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  作者: hinokahimi
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第2章

~Ⅱ~


「ベストパートナーと結婚することが、自分たちにとっても、もし子どもを授かるのなら、子どもたちにとっても、とっても幸せなことなの。でも、この世界には、いろんな人生のシナリオがあるから、あえてぴったりと合わない人と結婚することを選ぶ人もいる。円になっていない空間を二人で一緒に体験を重ねて埋めていく関係もある。それから、全く形がバラバラだったり、ほんの一部だけ合っていたり、円になるには程遠い関係もある。いろんな種類の経験がある。どんなことを経験したいのか、その人が選んで生きている。だから絶対円になることだけが正しい、って訳ではないんだって。」

「うん。」

「でも、円になる関係は、その時点で相乗効果のように人生をクルクル進んでいける力を得ることができる。わたしは、傷ついた心で、その関係を願ったの。そのイメージが目の前で広がっていったから。」

マリアは、姿勢を少し正して、微笑んだ。

「円になるってことは、次の世代へといのちを手渡す土台になる。この世界で私たちは、当然のことだけど、いのちを繋いでいっている。いのちの流れの一部を担っている。おおよそ多くの人たちは、生まれて、成長して、結婚して、次の世代へといのちを渡して、そして、死んでいく。次の世代へと、いのちや環境を上手に渡していく。そのために、円になる。自分たちの喜びや幸せはもちろんだけど、その次の世代のための形なんだ」

「うん」

「なにも、自分たちの子どもを生みを育てることだけが、いのちをつないでいくって意味じゃなくて。環境、この世界自体のいのちも引き継いでいくことでもある。円になったパートナーは、太陽や月のように輝くことができる。そんな力さえ備わるの。不足なく満ち足りて、喜びを共有できる。そりゃ、辛いこと、大変なことだっていっぱいあるだろうけど、そんな二人なら、一緒に励まして乗り越えられる。そんな充足した喜びを共にしたひとつひとつの場面が、二人からどんどんと広がっていく。つながっていく。人や環境を通して。それが世界をつくっていく。その世界が、次の世代へと引き継がれていく」

「うん。仲良くて、すんごい調和してるステキなカップルって、見てるだけで幸せになるもんね。そんな気持ちさえも、知らぬ間に広がっていくってことだよね」

「そう。円になる二人が放つ雰囲気は、周りを和やかにする力さえある」

「円になったカップルが、それぞれ円舞しながら、すべての円と和をなしていく。なんかうれしくなるイメージだな」

 私は目を閉じて、無数の円が踊る情景を思い描いた。すると、クルクル回る舞踏会に、一つのいびつな形が混じった。スムーズな流れに滞りができてしまう。大きないのちの流れは、今もしかしたら、流れづらくなってしまっているのかもしれない。そんなことを思った。この同じイメージを共有しているように、マリアは続けた。

「これから、どんどん円が増えていく。そうすれば、滞りが無くなっていくと思うの。一部だけ合っていると、そんな形どおしが、不自然に結合したり、傷つけ合ったりする。でも、円はそんなことはない。それって、ステキなことだと、私は思うんだ。そんな世界へと移っていったらうれしいなとも思うの。」

「そうだね。私もステキなことだと思う。…それにしても私たち、すんごく抽象的な話をしてるね」

「そうだね」

 私たちは、またクスクスと笑い合った。二人とも同じイメージを描いていた。調和したカップルたちが踊る舞踏会。その世界から受ける幸せな感覚を、私は胸にしっかり刻もうと思った。

