甘~~い料理と、杏仁豆腐
ペコリんグルメ祭で挿絵の写真がNGということで、
急遽、アホリアss様からいただいた画像に変更しています。
アホリア様、深く深く感謝いたします!!!
そのうち自作イラストも並掲します。
↓
✕写真はそのうちイラストに変更します
(イメージのため作ったものを載せているだけ)
←いただいた画像に変更しております
さらさらのハチミツ色の髪に、青みがかった緑の瞳をした中性的な美貌の青年は、引き締まった腰にサッとカフェエプロンを巻いた。
彼女の食後のデザートを作ること。それはその男ーー水谷潤にとっては、ごくありふれた日常のことである。食後のもの、とはいえ、冷菓は冷やす時間を考えて先に作る必要があった。
電子レンジ対応できるガラスボウルに、市販の杏仁豆腐の素ーーー杏の種の内部の核を粉状にすりつぶしたものにトウモロコシデンプンや糖類を加えて調整したものであるーーーを、15cc計量スプーンで、バサバサっ、と3杯ぶんいれた。
「……甘さ控えめが良いんだよね。」
素に含まれる糖類の甘さも考慮し砂糖は大さじ1杯にした。なんでも美味しそうに食べてくれる彼女だけならあと少し増やしても良かったが、これ以上甘いと絶対食べないだろう人物の顔がふと脳裡をよぎる。
「……。」
潤にとって、目の上のたんこぶ、とも言うべき男。縦にも横にも潤よりデカいーーといっても決して太っているわけではない、骨太で筋肉質ながら体脂肪率は低く、四肢が長くスラッと見える、認めたくはないがカッコいい男である。
(なぜ僕は、あいつの分まで作ってやっているんだか……)
恋敵でもあるムカつく美男子を思い浮かべつつ、潤は、杏仁豆腐を固める素材ーー粉ゼラチンの袋を、ピッ!と、引き裂いた。
ーー杏仁豆腐を固める素材にも色々と種類があって、寒天で作るのがメジャーかもしれない。が、ゼラチンで固めると、もっちりとした食感に仕上がる。全体を混ぜてから全体が十分混ざる程度のミネラルウォーターを目分量で入れた。
(あのコは、もちもちが好きだし。)
なお、潤本人の好みはゼラチンでも寒天でもなく、ほどよいやわらかさと滑らかさ、ツルンとしたさっぱり食感も楽しめる「アガー」であるが、彼女の好みを優先した。
(コラーゲンはお肌にもイイし、ね。)
ゼラチンは、コラーゲンたんぱくでもあるんだよ。そう教えてやると嬉しそうにはにかんだーーそんな彼女の表情や仕草を妄想してにやにやしているその姿は、いくら美貌の青年とはいえ、はた目には、ちょっと不気味に見えたかもしれない。
ーーが、妄想しながら一人で百面相をしているそんな様子よりさらに異様だったのは、フルーツ缶のプルタブを開ける手つきが、まるで手慣れた暗器を扱う暗殺稼業の者か何かのように鮮やかだったことである。
ーーーエプロンを装着してからここまで10秒にも満たない出来事である。計量などひとつひとつの作業は大まかではあったものの、作業が速いなんてものではない。
あなたの本職はなんですか?、と聞きたいけれど聞けなくなりそうな恐ろしい速度で、潤はナイフを動かしフルーツをほどよいサイズにカットしながら、合間をみてボウルをレンジにかけた。
「まだあったよね……」
冷蔵庫から取り出した牛乳を400cc計量し、ゼラチンが完全に溶けたのを確認してから混ぜ入れた。人数分のグラスにそれぞれ半量ほど注ぎ、ステンレスのバットに並べ冷蔵庫へ。
「フルーツゼリーは、アガーかな。」
続いて、なめらかで透明感のあるゼリーに仕上がるアガーを大さじ半分程度、同程度の砂糖、さらに缶詰シロップ、水を加えたものーーをレンジでどろどろに煮とかす。仕上げに200ml程度のマスカットジュースを加えて冷ましつつ、別のバットに薄く流し入れつつ、グリーンのキウイだけ入れたものも作った。
(あと、なんにしようかな……)
ともかく彼女に栄養をつけさせたい。少しでも美味しく喜びそうなものをと考える。
(グラタン……かな?あとはーー)
鶏肉に適度に穴をあけて、砂糖とみりんを加えた濃口醤油につけて冷蔵庫へ。
千切りにした玉ねぎに小麦粉をはたき、一緒に炒めてから牛乳を加えて味をととのえ簡易のホワイトソースにしつつ、同時進行で炒めたシーフードミックスを、ゆでたほうれん草、冷凍のゆでブロッコリーなどと一緒にホワイトソースに混ぜて加えて、ココット皿に摘めた。上からピザ用チーズに、さらに粉チーズをトッピングした。
(焼くのはまだ早いんだよねーー)
デザートが固まっていない。使った用具を片付けてから、潤はいったんエプロンをはずした。
*****
焼き上がった照り焼きチキンをスライスして、
同じくスライスしたゆで卵、野菜類と一緒に、こんがり焼いたバゲットパン、中央に切り込みを入れたものーーに挟む。少し粒マスタードをきかせたマヨネーズソースには、炒めた玉ねぎのみじん切り、照り焼きチキンのタレ、隠し味にアンチョビペーストもちょっとずつ加えてある。
丸い小ぶりの皿のなかには熱々の、野菜とシーフードのグラタン。
そして、杏仁豆腐と二層仕立てのフルーツゼリーがきらめいていた。別添えにフルーツの盛り合わせ。
量としては少ない。潤だったら倍どころか4~5倍は欲しいかもしれない。が、ストレスから食欲が低下している彼女の現状で食べられるものはこれくらいがせいぜいだろうと思った。
「あのお馬鹿は。」
くそがつくほど真面目で、努力家の彼女。見ていてハラハラするし、要領の悪さにイライラしてきて、もう自分がやるからと言いたくなることもある。が、それでは本人のためにならないことも分かっている。
(自己管理も責任のうちと教えたはずなんだけど……)
闇雲にがんばることだけが責任感でもなければ、限界を超えないように加減できるようになることも、言って理解できないのなら、自分で覚えるしかないと思う。誰も助けてくれない、そういう状況だってこの先いくらでも起こり得るのだから。いいよいいよと甘やかす、そんなものは愛情でもなんでもないと思う。ーー相手のことを本気で考えているのなら。
「僕がいる間は倒れさせたりしないけどね。」
とりあえず餌付けだけはしてやろう、と、ひとり百面相をしながら水谷潤は彼女がいる部屋の扉をノックした。