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Episode 16


「ねえ、アーネスト?」

「はい。何でしょうか?殿下。」

「オスカーもカティもズルいよね。」

「…………。」

「いつもシャーロットの側にいてさ。ズルいと思わない?」

「…………。」


 学園のサロン内にある書斎を執務室として、ユリウスはアーネストと共にひっそりと国政の書類に目を通していた。

 以前は脇目も振らず、淡々と仕事をこなしていたユリウスが、最近になりこうして言葉を挟むようになった。

 しかも「ズルい」などと、随分と幼さが垣間見えるようなことを言うようになったのだ。


 ──ブライア男爵令嬢の言葉で、こんなにも変わられてしまうとは……。


 アーネストは主の変化を喜ぶべきなのか、この状況下で危惧するべきなのか頭を悩ませながら、次の書類を差し出す。


「殿下、そろそろあの方とのお約束の時間になります。急いでサインと指示をお願い致します。」


 顔色一つ変えずに、眼鏡のブリッジを中指で軽く押し上げながら話すアーネストに、ユリウスは仕方なく息を()いた。


「わかった。……アーネストも見た目は美しいんだからもう少し愛想よくしたら?ご令嬢達が放っておかないと思うん……。」

「必要ありません。」


 珍しくユリウスの言葉を最後まで聞かず、アーネストはグッと圧をかける。


「サインを。」


 ユリウスはどこかつまらなそうにアーネストを見やってから、書類の確認を再開した。次々と的確な指示を出し、あっという間に片付けてしまったユリウス。

 彼の頭脳はもちろんだが、それに即座に対応しながら正確に処理していくアーネストもまた、学生とは思えない能力の高さだ。

 やがて時間通りに全ての仕事を終えたユリウスは、軽く伸びをしてから立ち上がりアーネストの前を歩き出す。


「それで?()の君はどちらかな?」

「例の場所で、お待ちです。」

「そう。じゃ、行こうか。」


 サロンのドアを開け廊下に出ると、そこにはオスカーが控えていた。


「シャーロットは?」

「今はカティアローザ様と一緒ですので、公爵家の影がついています。」


 オスカーの返事に視線で頷き、ユリウスは目的の場所へと歩を早めた。



 放課後。利用時間が過ぎ人気のなくなった図書室──。


「待たせたかな?」

「いや。俺が早かっただけだよ、ユリウス。」


 彼らを待っていた人物。ブルーブラックの緩やかにうねる肩までの髪をハーフアップにまとめ、琥珀の瞳の涼やかな目に透き通るような肌。

 それはレイニード王国の北と国境を接する隣国・トルストからの留学生である、トルスト王国第三王子ルイ、その人だった。


「今回は協力に感謝するよ。」

「いや。ある意味利害の一致だしな。早く問題を片付けて俺の()()を返してもらわなきゃ困る。」

「そうだね。」


 皮肉と牽制を織り交ぜつつ言った台詞も、ユリウスに微笑み一つで返され、ルイは面白そうに口元をゆるめる。


「それで、何かわかったかい?ルイ。」

「あぁ。秘密裏に母国の兄上に連絡をとったんだが、やはり国王陛下が眠り続けられているのは、聖女の祈りが消えたかららしい。」


 トルストの第二王子は周辺諸国でも名高い魔導師だ。

 これだけの時間が経っても国内で黒幕が見えてこない現状では、ユリウスが使える人材に限りがある。そのため彼は苦渋の選択として、隣国の助けを借りることにしたのだった。


「しかし、闇の魔術が使われたことは問題だが、お前が言っていた通り、陛下のお命も国の守護結界も早急にどうにかしなくちゃいけないことはない。新しい聖女の覚醒を待てば問題は万事解決するはずだ。」

「………だからこそ、不気味なんだ。禁忌の闇の魔術まで使ったにしては、目的が全く見えない。大神殿の動きはあからさま過ぎるし、王弟派が聖女を殺すのは利点がないしな……。」

「お前の許可を貰ったからトルストの密偵に両方探らせたが、掴めたのは大神官の汚職の証拠ぐらいだ。」

「ルイ、君のことだ、そのもったいぶった言い方……。他に情報があるんだろ?」


 狐狸の化かし合いのような、会話と視線の応酬。

 二人はそれを楽しみながらグッと距離を縮め、ルイが声をひそめる。


「10年程前、この学園で起きた魔力暴走事件を知ってるか?」

「魔力暴走……。ああ、確か授業中に爆発事故が起きたとか、聞いたな。」

「実はその事件の詳細が国王の命で秘されているのがわかってな。」

「っ!ルイ殿下、貴方は我が国の機密事項を暴いたのですか!?」


 流石のアーネストも顔色を変え声をあげる。


「そう怒らないでくれ、アーネスト。俺が知ったのは情報が隠されているって事実だけだ。だが、なんか引っ掛かってな。当時の生徒達を探らせたんだ。流石に国交問題は起こさないよ。」


 元々トルストの密偵を国内に入れることに反対していたアーネストは、納得しきらない様子だったが、ユリウスは構わず話を進めていった。


「それで?辿り着けたのかい?」

「ああ。余程きつく箝口令が敷かれたようで、皆んな口が固かったが……。断片をつなぎ合わせてな……。」

「その魔力暴走が闇の遣い手によるものだったんだね?」

「ああ……。」


 ルイがその飄々とした空気をしまい、琥珀に鋭さを宿す……。


「……気をつけろ、ユリウス。彼は、身近にいるぞ。」

「なにっ?」

「その闇の遣い手……ロウエル・ナイゼルだった。」

「「──っ!?」」






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