「もし、子どもを授かるカップルなら、円になった土台の上で生み育てることが、子どもたちに対しての愛の一つなの。次世代への責任って、ちょっと重々しい言葉だけど。でも、それくらい大切なことなのかもしれない。これも抽象的だけど、子どもたちは、円を基本としてそこかららせん状に時空を登って、自分のピースを形作り始める。その土台の円が、もし円の形をなしていなかったとしたら、その形を円にしようと、子どもたちは、空間を埋めようとするの。でなければ、自分の形をつくり始めることが難しいと思ってしまう。だから、円にしようとしてしまうの。それでも、誰かの体験を、自分が代わりに体験することなんてできないでしょ?自分の体験は自分だけのもの。だから、円になるように、埋め合わせるべき同じ体験をするようになるの。決して埋められないのに。すると、その分、自分自身のピースをはめていく体験ができなくなったり、遅くなってしまう。そうなれば、自分が成長して円になる準備ができなかったり、遅くなったり、もしかしたら見つけることができなかったりする。するとまた、円になれなくて…」

「子どもがその両親のすべき体験を自分が代わりにするようになるってこと?」

「そうみたい。そのことがきっかけになって、円を二人で作り始めることもある。でもね、悲しいことは、一体化してしまうこと」

「一体化?」

「子どもの体験を自分のものだとして、自分の体験をすることを放棄するの。そして、二人じゃなくて、三人とか四人で円にしようとする。三人や四人で円を作ることもあるのよ。でもそれは、また別のお話。二人の円は、二人でしか完成させられないの。この一体化が起こると、子どもが自分の円を作ることはできなくなることが多いみたい」

「その子はどうなるの?」

「自分で気付いて、離れるしかない。でもそうすることは、きっと難しくなる。心理的にも物理的にも」

「自立できなくなる」

「そうかもね」

「うーん。ってことは、今私たちは円になれるベストパートナーを見つけることが大切ってことだよね」

「うん。大切だと思うんだ」

「そのベストパートナーをどうしたら見つけることができるんだろ…みんなそれぞれ、私は今、こんな形ですって、プレートを胸につけてたらいいのに」

 マリアは笑った。

「ベストパートナーを見つけるサインは、とっても分かりやすいみたいよ」

「そうなの?マリアははっきりわかった?」

「私は、グランマから、少しヒントを教えてもらってたの」

「それは、分かりやすいね。マリアは、彼と出会って、何か変化はあった?」

「うん、いろんなことがまさにスムーズに動くようになったのがわかるの。自分の内面も、外界の出来事も。内面は常に安心感があるし、満たされていることが不思議とよくわかるの。恋愛でも味わえる感覚だけど、その気持ちが一定で、静かに湧き出る泉のよう」

「ステキだなー」

「この幸福感は、みんなが味わえるようになってる。円になれれば、もれなく!それにはまず、自分のパズルをしっかり完成させる。そうすれば、自然とお互いに引き合うんだって。探し回ったり、焦ったりすることもなく。だから、まずは自分自身を大切に育てていく。見るのは、自分だけでいいみたい。本当は」

「そうかー。まずは自分の形から」

「二人で一つの円をつくるって決めたベストパートナーは、この世には一人なの。あっ、そうだ。かのんは、輪廻転生とか、あの世とか、前世とか、そんな考えには抵抗ある?」

「スピリチュアルって世界だね」

「大丈夫?違和感はない?」

「ううん、違和感はないよ」

「私のグランマは、チベット仏教を信奉していて、日常の会話から、こうした概念を当たり前としてるところがあるの」

「そうなんだ」

「まぁ、おとぎ話だと思って聞いてね」

「大丈夫。ありがとう、気遣ってくれて」

 見える世界だけが、私たちの生きている世界ではないと私も思う。顕在意識は、ほんの一部、氷山の一角であり、海の中には巨大な潜在意識があるのだと、学生時代に習ったことがある。だったら、私たちは見えない何らかの世界の中でも同時に生きているのだろう。けれど、いつの間にか、見える世界だけを信じる生き方へと変わってきてしまい、見えないものや見えない壮大な世界をないがしろにしてしまっているのかもしれない。

