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Episode 13


「アリア、あの子の世界に光の乙女を転生させたのかい?」

「はい、創造神(ケイノン)様。」

「まさかあの子が禁忌を犯し、人間の創造物を使って世界を構築するなどとは……。まだ手は出さないの?」

「今はまだ……あの子を見守ります……。」




 ◇◇◇



「シャーリー、行きますわよ。」

「あ、はいっ!カティ様。」


 学園中の憧れの的が、わざわざ一学年の教室に足を運び、聖女候補と連れ立って魔術クラスへと向かう。しかもお互い親しみを込めて呼び合いながら……。

 この光景ももう三度目となり、噂はあっという間に広がった。このことを学園内で知らぬ者はいないだろう。


「あと三日でシャーリーと一日中一緒にいられるようになると思うと、待ちきれないわ。」


 弾むカティアローザの声に、シャーロットはなんとも言えないくすぐったい気持ちで隣を歩いていた。

 少し離れてオスカーがさり気なく後ろを付いてくる。


 ──まさか、カティアローザ様とお友達になれるなんてな……。



 シャーロットは数週間前、初めてマルセル公爵邸を訪れた夜を思い返していた──。





 サロンでユリウスに本音をぶつけた後、シャーロットは大事な話があると言われカティアローザと共に公爵家の馬車に揺られていた。


「そんなに緊張しなくても大丈夫ですわよ。」

「はい……。」


 体を硬くしてしまうのは、なんとも座り心地のいい高級なシートのせいだけではない。彼女達の向かいに、ニッコリと甘い笑顔で見つめてくるユリウスが座っているからだ。

 今更ながら、王族に向かってなんという口の利き方をしたのだろうと、シャーロットは手が冷たくなるのを感じていた。


「シャーロット。」

「は、はい、殿下。」

「僕は怒ってなんかいないよ。むしろ楽しくて仕方ないな。」


 ──それはそれで怖いです!殿下っ。


 全てを見透かしたように言うユリウスに、ただ俯くしか出来ない自分がシャーロットは情けなくなる。

 やがて馬車は荘厳で大きな門を抜け、車寄せで静かに止まった。


「おかえりなさいませ、お嬢様。」


 執事が扉を開けカティアローザに手を差し出す。


「ウォルター、こちらはブライア男爵令嬢よ。今夜泊まっていただくわ。お部屋を用意してね。」

「かしこまりました。」


 ウォルターと呼ばれた執事はシャーロットにも同じく手を差し出した。恐る恐る彼の手を取り馬車を降りる。


「それじゃシャーロット、また学園でね。」

「えっ?」


 後ろから聞こえたユリウスの台詞に、シャーロットは訳が分からなくなった。


 ──殿下も一緒に公爵邸で話をするために同じ馬車に乗ったんじゃないの?一体どういう……。


「ウォルター、今夜のことは決して外部に漏れないように。カティ、頼んだよ。」

「はい、殿下。」


 落ち着いた様子でお辞儀をする二人をシャーロットは混乱したまま見つめ、ハッと自身もユリウスに礼を執った。

 公爵邸を後にする馬車が見えなくなると、カティアローザはシャーロットを安心させるように微笑む。


「さぁ、中へどうぞ。シャーロットさん。」


 緊張しながら足を踏み入れたエントランスホール。隙のない全てが調和した美しさの気品ある佇まい。決して華美ではないが、伝統的な様式美に目を奪われる。

 しかしシャーロットがマルセル邸を堪能出来たのはほんの僅かな時間だけだった。

 客室が用意出来るまでと通されたカティアローザの私室。彼女はここで聖女として後戻り出来ない事実を教えられることになる──。



 一年半前。当代の聖女が魔力の限界を自ら告げ、新たな聖女候補を募りだしたと公にはされていた。

 しかし……。


「聖女様は、既に亡くなられているの。」

「──っ!?」

「我がレイニード王国は一年半前から聖女の祈りを失くし、守護の綻びがじわじわと進んでいる……。そして、聖女様の死と時を同じくして、国王陛下が倒れられたの。」

「えっ?」


 シャーロットは王国の根幹を揺るがす事実を淡々と告げられ、背筋に冷たいものが走るのを感じて震えが止まらなくなる。


「それを、私が知ってしまって……大丈夫、なんですか……?」

「………大丈夫になってもらわなくては困るのよ、シャーロット。」


 カティアローザの白い絹のような手が、シャーロットの頬を包み込んだ。柔らかな温もりがシャーロットを落ち着かせようとしている……。

 真摯な優しさにシャーロットは逃げずに真っ直ぐカティアローザを見つめ、言葉の続きを待った。


「国王陛下は何者かに闇の魔術をかけられ、深い眠りの中にいらっしゃるわ。今は影が陛下を演じながら、国の全てをユリウス殿下が背負っていらっしゃる状況よ。」

「そんな……。」

「もちろん、私の父や、宰相であるアーネストの父君キュリー侯爵も全てをかけて殿下をお支えしているわ。でも、陛下の状態を知られるわけにはいかない。学園を休むことが出来ないユリウス殿下を、私やアーネスト、オスカーがお助けしているの。」


 カティアローザの言葉が紡がれるほどに、シャーロットは自分の浅慮を恥じていく。


 ──私、本当になんてバカなことを言ったんだろう……。


「シャーロット?」

「はい、カティアローザ様。」

「聡い貴方なら、ここまで話せばもう分かっているのではなくて?」

「……っ、はい……。」


 闇には光を……。今、次代の聖女の降臨と覚醒が早急に求められている。


 シャーロットは一つ一つ、ユリウス達の行動の意味を理解し始めた。








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