わたしは先生に導かれたい 前編
ただの殴り書き
わたしの作品を読んでいるとなんとな~くわかるかも?
サロバニア王国の王立のとある学園の本館ではなくかなり離れた山間にある分館、通称ハブられ分館と呼ばれる校舎があった。何故そんなものがあるのかと言われれば、貴族優位のある時代に庶民は本館には要らないとのことでできた、いわば負の遺産。それは生徒だけでなく教師側もその差別を受けていた。アーク政権かつ頂天者制となった今ではもうそんな括りはなく、ただやらかした者が強制的に隔離されるだけだったり、ただただ地元の子たちが通うようになっていた。
本来は本館のSクラスの生徒たちが何故か一週間のうち1日だけこの校舎で授業を受けることになっている。最初は「何故こんな面倒なことをするのだろう」と感じていたが、実際は先生側も配慮してくださったのか何故か自習にしてくれる。一週間のうちの1日をSクラスは自習にできると他のクラスの子からは羨ましいとよく耳にするようになった。そんな生活が普通だと思っていた。あの日までは。
「ヨォし、お前ら貴族サマよくいらしてくださったぁ!と言うわけで本日も自習!きてねぇ方々も俺が出席つけといてやるからオトモダチのお前らも安心しろよ〜。正直平民の俺から教えることつってもなんもねぇからなぁ!ハハッ!」
そう元気よく笑いながら言葉にするこの教師の名はアルス。みんなからは休みをくれるから天使アルスだったり神だったりと崇められている。アルス先生は平民の出らしくそれが原因でこのハブられ分館に左遷させられたという噂をよく聞く。
「てなわけで、俺はちょっくら初等部のがきんちょのお守りをせねばならんのでな!解散とかは自由ってことで、じゃ!」
そう言って今日も教室を立ち去った。わたしは窓の外を見やると初等部の子たちがワイワイ遊んでいるのが見える。さすが王立なだけあって皆、魔術を使った遊びをしている。…….そう、みんなだ。
残念ながら魔術は使える人間と使えない人間がいる。この学園の本館の初等部は魔術が使えない者もいる。なのにだ。この分館の子たちはみんな使えるのだ。わたしは何か学園側の狙いがあるのではと自分を納得させていたのだ。
「あぁっ、アルス先生だぁ〜!ねぇねぇ先生!またかっこいい魔術見せて!」
「ハルくんずるい!ねぇせんせ!今日はあたしに見せてくれるってやくそくしたでしょ?」
「僕にもにもおねがい!」「わたしたちにも!」
「おーけーおーけー。わーった、わーった!お前らみんなに見せてやる!そんでもってお前らもやってみたいんだろ?まぁ見てなって。」
そう言ってアルスは初等部の子供達の前に行き、手を構える。最初は親指だけを立てる。つぎに、人差し指も立てて最後に中指を立てる手で形作った銃を地面に向ける。
「第25階梯生命の再現っと。」
その瞬間眩い光が地面から円形に広がり、一面の美しい花畑が広がる。風が歌い、花がしゃらんと心地の良い音を奏でながら校庭一面に広がっていく。まるで森の神が奇跡を起こしたように。
「わぁぁぁっ!先生すごぉい!!何これ!?」
「このお花触れる!先生、これ本物!?」「これマリーゴールドってお花でしょ!先生わたしお母さんにこれプレゼントしていい?」
「おうよ、母ちゃんに日々の感謝をしながら渡すんだぞ〜!おら、そこの野郎どももしっかり花の特徴を観察したりして、とーちゃんかーちゃんにプレゼントしてやれよな〜!」
アルスはにこやかに笑って、子供達一人一人に花の特徴を丁寧に説明したり、それでおもちゃを作って遊んだりした。そんな中1人の生徒がアルスに質問する。
「ねぇねぇアルス先生!この魔術わたしにも使える?使えるんだったら教えてほしいな!」
「おうよ!俺みたいにこんな広くは出来ねぇかもしれねぇけどな。んー、そうだな、バスタオル一枚分くらいならお前たちにもできるはずだな。」