「円になれる関係って、とても貴重なものなの。いわゆる前世で円になったことのある相手だっていうの。その相手と、生まれる前に違う次元で、その円をある形に分割して生まれてくるんだって。それぞれがこの形を完成させると出会います、ってことを決めてくるみたい。私たちの胸の奥には、その形が記憶されている。パズルの台紙が存在してるの。その台紙に、ひとつひとつ自分のピースをしっかりと体験して埋めていく。複雑な形で分割することにしたカップルは、じっくり時間をかけて出会うんだって。でも、生まれる前に円になると決めた相手と結ばれない場合もある。円とならない相手を選んだりしてね。でも、そのまだ円になっていない二人で、円を作るように経験を積み重ねて、ベストパートナーではなかった相手と円を作り上げることだってできる」

「いろんなシナリオがあるんだよね」

「うん」

「例えば、一人はもう形を整えて相手を待っていたのに、もう一人が違う相手を選んじゃったってこともありえるよね…悲しいけれど」

「そうだね。でも、ベストパートナーがもう形を完成させて待っている状態の時に、違う相手を選ぶっていう人は、相当周りを見ることができないでいるか、何かに囚われているのかもしれないよ。おおよそ、形を完成させる時期は、二人同じくらいなの」

「へぇ、そうなんだぁ」

「その時期に差ができているってことは、その時点でまだ何か体験をやり遂げられずにいて、ピースを埋め込まないでいる状態だってことかもしれない。完成の時期に、体験をやり遂げられずにいると、違う相手を選ぶってこともあるけど、逆に、自分の体験を何倍にも大きくして、一気に合わせようとすることもある。自分の内奥には、形の完成図がある。まだ完成させてはいないけれど、この相手と円になれるって、どこかでわかったらね、早く円になろうと思う。自分にとっては、一番幸せで、喜びのあることだからね。円になれるんだから。もしその幸せをいち早く味わいたいと願えば、早く完成させたいと思う。そうすると、体験を濃縮する。その場合は、衝撃的なことが多いの」

「事故とか?」

「そうだね。かなりのエネルギーを一気に噴出させる衝撃的な体験。その人なりのね。でも、それもかなり危険なことかもしれない。結果円になれないことだってある。エネルギー効率もよくないしね」

「ってことは、日々スムーズに体験をやり遂げていく」

「そうだね。でもこれは、極端なことなの。早く!って強く願った結果で。焦ることは決してないの。完成させる時期に完成させていなくても、ひとつひとつ埋め合わせていけば。」

「そっか」

「もしね、どちらも形を完成させているのに、円になる相手を選ばないってことがあったら、まさしく自分の目や耳で判断できてなくて、何か目に覆いをつけていたり、耳をふさいでいるのかもしれない。お月様の光より、街のネオンにひきつけられているのかもしれない」

「なるほど。そのね、体験をやり遂げるってどういうことなの?」

「その体験に『ありがとう』って言えるかどうかってこと。なんだか自己啓発本みたいだけどね。その体験を忘れられるってこと、思い出しても心苦しいことがない状態かな。いろんな体験があるけど、うれしいとか、楽しいって体験は簡単に言えるでしょ。でも逆に、辛いと思えるような体験、思い出すことも嫌だと感じる体験にも、感謝の気持ちを持てるか、客観視できるか、その問いかけがすべてイエスなら、ちゃんとやり遂げられたんだと思う。もしその時思えなくても、いつか必ず思える日が来ると自分の味方になってあげることも大切だけどね。想像もつかないような辛い体験に『ありがとう』なんて言えないかもしれない。でも、どんな体験があってもどんな自分にも『よくがんばったね』って言えたらいいよね。グランマが教えてくれたのは、すべての体験は頂きもの。その頂きものを、食べて味わって消化して流す、これでおしまいって。この頂きものはおいしいからって、ずっと口の中に噛まずに入れていたり、口に合わないからって吐き出したり、あるいは、体の中に溜め込んでしまったりしないで、どんな頂きものもありがたく頂いて、スムーズに流していくんだって。抽象的だけど。」

