアの一族かしら?」

「マギアの一族って前に話してた、魔法を得意とする種族だっけ?」

「ええそうよ。でもいくらマギア族といえど、一人で森に入るのはとても危険だわ。それに一体これは…………」


 ユノが特に気になったのは、彼女が所持する武器だった。レイも気になったのか、それを手に取り抱えてみた。

 

「な、なんだこれ……め、めちゃくちゃ重い………………」

「これは鉄製の棍棒? …………いやでも先端に魔石が埋められているわね。やっぱり杖なのかしら」

「魔石って?」

「魔石は魔力を含む鉱石のことよ。魔石を通して魔法を使えば、威力が上がったり、魔石によって様々な恩恵を得られるわ。ほら、以前レイを襲った冒険者の魔法使いも杖を持っていたでしょ?」

「あ、そういえば」

「でも杖だとしたら尚更意味が分からないわ。魔剣士だとしても、ここまで重もかったらその機動力も無意味じゃないかしら……」


 ユノの疑問は尤もであった。一般的な魔法使いが所持する杖は、せいぜい指揮棒程度の木製の杖に小さな魔石を埋め込んだものである。国が所有する集団広域魔法師の杖ですら人丈程度であるが、それですら木製であり、機動力を損なうほどの重量はない。魔法使いとはいえ万が一にでも敵に背後を取られるような事があれば、自分で回避しなければならないこともあるだろう。そのような想定をしていれば、幾ら強力な魔法を使い、戦場で砲台の役割を果たしていたととしても、こんな機動力を犠牲にするような武器を選択するとは考えられない。


「まあ考えてもしょうがないわね。彼女が目を覚ますまでここで時間を潰しましょうか」

「そうだね。俺はその辺で食べられそうな物を探してくるよ」

「分かったわ。余り遠くに行かないようにね。何かあったら大声を上げて私を呼んでちょうだい」

「分かった」

 

 ユノは少女を見守り、レイは森へと探索に出掛けた。




 レイが川辺に戻ると、水色髪の少女は目を覚まし、痛々しく木に寄りかかっていた。

 

「ユノただいま。食べられそうな果物見つけてきたんだけど……」

「おかえりレイ。今ちょうど目を覚ましたところよ」

「始めまして。俺の名前はレイ、レイと呼んでくれて構わないよ。君は?」


 少女は、痛みに耐えながらゆっくりとレイとユノに名乗った。


「私の名前はフォルティナ。助けてくれて本当にありがとう」

「俺は大したことはしてないよ。ここにいるユノがガストベアを倒したんだ」

「こんな人形(からだ)だけど上位精霊よ。よろしくね」

「上位精霊!? なるほど…………通りでガストベアを退けられた訳だ」


 ユノは、以前レイと話し合っていたように、自分の正体を偽った。フォルティナに敵意がないとはいえ、万が一を考慮してのことだ。

 そして、森に立ち入った理由をフォルティナに尋ねたところ、フォルティナは自分のことを語った。自分がマギア族の落ちこぼれであること、家飛び出しリュミエール剣魔学園に入学するため、ここへ来たことを。


「そういうわけで、せっかく大森林まで来たものの、ガストベアにまんまと負けたわ」

「そうだったの……それはとても大変だったわね」


 フォルティナの話を聞く限り、ユノにはいくつかの疑問が残った。フォルティナの話では、自身がまともに使える魔法は強化魔法のみで、自身の魔力量がとても少ないため戦いは常に短期決戦であると。

 しかし魔力から生まれた存在である精霊にして、精神生命体であるユノには彼女のおおよその魔力量が目に見えていた……魔王に匹敵するほどの強大な魔力量が。そしてそれと同時に異常なほど魔力の流れの悪さが。

 そもそもユノが倒れるフォルティナを目にしたときには、彼女の魔力は殆んど減っておらず、何かしらの意図があるのかと感じていた。だが彼女の話を聞いた限りでは、その事を隠しているような言動は特に見られない。たとえ実力を隠していたとしても、わざわざ自分の身を危険に晒してまでガストベアにわざと負ける理由がないだろう。そう考えると、フォルティナは何かしらの理由で魔力を自由に使えない状況にあるとユノは結論付けた。もちろんその原因の可能性も頭に浮かんでいたが、フォルティナを完全に信用できない今は伏せておくことにした。