アルスのできると言う言葉に周りの子たちも反応を示して目を輝かせる。アルスは子供たちの反応を見て息を吸い込むと、
「よっしゃみんな。コレから魔術のお勉強だ!やりたいやつは元気よく手を上げろ!」
「「「はぁぁい!!!」」」
「よしいい調子だ。みんなはこのお花がどうやってできるか知ってるか?」
「マリー知ってる!お花はね、タネを植えて、お水をあげると育つの!」
「そう!マリーが今言ってくれたみたいにお花はタネを土に植えて水をあげるとグングン育っていくんだ!じゃあそれを魔術でやろうとするとどうなる?」
アルスが再び問いを生徒達に与えると、彼らはうんうん唸りながら考える。そんな中1人の生徒がおずおずと手を上げる。アルスは生徒と同じ目線になるよう屈んで撫でてやる。
「お?ハルわかったのか?いいぞ、なんでも言ってみろ!」
「えっとね、まずこの前先生が教えてくれた魔力でタネを生成する魔法?」
「そうだ、ジェネレートシードだな!」
「そうそれ!で、えーとね、それに水魔術のふらっどぱーじ?するの!」
「フラッドパージだとちょっと強すぎてタネが流されちゃうな!どうだ、他のみんなもなんかいい魔法ないか?」
「ハイハイ先生!てぃにーれいん!ティニーレイン!」
アルスは今の声が聞こえた途端立ち上がり身振り手振りで喜ぶ。
「そうだ!よくやったコラン!凄いぞ!よぉし、みんな!今出てきた魔術をまぜまぜして使ってみようか!」
「「「はぁい!」」」
そうやって元気よく声をあげると生徒たち自身も安全に配慮することを無意識に理解しているのか、みんな広がって魔術を使い始める。初等部の生徒たちは一斉に魔術、それも混合魔術を使い始める。
「やったぁ!みてみて、先生できたよ!!」
「あたしも!」「ぼくも!」
そんな中、一人の生徒が魔法を発動できずに泣きかけそうになっている。そう、やはり魔術には向き不向きがあり、こうやって行使できない者もいるのだ。わたしは憂いの目線を向ける。
「みんなよくできてるじゃないか!お?どうしたハル?」
「先生、僕この魔術難しくてできなよぉ…..」
「大丈夫だ!俺に任せろ。絶対できるようにしてやる!」
ほんの一瞬、その時だ。アルスの右腕が紅く輝くと、途端にその生徒は魔術を使えるようになったのだ。わたしの目はそれを見逃さなかった。わたしは自然と「うそ….」と呟いていた。
「先生!できたぁ!やったやったぁ!ぼくコレで父さんと母さんにお花プレゼントできる!」
「凄いじゃないか!よく頑張ったなハル!これでお前はまた一歩一人前の魔術師に近づいたぞ!」
「うん!ありがとうアルス先生!ぼくががんばって一人前の魔術師になって父さんや母さんを楽にしてあげたいんだ!」
「お前ならきっとできる!なんてったって今の賢者は俺の教え子だからな!お前も絶対にすっげぇ魔術師にしてやるからな!」
アルスはその生徒をふんだんに褒めて頭をワシワシと撫で回す。わたしはここで噂は事実だと確信した。
あの教師、私たちに何か隠していると。そして、今代の賢者レイラ・イザベラ様の元師匠であったことも。
私はいつの間にか校庭に立って授業の様子を見学していた。そんな中先ほどアルス先生に魔術を教えてもらったひとりの少年がわたしのところへ駆け寄ってくる。
「はい、高等部のおねぇちゃん!ぼく魔術でちょっとおおくつくっちゃったからおねぇちゃんにこれあげる!」
「わたしにくれるの?ありがとう。大切にするわね!」
少年は私に一輪の花を差し出した。これはガーベラだろうか。まるで作り物のように見える花弁が私を魅了する。私は大切に花を胸ポケットに入れてやる。ふと顔を上げると目の前に予想外の人物が現れる。