「便秘にならないように、だね」

「そうそう」

 マリアは大きく目を見開いて、面白そうに笑っていてから言った。

「あと、おかわり自由!だって。」

 今度は私が笑った。

「そうして、形を完成したとき、私たちは次の段階へと進んでいく」

「うん」

 二人が会えなかった時間を濃縮した密度の濃い空気が包み込んでいることを感じていた。うれしくて、なぜかちょっぴり切ない気持ちだった。

「淋しいから、とか、周りが結婚ラッシュで焦って、とかっていう理由で選んだ相手は、100%ベストパートナーではないかもしれない。それがいいとか悪いってことじゃなくて、いろんな物語があるんだってことを認めた上で、じゃあ、自分はどうしたいかってこと」

「うん。そうだね…。マリア、ありがとう。なんだか、すごく素晴らしいお話を聞かせてもらってるって気がする」

「こちらこそ。聞いてくれてありがとう。でもまだまだ続きがあるのよ」

「わぁ、そうなの?」

「ベストパートナーを見極めるヒントのこと!」

「うんうん。そのこと詳しく知りたいです!」

 私は大げさに体を前に乗り出して、真剣な顔を向けた。マリアはまた可笑しそうに体を揺らした。私も一緒になって笑った。

「グランマから話を聞かせてもらってたときも、私、同じことしたのよ」

 しばらく笑い合った。

「ちょっと円のお話から反れちゃうんだけどね」

「うん」

「あっ、かのん、ごめん。メモとペンを持ってる?」

「うん、ちょっと待って」

 私はかばんの中から手帳を取り出した。

「すごい、大きな手帳だね」

「うん。仕事での大切な相棒なの。私、アナログ人間みたいでね。手帳が使いやすくって」

 私はそう言いながら、メモのページを切り取ってマリアに渡した。

「ごめんね、切り取らせちゃって」

「全然」

「ありがとう。このペンもすてきだね。借りるね」

 就職のお祝いにと、両親からプレゼントしてもらった万年筆だった。長年、私の手の一部となって、一緒に仕事をしてきてくれた。いつでも私の気持ちに寄り添ってくれたありがたい相棒たちも、今マリアの手の中で、その光沢をより輝かせていた。マリアは「書きやすいね」と小さくつぶやきながら、正三角形二つを左右に並べて書き始めた。二つは一方を180度回転させて書かれた。それぞれの頂点に何か文字を書くと私に見せた。一つ目の三角形は、上の部分の頂点に、”日”とあり、その底辺には右から、”風”と”火”。もう一つの三角形は、下の部分の頂点に”月”とあり、その上辺には右から”土”と”水”と書かれている。

「これは、陰陽を表してる。この星でいのちを育むには、おおよそ6つのエレメンツ、要素が必要になる。日、火、風。この三角形は、男性性、陽の方ね。そしてこっちは、月、水、土。女性性で、陰を表してる。男性性は、活動的で上方に向かって伸びていくエネルギー、女性性は、その逆でとどまり下方に向かって伸びていくエネルギー。私たちは、このバランスの中でいのちを育み、生かされている。韓国の国旗にも描かれている太極図ってあるよね。勾玉が二つ組み合わさって円になっている形。あれも陰陽だよね。この星では、この二つの大きなエネルギーが調和して成り立ってる。」

「うん」

「男の人であろうと、女の人であろうと、どちらも、この男性性、女性性の二つの要素を持っている。この要素のバランスが、その人の性格や体の質を決めるの」

「アーユルヴェーダで、そういうのを聞いたことがある」

「そうそう。同じ概念。アーユルヴェーダは、三つの型だったよね」

「そうだったね」

 マリアは、私の方へと向けていたメモ用紙を引き寄せて、また図形を書き始めた。今度は、この二つの正三角形をそのままスライドさせて重ねた形と、その三角形を重ねた形の周りに円を書いた。