 ◆◆◆


 暫く話をした後、俺の提案により、リュミエール王国にはフォルティナを含めて向かうことになった。剣魔学園に向かうフォルティナと、傷の治療のために教会へ向かう俺たちの目的地が一致したためだ。なにより重症のフォルティナを放置しておけるわけがない。

 こうして三人で森を進んだのだが、その道中に魔物と遭遇するのは必然だった。問題は万全ではないフォルティナが「足手纏いにはなりたくない」と言い無理に戦闘に参加したことだろう。しかし俺とユノはフォルティナの戦闘能力の高さに驚いた。手負いだというのに、鉄の杖で敵を一撃で葬り去るのだ。だが流石に体に負担が来ているのか、息を切らし地面に膝を付く。


「ちょっとフォルティナ! あんまり無理しちゃ駄目だって!」

「だ、大丈夫よ。心配してくれてありがとうレイ。でも足は引っ張りたくないの。私は最強の魔法使いになるんだから、こんなところで足踏みなんてしてられないのよ」

「なんでそんなに最強にこだわるのさ……」

「私の夢であり目標だからよ」


 フォルティナは口癖のように最強の魔法使いを口にした。最強になるためには休んでられないといい、休憩中にも体を鍛え、深夜になれば静かに一人で何処かへ行き、後を付けてみればコソコソと鍛練していた。

 俺は彼女をバカだと思った。だってそうだろう? 魔法使いだというのに体を鍛え、聞いた話じゃガストベアに勝てないと分かっていながら、そのプライドの高さから勝負を挑み、案の定敗北し、殺されそうになる。誰が見たってバカじゃないか。努力すれば偉いのか? 努力すれば必ず叶うのか? やり方ってもんがあるだろう。

 彼女の行動一つ一つに腹が立つ。

 最強を目指すのはいいさ。

 そんなの好きにすればいい。

 でも…………


「死んだらそこで終わりじゃないか…………」

「え?」

「いや、なんでもない」


 俺はそんな言葉が口から溢れた。

 その言葉はとても霞むような声で、フォルティナには届いてはいないだろう。でもそれでいい。俺はフォルティナことを殆んど知らない。そんな上からものを言える立場じゃない。でもいつか真っ正面から言ってやりたいものだ。


「あんま無理すんなよ」

「うん」


 立ち上がるフォルティナに俺は手を差し伸べ、彼女はその手を取った。

 フォルティナが息を整えた後俺たちは再び、リュミエールまでの道を歩き始めた。




 それから三日ほど経ち、やっと森を抜け俺たちはリュミエール王国に到着した。

 町を囲う壁が近くで見ると圧巻の高さだった。


「やっと着いたーーー!!!」

「流石に遠かったわね」

「ところでユノとレイは、入国許可証を持っているの?」

「え?」


 入国許可? い、いや当然か。いきなり来たどこの馬の骨とも知れない奴を国に入れるわけがないか。

 ユノはどうするつもりだったのだろうか。


「いいえ、持っていないわ。でもリュミエールは仮の身分証を発行していたわよね?」

「うん。確か発行料と入国税が掛かるけど」

「なんだってかユノ、仮の身分証がなかったらどうやって入国しようとしたんだ?」

「え? 聞きたい?」

「い、いや止めとくよ」


 ユノは不適な笑みを浮かべ、俺に聞き返す。どうやらユノは不正入国するき満々だったようだ。その方法は知らないが。


「とりあえず私はレイの影の中に身を潜めてるから」

 

 ユノはそう言うと、門兵に姿を見られる前に俺の影に入った。やはり動く人形が、怪しくないわけがないのだ。

 そして俺たちは門兵に入国審査を受けた。手荷物検査に、入国の目的などこと細かく。少しでも疑いがあれば入国できないらしいが、俺たちは多額の税を払った後入国が許された。

 ちなみにお金についてはフォルティナが三人分の銀貨を払ってくれた。助けてくれたお礼として。三人分というのはフォルティナも俺たち同様入国許可証を持っていなかったからだ。

 長い入国審査を受けた後、俺たちはやっと門兵から解放されリュミエール王国の都市へと足を踏み入れた。

次回「聖光ヴィーナス大聖堂」

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