「んーとお前はたしかニーア・フォルト嬢じゃないか!うちの生徒にかまってくれてアリガトな!あぁそうだ、よかったらお前からもこいつらに魔術を教えてもらえるか?」
「私はあまりうまく教えられるかわかりませんが...なんなら私が先生に教えていただきたいほどです。」
「大丈夫大丈夫!お前はわが校が誇るSクラスなんだし、俺から教えることなんて一つもありゃあしねぇよ。自身持てって!」
そういって先生は後ろを振り返り、生徒たちに手を振った。やはり、私が貴族だから断られてしまうのだろうか。
「よぉし、みんな!今日はこのおねぇちゃんが飛び切り凄い魔術を見せてくれるんだってよ!」
「あぁちょっと!先生ってば!」
この国の四大貴族、王宮騎士を代々排出するリライト家、今はもうないが、魔術を専攻としていた本家のイザベラ家、今代を除いて数々の剣聖を輩出したエスピノーザ家、全人教育に特化したサイファー家。これらはすべて創成神アルフを最後まで信じぬいた名誉ある家なのだとか。
残念ながらわたしは貴族とはいってもそこまで大きな家柄ではなく、普通の貴族の長女であった。そう、ただのニーア・フォルトだった。
でも私は魔術が好きだった。幼少期の私はまだ賢者に就任する前の彼女を知っていた。新聞に載っていたのだ。平民の天才魔術師が魔術大学を齢17にして卒業したと。そして魔術師協会に賢者と認定され、家名をつけたと。そんなわたしを見た父さまはわたしを魔術師協会につてがあると、会見に連れて行ってくれたのだ。
「こっ、今代の賢者を務めさあせて戴くことになりましたっ!レイラ・イザベラです。レイラという名前は育ての親であり師匠に。イザベラという家名はわたしの師匠の友人につけて頂きました。この国をよくするため精一杯頑張りますので、よろしくお願いします。」
───師匠というのは?どのような方なのでしょうか?やはり、レイラ様ほどの実力者に育て上げる腕だとお見受けされますけど
「はっ、はぃ!師匠は優しくて、ときどき怖くて...えっと!とにかくかっこよくていい人です!...実はですね本当は師匠に頂天者のオファーが入っていたんですけど、『俺はそんなタチじゃない』ってきっぱり断られてしまいまして、その時に私になるよう頼まれたんです。」
───やさしい娘思いの方だったんですね。ありがとうござます。では、魔術師の頂点として、魔術師の卵の方々へのアドバイスをお願いします
「えーっと、あのあの、何も、スキキライせずに魔術自体を楽しんでください!それと、私の師匠は実はどこかで教師をやってるんです。師匠は理由があって多分私みたいな平民向けにしか教えてくれない上、なかなか本質を教えてくれないと思いますので、諦めずに教えを請ってみてください!それでも教鞭を握ってもらえないようなら私にお手紙をください!」
───まさかこの国の教師をやっているとは驚きです。ふふっ、とっても面白い方なのですね!以上、王都新聞記者団でした。
私は新聞の聞き取りが終わった後、ほんの少しだけですが特別にレイラ様とお話をさせていただく機会を設けてもらいました。わたしは緊張していたのか、こわばってしまっていた。
「えと、賢者様に質問があります!!」
「はい!なんでもどうぞ。あのあの、そんなに緊張しなくていいんです。ゆっくり話してみてくれませんか?」
彼女はわたしに会見時とはまた違った暖かい笑顔を向けてくれた。緊張が緩んだ私は口を開く。
「わたしはどうやったら賢者様のように多彩な魔術を使えるようになりますか!わたし、大きくなったら賢者様のお師匠さまに魔術を教えていただきたのです!」
そのときの彼女は少し困った顔をしたのち、うん、とうなずいて私の耳元で囁きました。
「あなたが大きくなってまだ師匠に導かれたいと思うなら、王立高校に進学して、まずは一番上のクラスを目指すのです。そしてそこで会った先生に教えを精一杯教えを乞ってください。それでもだめだった時は...」