「これは、六ぼう星という形」

 最初に書いた図形を指差した。

「こうして、正三角形二つがきれいに重なった状態が、調和していて、バランスが取れている。ちょうど、円の中に入った形。いのちを育む形」

「あっ、そうか」

 マリアは、円を何度もペンでなぞっていた。

「そう。この円を作るってことが、わたしたちがいのちを育む土台になるってこと」

「うん、うん」

「子どもを授かるときに、この円を土台として、すべての要素がバランスよく備わった状態で、より調和の取れたいのちを育むことができるの。お互いがそれぞれの要素を持ち寄って、円になれたとき、そこに調和が生まれ、きれいな形の六ぼう星を形作れる」

「真円の中に、正三角形のバランスがとれた六ぼう星は宿ることができる」

 マリアは天を仰ぐと、何かに祈るように目を閉じた。そして、また話し始めた。

「生まれる前に一つの円を分割して、この星にやってくる。その分割した形によって、どんな要素がより強く自分自身に備わっているかが決まるの。男性性の要素、日、火、風をより多く持っていれば、男性的。女性性の要素、月、水、土を多く持っていれば、女性的なんだって。おおよそ、ベストパートナーとは半分ずつ分け合う場合が多いそうなんだけど。男性は男性性要素を二つと女性性要素を一つ。女性は男性性要素を一つと女性性要素を二つって感じで。でもいろんなシナリオがあるから。何を分け合うか、いくつ分け合うかは、二人で決めてくるの。男性が女性性要素を多く持つ場合もある」

マリアは、六ぼう星と円を描いた図形を指差して言った。

「今、私が書いた要素の並び方、必ず男性性、女性性と交互に並んでいるけど、この並び方は、遺伝的っていうのかな。いろんなグループがあって、どのグループに今回は属するのかってことも決めてくるみたい。何通りになるんだ?これって、確率と統計で勉強したっけ?」

「あったね。そういうの」

「大木があって、何通りかの枝が分かれている、どこに葉っぱをつけましょうか、と決めてくる、とか。ひとつの大きな山から何通りかの川が流れていて、どこから海を目指しましょうか、とか、そんなイメージかな。今回は、この急流にしようぜ!みたいな」

「おもしろい」

「二人で二つに分割するから、どのエレメンツが隣り合うかで、何を分け合うかが決まる」

「うん」

「子どもを授かることを決めている二人は、必ず女性が水の要素を持ってるの。子どもを授かると、まず羊水で育てるから」

「なるほど。そこも連動してるんだね」

「私がグランマから教えてもらった、ベストパートナーのヒントは、このエレメンツだったの。グランマは、私のエレメンツを教えてくれたの。特別にって」

「何だったの?」

「水と月と火。ファイアーの方ね」

「だったら、ベストパートナーは、それら以外、日と土と風」

「そう。だから、私は、子どもを授かることを決めてきているみたい」

「そうだねー」

「グランマは、水のエレメントを持っていると分かったんだから、もう今から、子どもを宿すための体に整えなさいねって。だから、その時から自分だけの体ではないって意識が芽生えちゃった」

「マリアのおばあさまには、その人のエレメンツが分かるんだね。自分のエレメンツを知るにはどうしたらいいの?」

「エレメンツを知ると、自分が大切にしなければならないことも見えてくる。それを知ってより生きていく力になる場合と、それを知ったために囚われてしまう場合があるから、決して他者のエレメンツを教えてはならないみたいだけどね。あの時は、あまりに打ちひしがれてた私を勇気つけようとしてくださったんだろうな」

「そうだったんだね」

「自分でエレメンツを知ることはね、自然が教えてくれるの」

「自然から?」

「すべては自然の要素。自分が何を好きなのか、みんな大切で、重要な要素だけど、何を大切にしたいかって気持ちを見ていくと分かるかな。でも、それに囚われず、あくまでヒントだから。それより、自分が体験するひとつひとつのピースをしっかり埋め込んでいくことが大切。形を完成させて、円になれれば、すべての要素は揃うんだから」

「そうだね。マリアはそのエレメンツを知って、納得した?」

「確かに。水のある場所に行くことが昔から好きだったな。あとね、火と水の要素を持っているから、温泉が好きだったり、なーんてね」

「ハハハ、おもしろいね」

「今まで、女性性のエネルギーは停滞ぎみだったんだって。だから、水と土、大地ね、それから月の力を活性化させることが必要みたい。川でも、水が流れないと、澱んで濁ってくるじゃない。だから、今まで溜め込んできたものを流していくこと、とっても大切みたい。だから、私が持っている女性性の要素、水や月に対して、もっと意識を向けていく。でもそれは、男性性の要素を無視するとか、ないがしろにするってことじゃなくて、同じように、大切にしていくの」

「うん」

「それからね、人間関係にも、このエレメンツは有効なの。ベストパートナーと同じエレメンツを持っている相手とは、とっても気が合うし、一緒にいても居心地がいいみたいよ」

「へぇ。ほんとにおもしろいね。マリアは、えっと、日と土と風のパートナー。そのエレメンツを知って、彼を見つけるヒントになった?」

「彼と一緒にいると、いつも心地よい風が吹いてたりしたよ。それも、あっ、やっぱりこの人だって思えるひとつの要因になったな。自分の内面を素直に見つめることも大切だけど、案外、外の出来事にいっぱいサインはあってね。彼と初めて出会った場所が、円形劇場だったの。その中心で、友人に紹介されたのよ!」

「すごい!」

「見えない世界には、応援隊がいっぱいいるってことを信じるといいみたい。円になってほしくて、円になれーって応援してくれてる。だからね、実際出会えると、おめでとう!この人よ!って一斉に花吹雪で祝福してくれるの。だからね、いっぱいサインがあるの。もしわからないよーって思っても、絶対にこの人!って一目瞭然なサインがたくさん。だから、出逢えるのか、とかベストパートナーはどの人なんだって心配することは決してない。それより、まずは自分自身。自分を大切に、自分のことを注目していくことが何よりベストパートナーと出逢える近道なんだね。自分の好きなことをして、自分の人生を思いっきり楽しんでたら、なんか出逢ってたみたいな感じ」

「うん」

「あとね、グランマから教えてもらったことがあるの」

「何?」

「子どもを授かって、まず水である羊水で育てるでしょ。そして、この星に生まれてきてくれる。そしたら、植物を育てるイメージを大切にしなさいって。植物の種は、土に植えるでしょ。そして、毎日水をあげる。芽が出れば、光や風もダイレクトに加わる。そしてその種の持つ可能性である花が咲かせられる。私の場合は、彼が土のエレメントを持ってるから、もし子どもが無事この世に生を受けたなら、彼に子育ての絶大な信頼を置きなさいって教えられてね。私は、水だから、適度な水、豊かでおいしい水を与える。与えすぎたり、水を枯らせてしまったりしたら、種は決して芽を出さない。逆に根腐りを起こしたり、種を流してしまう。そうしたら、その子は一生花を咲かせられないってね。子育ては、だんなさんにゆだねるってくらいの気持ちを大切にしなさいねって。もし、何か仕事が忙しかったりしたとしても、ありったけの愛を充分に込めた水を、山の水のようなたくさんの土壌を通った味わい深い水を与えることで、花を咲かせる大きな力になる。時間ではなく、密度、質を大切にしなさいってね。それから、火の要素も持ってるから、芽が出たときに決して燃やしてしまわないようにね、とも…」