彼女は私の耳元を少し離れて頭をなでながら最高の笑顔で言ったのです。
「そんなときは、私にお手紙をくださいな!」
と。
ふわふわと生きてきたわたしの人生に一筋の光がさすように初めて目標というモノができた。ほんの数分の出来事だが、私にとってはどんなことよりも価値のある数分だった。
その後の私はというと必死に勉学に励み幾年もの歳月を重ね、やがては王立高校への入学を許されたのだった。
「わたしは、アルス先生に魔術を習うんだ」
私は一枚の羊皮紙に思い書き連ねて丁寧に折りたたみ、封を閉じポストに放り込んだ。宛先は─────────
「この手紙はぁ....ぁあっ!あの子!やっとたどり着いたんですね!」
ここは王都郊外にある魔術師協会のとある研究室。鳥の鳴く声が朝を知らせてくれる。早朝でもあるのにもかかわらず、一人の女が声を上げる。それもそのはずだ。わたしが冗談交じり....いやほかの魔術師たちをあおるために言ったことを本当に成し遂げてしまった人間がいたからだ。
徹夜明けかつ、喜びに飲まれて我を失いかけているとき、がしゃんと聞こえてはいけない音が彼女の下から聞こえる。ギギギと首だけを足元に向ける
「あぁぁぁぁあああぁぁああ!!試薬があああああ!私の6時間があああああ!!」
今日も研究室は平和なようだった。彼女は6時間が割れたのにもかかわらずそこまで苦しむような顔はしていなかった。むしろ生成したくらいだった。理由はもちろん、
「もぉ!今日はとことんお話を聞いてみようかしらね!絶対面白い子に違いないもん!」
彼女はノリノリでローブを脱いで、手紙に記されていた場所に足を運ぶのだった。
私の中では手紙を読んでくれない可能性もあると考えて色々試行錯誤をしていたが、そんなことは杞憂だった。彼女は私の手紙を読み、わたしとの約束を果たしてくれた。わたしは彼女と待ち合わせをする際に、話しやすい環境を作ることが第一だと考え、王都のはずれの方にある静かなカフェを選んだ。この思案は見事に当たり、彼女もリラックス(?)してくれているようだった。
「さ、さてと、どこから話しましょうか」
彼女はティーカップから口を話すとにこやかに笑う、否、これは品定めだ。彼女はわたしを信頼に値すべき人物かどうかを定めている。わたしは残念ながら一応貴族という判定のため、最初の信用度はかなり低いだろう。
私は息をのんで相手をうかがう。
「ぁあ、まずは自己紹介からしましょうかっ。わ、私はレイラ・イザベラ。よろしくね!」
「はい、幼いころから存じております!わたしはニーア・フォルトです。レイラさんが就任会見の時にお話ししたことがあるかと。よろしくお願いします!」
わたしがそういうと、彼女は「あぁ!あの時の!」と元気よく相槌を打ってより笑顔になる。
「え、えっと、じゃあ前提知識の確認...あぅ、堅苦しいことはやめまして、私の師であるアルス先生についてどこまでご存じですか....?」
「はい、まずよく初等部の子たちの授業をやってます。彼らの面倒をよく見てるため、私たちのクラスはすべて自習になっていますね。あとはアルス先生の指導を受けた者は魔術の成長速度が速いとかですかね。」
私がそう言い切ると、彼女は目を見開いて驚く。何か悪いことを言ってしまったかと私は少し不安になった。
そんな心の置き所が見つからない私とは対照的に彼女は目を輝かせている。
「いい着眼点ですね!アルス先生の指導を受けずに観察で分かるのはすごいことです!では、その成長速度について何かほかに見て感じた、分かったことはありますかっ!」
「えと、私の見間違いかわからないんですけど、魔術の指導をする際に独特な詠唱?かどうかわからないですけど方法をとっていますね。...こう、銃を構えるような感じで!」