 マリアは胸に手を当てて、陽気に頭をかしげた。

「つまり、過保護な親にはなるなってことね!」

「そうなんだね。なんか、わかりやすいイメージ」

「水と土のエレメンツを持ってる女性は、妊娠、出産、子育てのエキスパートってことね」

「なるほど」

「あとね、土のエレメントを持ってるだんなさまには、お金も預けなさいって!わたしは、水のように流したり、火で燃やしてしまうから、だって」

「ほんと?」

「それぞれのエレメンツの性質があるからね。そのエレメンツの特質を上手に使い分けながら、お互いの今までの経験を讃えて、クルクル回っていく。でもね、自分にないエレメンツは、全く自分にその特質がないかっていうと、そうではないの。円になった二人はお互いの特質を得ることになる。得意である、慣れているっていうだけ。だから、私がどうしてもお金を管理したいって思ったら、できないことはないけど、慣れてないよ、注意しなさいねってことみたい。でも、私は、そんなことに時間をかけたいとは思ってないでしょって見抜かれてたけどね」

「そうなんだー」

 私は、ワクワクしていた。円になる。円のイメージ。

「円になる相手を見つけて、結ばれることができれば、そのカップルがどんどん増えていけば、私はもっと素晴らしい世界が広がると思うの」

「うん」

「もし今まで、円を作れないで、すべてのエレメンツが整わない状態で、子どもを天から迎えていたとしたら、その子は、自分の花を咲かせることが難しかった」

「水を充分に得られなかったり、太陽の光を浴びれなかったり…」

「その部分を求めて、その欠けた部分を埋め込もうとして、自分のシナリオにない体験をしようとする。そうして、自分のパズルを完成できなくて…」

「ねぇ、今が過渡期だとしたら、そうやって、円の土台で育てずに、今大人になっている人は、どうしたらいいの?ベストパートナーには出逢うことは難しいのかな?」

「難しくなんてないと思う。ひとつのとっても簡単な方法は、時間があれば、すべての要素が揃っている自然の中へ行くこと。しばらく滞在するのもいいかもしれないけど。そうして、もう一度、種から開花させるの。種は決してなくならないから。それから、両親に対して、心からの感謝の気持ちを持つの。これが一番大切。そうすると、パズルの本来自分自身が埋めるべき場所にピースが移行していったり、いらないピースは流れていったりする。私、日本に帰ってから、自分の歩んできた人生を振り返ってみる時間を取ったわ。そうして、すべての体験にありがとうと言えるかって思い返してみた。もし言えない体験があったとしたら、その事実を認めてしまったの。大丈夫、いつか必ずすべてにありがとうって言えるって信じて。あ~、まだ言えない!なんて自分を責めたりする必要なんて全くないんだって。円のイメージさえ大切にすれば、あとは自分のシナリオが動いていくんだ」

「うん」

「円になってないカップルをサポートする、もう円になっちゃってる子がこの世に生まれてくることもあるんだって」

「すごいね」

「はかりしれない、奇跡に満ちた素晴らしい世界に、私たちは今いるんだよ。さまざまな可能性があって、すべての体験をさせてもらえることを許されてる。そのためのバックアップやサポートが周りにあふれてる」

「ありがたいね。本当にありがたい」

「でもね。もう先に進まなくちゃ。うまく言えないけど、同じ物語を何度も何度も繰り返す、うーん、それも楽しいのかもしれないけど、もっと楽しい物語がありますよ!って呼びかけられているのかもね」

「未知の物語。次の楽章へ」

「ようこそ、光り輝く新しい物語へ!だね」

 私たちは、お互いを見合いながら、しばらく笑った。すると、どんどん笑いが込み上げてきて、止まらなくなった。幸せや喜びはいつでも側にいて、私たちを笑わせてくれる。本当にありがたい世界だ。笑いは、本当に力だと思う。店の中を明るくて、それであたたかな光が満たしていく。その光は、きっと周りにちゃんと広がっていく。