親指と人差し指、中指を使って身振り手振りで伝えてみると、彼女はさらに目を輝かせた。そして彼女はヒートアップしてきたようで先ほどより少し大きな声で聴き返す。
「そうです、それです!あれが師匠だけに許された特殊な詠唱方法なんです!!!では、ほかになにか特徴はありますかっ!?」
「あと、まるで魔術自体を継承しているかのように生徒が魔術を身に着けていました!一瞬なんですけど、右腕からモヤモヤ~っとした紅い光が漏れ出てました!」
「んんんんんんっ!!やっぱりあなたの価値観私好きかも~!!特に最後の状態の表し方、実に的を得ている上に、魔術好きじゃないと表現できない言い回し、わたしあなたのことすっごく気に入った!」
気に入った。そう言われて最初から彼女は自分のことを信頼していたということにようやく気が付いた。今まで警戒していたのが馬鹿らしくなった。そう思ったら自然と笑いが込み上げてきた。
ただアルス先生に魔術を教わりたいという目的を見失いかけていたが、レイラさんのおかげでようやく自分を取り戻せた。
「そうそう、その顔!えとえと、さっきまで張りつめてたから。ニーアちゃんは笑顔が一番似合うよっ!」
「いいえ、心配かけてすいません。わたしったら自分を見失っちゃってて。さて、本当の緊張も解けましたし、レイラさん。お話、聞かせてください!どうやったらアルス先生の指導を受けられるか!」
私はクッキーを一つまみ口に放り込み、最高の笑顔を見せた。
しばらくの間彼女とあれでもないこれでもないと話しているうちにどんどんと打ち解けていった。彼女との会話である事実が発覚した。
まずアルス先生が貴族を避ける理由について。彼は平民の生まれで両親ともに通常の暮らしをしていたが、10になる少し前に貴族に両親を殺されてしまったこと。また、彼はその後の冒険者時代に相棒となる人物と5年近くを過ごしたらしいが、その相棒の目の前で気にかけていた少女を貴族に殺されてしまったこと。この二点がトリガーとなっていること。もうこれは避けているより目に見えていないだけで貴族自体を無意識に嫌悪してしまっているのではないか。
それに付随して私はとあることを知った。
「ここから話す内容はちょっとやそっとじゃ言えない内容になっちゃうんだよね...はっ!いいこと思いつきました!あのあの、ニーアちゃん私のパートナーになりませんかっ!」
いきなりの提案かつあまりにも軽い流れに私は「ふへ!?」とはしたない声を漏らして驚く。私は齢17にして同性愛に目覚めてしまうのかと。
「言い方が変で申し訳ありませんでしたっ!ああの、えと、人生の伴侶じゃあなくてですねっ!私の、いえ賢者の相方として就任しませんかってことです!」
「あぁ、なるほど.....ってええ!?私がレイラさんの!?そんなこといいんですか!?」
「はい!あなたには魔術の教えがいがありそうですし、言い方は悪いですが何も私の警戒していたような貴族ではないようなので。....そ、それにっ」
彼女はいつも私をまっすぐな目で見つめてくれる。その目には私はどう映っているのか。できるならば、
「昔の約束をあなたはしっかり果たしてくれましたし!わたしはあなたの助けになりたいんです!」
あなたに認められた上で、アルス先生に自分の教えを授けるに値する人間だと認められたいんだ。
「はい!喜んでお受けいたします!!」
「やったぁ!えっと書類関係は....まぁあとでいいよね。ではちょっとだけ魔術を使いますねっ!」
カップからてを離してぱちんと指を鳴らす。そうすると辺りの音が聞こえなくなった。私は意味を理解して息をのむ。
「これ、防音魔術ですね。私たちだけにしか聞こえなくなるようになってる。」