「マリア、ありがとう」

 私は、頭を下げて笑顔を向けた。

「こちらこそ、ありがとう。眉唾ものだって、敬遠されることだってあるから」

「私は、ワクワクしてる。円になれる日が楽しみ」

「良かった。またかのんたちの円がひとつ。この世界を輝かせる日を楽しみにしてるね」

「ありがとう。しっかり生きる。これから頂き物をおいしくいただきまーす!」

「うん。フルコースの最後は、デザートだよ!」

「いちごのケーキがいいな」

「そう、いちごのホールケーキだよ!」

 私は両手を挙げて笑った。

「ねぇ、かのんは、お酒大丈夫?」

「うん。祝杯あげようよ!今度は、私の知ってるお店に行こう。一つ電車に乗るけど。いい?」

「うん」

 私たちは、祝福に満ちた奇跡の時間を丁寧に自分の胸に納める時がきていた。

「カード」

 私は、女神さまたちに手を合わせた。この日、この時、この場所で、素晴らしい再会と素晴らしい言葉を聞けたことに感謝した。感謝の気持ちがあふれ出すと、自然に手が合わさる。

「この女神さまたちは、何の神様なの?今まで実は知らなかった…」

「かのんの神様は、サラスバティーさまだよね。日本でいう弁財天さま。七福神のお一人。琵琶を弾いてらっしゃる」

「弁財天さま。芸術の神様だよね」

「そう。わたしの神様は、ラクシュミーさまで、吉祥天さま。美の神様」

 私は、自分が持っていたカードが芸術の神様だと知って、咄嗟に思った。

「ねぇ、マリア。よかったら、カードを交換しない?」

「え?」

「サラスバティーさま、芸術の神様は、これからインド舞踊の道を極めていくマリアを応援してくれるって思ったの。それに、私にとって、今、美の女神さまからのお力が必要な気がする。そしたら、マリアみたいに、ベストパートナーと出会えるかもしれない!」

「うん。きっと出会えるよ。じゃ、そうしよう。」

 身支度を整えると、マスターのもとに向かった。

「マスター、今日はケーキもありがとう。両方おいしかったよ」

「ありがとうございました」

「よかったよかった。マリアはいつニューヨークや」

「来週に発つの」

 私は、マリアへと目を向けた。来週、マリアは新しい次の物語へと旅立つんだ。祝福すべきうれしいことだけど、やっぱり淋しさも感じた。

「結婚おめでとう」

「ありがとう!」

「これ、ささやかやけど、お祝いや。知り合いに水墨画を描いとる坊さんがおってな。変わっとるチベット仏教の坊さんで、水墨画も描いとるんや」

「わぁ、うれしい。ありがとうございます!」

「あっ、それと、今日は、ふたりとも、わしのご馳走や」

「え?!」

「わぁ、ありがとう!」

「ありがとうございます!」

「開けてもいい?」

「ええよ」

 マリアは、マスターからのプレゼントを開けた。絵を見た瞬間、私たちは歓声を上げた。

「わぁ!」

 大きな円が描かれた中に、合掌して微笑む二体の仏様が描かれていた。

「円だ」

「ほんとだ、円だ」

 私たちは、また笑いのスイッチが入った。笑いながら、涙さえにじんでくる。

「おめでとう!」

「ありがとう!」

「なんや、何がそんなに可笑しいんや」

「うれしくて。円になれたから。円になれたって、ちゃんと教えてもらえたから」

「円。あー、この絵。円や。まんまるや。よくできました!の丸や」

「ありがとう」

 マリアは泣いていた。そのきれいな涙を見つけたとき、私も涙がこみ上げてきた。

「幸せになりや」

「はい。ありがとうございます」

 マスターの目も光っているように見えた。

「ほな、元気で」

 マスターは、黒く焼けた腕を伸ばした。マリアと握手すると、私にも手のひらを向けた。

「また、来てな」

「はい。今日はありがとうございました。ご馳走様でした」

 そうして、私たちは店を後にした。店を出ると、夕暮れへと向かっていく気配が満ちていて、心地よい風がやさしく私たちを包み込んだ。

 私たちはその中を、足取り軽く、笑顔で歩いていった。

読んでいただきありがとうございます。

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