「あたりです!ではですね、お察しの通りここから先はこの国では極秘とされているお話になります。口外はぁ...まぁしないと思いますから大丈夫ですねっ!」
紅茶を一すすりして彼女は口を開く。
「ではまず、師匠の魔術についての補足をしましょうか。先ほど私はあなたに彼が魔術を教える際に紅く光ったといってたと思うんですけど、実はあれは創成神アルフからのギフトなんです。」
「創成神アルフからのギフト....?そんなスピリチュアルなものがこの世に存在するのですか...?」
「はい。私はこのようなものを持つものをあと2人知っていますし。実際にアルフとの間接的だったりと関わりが少なからずあります。このお三方はこの世界の中でいづれも強者です。」
私はいまいち概要がつかめないが彼女がこうっやっていろいろとステップを踏んで説明してくれているので耳を傾け続けた。
「そして、彼らがなぜそういったギフトを受け取ったのかが問題なんです。彼らは口をそろえてこういうんです『自分の無力さを味わい、こんな世界は間違っていると激情を抱き力を求めたときに』って。」
「それが一体どうなんです?....っ!まさか!」
「そうです。師匠がその力に目覚めたのが貴族に両親を殺されてしまったときなんです。記憶力の良いあなたならその日の王都新聞にはなんて書かれていたか覚えているはずです。」
「『デビル・ハンター』事件....」
彼女は私の言葉にそうです!とでもいうように笑顔を向ける。
その事件の概要はというと、一夜にしてその区画の貴族が皆殺しにされた事件だ。騎士団の調査によると、剣聖の残す聖因子ではなく未知の因子の残留が確認されたそうだ。決め手となったのは犯行終了後に必ず一つのカードが現場に落ちていたという。そのカードには...
「『すべての悪魔を狩る』でしたよね。それで冒険者時代に入っていくわけですか。でっでも、今は先生は人を殺していないですよね!現に私が生きているわけですし。」
「そうなんです。ここで師匠は人生の相棒となる人に出会うんです。今の師匠があるのはもしかしたらその方のおかげなのかもしれません。」
「その、相棒とはどんな方なのですかっ!?」
「まぁまぁ落ち着いて。その後、師匠が12歳を迎えた冬に、とっても幼く、でもどこか頭抜けた冒険者が新参者としてギルドに入ってきたんです。たしか当時その子は7歳だったかな?」
「7歳!?ギルド最年少じゃないですかっ!?それって大丈夫だったんですか?」
「それが許されちゃったんです。なぜならばその子は7歳とは思えないくらい強かったんです。デビルハンターを使用しても勝てないほどに。師匠曰く都市が5も離れているのに会話能力は自分より高かったし、何よりも『世界を見て回りたい』と言うほど野心家だったんです。」
7歳でギルドに入会してレイラさん師匠より強い?どんな人なんだろう。っ!まさか!
「その子、いやその方は先ほど言っていたアルフのギフトをお持ちなのでしょうか?」
「部分的に当たりかなっ!師匠と会った当時はまだそのギフトを発現させてなかったかな。まぁ、ここまで言えばわかるかもしれないけど実は、この後、師匠が私を拾った年、18の冬にここでまた貴族に親しい人、わたしも全貌まで走らないけどそれもその子が最も親しかった少女を亡くすことになったの。」
情報量が多すぎる。レイラさんが先生に拾われた日...?それも私の知らないところでここまで苦しい思いをなさっていたのですね。
私はなにも言えずにただただ唇をかみしめることしかできなくなっていた。
「でも、今回はその子がいたからかなのか、心が成長したのか事件という事件は起こさなかったの。でもその子はもう深い、深い哀しみとせめぎ合う葛藤を背負ってしまった。今の彼のギフトの色は深く濁った碧色になってしまったの。」
哀しみが碧と表されるならば、アルス先生のあの色は....?
「色.....先生の場合は紅。....っ!.......先生のモノは怒り...なんかじゃない、憤怒の色なんですね。」
私のつぶやきにレイラさんは何も言わずに頷き、また一口紅茶をすすった。
「私が知っているのは次で最後ね。師匠が18を過ぎると、13になった少年が言い出すの、『世界を回ってみて俺にはやりたいことができた』って。」
「ここが師匠が教師の道を始めるターニングポイントなんですね。」
「そう。その少年は師匠とある誓いを立てるの。『俺は内側からお前は外側から。言い方を変えようか、お前は表側で、俺は裏側でこの国を変える。』と。」
「これはどういう意味なんですか?」
「これの意味するのは、師匠たちはほかの人たち、つまりは権力を持たない平民を自分たちのような理不尽な終わらせ方方をさせてはならないっていうことで、師匠は表側、つまりは教師になって弱き者を最低限生きていけるように導き、その少年は裏側、つまりは内政から変えて見せよう。って誓いなの。」
私がこの内容を口外しないようにといった理由がなんとなくわかった気がした。でも私の探求心は収まらず、聞いてしまった。
「その方は、やはり頂天者の中にいらっしゃるのですか。でもそんなギフトを持つような人を私は目にしたことがありませんが。」
「っ!...もうそんなところまでわかっちゃうんですね!さすが、私の目は間違いありませんでしたっ!そうですね。じゃあまたスピリチュアルな話をしましょうか。『覇王』ってご存じですか...?」
「『覇王』...?よくテレビとかの陰謀論とかの番組で良く聞きますけど。あれは所詮創作物でしょう?あんななんの武器も使えて魔術においては最終階梯級をも放てるとかいう。」
私が笑い飛ばそうとすると、彼女は私の顔をみてニンマリする。
「それが、実際に存在するって言ったらどうします?しかも今代で2代目だったりしたら。」
「....ッ!!ま、まさかぁそんなわけ、レイラさんが魔術の頂点なのにそんな人がいるわ」
私の声を遮るように彼女は淡々と言葉を紡いでゆく。ありえないなんてことはないとでもいうように。
「いるんですよ。なんなら現役の高校生の子が。学校は違いますけどたぶん、あなたと同い年かと...?ちなみにわたしは残念ながら彼やその初代様には敵いませんでした。特に初代様は魔術に関しては右に出るものがいませんっ!」
「そんな....うそ....!」
「そ、その初代様、この国の間でなら別の呼ばれ方があったんです。え、えと『創成神の姫君』って。多分本人はその名前で呼ぶなと怒っちゃうかもしれませんが、言い方を変えましょう、本家のイザベラ家の人間です。なんなら本人ですね。」
わたしは留とどなく放り込まれる情報量におぼれそうになる。もう頭が許容限度を超えている。レイラさんは追い打ちをかけるように言い放った。
「昔、言ったと思います。私の名前はすべてほかの人につけてもらったと。それも、捨て子だった私にレイラという名前を付け、不自由なく大切に育ててくれた師匠に、私に魔術の何たるかを授け、皆伝のしるしに家名を受け継がせた初代様。否、サリナさま。これが私が今賢者の位置に立てている理由であり、アルス先生が教師を続けている理由になります。」
「ぁぁ....!」
私はティーカップをつかむ余裕すら無く、ただそこにたたずむことしかできなかった。そんな私を見たのかレイラさんは「あははっ」と笑って
「こっ、この話を聞いて踏み入れちゃいけない範囲だって分かって怖くなっちゃったかな...?今ならわたしのパートナーを降りることだってできるけど。って聞くまでもないね。」
「うん、わたしはそれでもアルス先生を選ぶよ!」
「そうこなっくっちゃね!じゃあ、あのあの、わたしと作戦を立てようっ!」
私はさらに燃えていた。一度つかんだ枝は二度と離さない。前までそうしてきたように、これからもあがいてみせよう。