事情聴取は優しめで
「取り急ぎ、説明をお願いできますか?」
コホン、と咳払いの後詳細な状況をカルミナが説明していく。
・前回の召喚から約100年経過していること
→んん?地球で10年くらいしかたってないですよ?
→こっちの世界は早く育てたいから、成熟している地球とは時間軸が違うのよ!
・現在小競り合いが増えているのは、人族と魔族、エルフとドワーフ
→エルフとドワーフってかなり仲良くなかったですか?
→昔はね。お互い少しずつ発展した分、いがみ合いも増えてきてね
・さらに魔族の中でも小競り合いがあり、各種族がまとまっていないこと
→正確には竜族と不死族や吸血族が微妙な関係ね
→そもそも知的生命体の種族が多いのが原因では?
→だってその方が夢があって楽しそうだったんだもん!
・もちろん人族もまとまりかけてはいるが、いつ裏切りが出てもおかしくないこと
→あなたが前回暮らしていたアーバンはクライクと微妙な関係ね
・最大の目標は、争いを収めること
→具体的には、全種族の平定
「全種族の平定ってかなり無理があるのでは……」
「そこは、可能ならってところかな。難しいことは理解しているし、出来たらってレベルよ。」
「特に大変になりそうなのは、魔族側が今回は一枚岩どころか、魔族の中の細かい種族同士でも問題があるのに、各々で人族と小競り合いが目立ってるのよね。」
「魔王はどうなってます?」
「魔王はね……不在というか今は存在していないわ」
空気が冷たくなる。
「魔王は死んでしまったのですか?」
「魔族に殺されたわね。簡単にいうと。私の世界でだいたい20年くらい前かな。」
魔王カイン。
前回召喚された理由。ただ、圭吾にとってもカインは忘れられない存在だ。
「その辺の細かい話は、私にも分からないわ。この星のすべてを把握できるわけではないからね。」
あくまで、見守りと調整&調整、と小さい声でカルミナが呟く
そうなると、あとは現地で確認するしかないか……
しかし……混沌、とまでは言わないものの、こうなるまで放っておいたのかこの女神は……
「これこれ、ここの空間ではあなたの心も読めるのよ。」
「おっと、そう言えばそうでしたね。失礼いたしました。」
圭吾が苦笑いを浮かべながら答える。
「久々の呼び出しで、すっかり忘れていましたよ。」
カルミナが笑みを浮かべ、確認したいことは、まだあるかな?と言葉が飛ぶ。
考え込む暇もなく、質問だらけだ。
「ある程度の世界情勢は良いとして、私のステータスはどうなっているのでしょうか?」
「今回も転生ではなく転移だから、前回のステータスのままね。」
ただ、
「対魔王のスキルは除外してあるわ。」
説明によると、大きな力に対して、同じくらいの力を授けることはできるとのこと。
光と闇。善と悪。どちらかが強すぎるとバランス調整のためにもう一方も強化できるが、現在は魔王が不在のため、対魔王のスキルは生み出せないとのこと。
「となると強くてニューゲームですね。」
Lvが上限の99MAXだった圭吾が安心した様子で伝えると、カルミナの表情が申し訳なさそうに俯く。
「それがね、申し訳ないのだけど、あなたが去った後、レベル上げ馬鹿が一人いてね。その子がLv99まで上がった後も、ひたすらレベル上げに勤しむのよ。」
おっと、予想がずれてきたぞ。
「それでね、なんか可哀そうじゃない。だからね……今の上限は999なの!」
最後は笑顔で宣言のように声を高らかに響かせる。
時が止まる……
これは突っ込んでよいのか……
「カルミナ様のバランス調整がそもそもの原因では?」
子供のように泣き顔になりながら、だってだってー!と駄々をこね始める。
その様子をしばらく観察しながら、今後のことを考察せねば。
先ほどの話から、推測するに人族だけ上限が999ではなく、全種族999になっている可能性が高いので、前回のLv99は、現時点ではかなり低い可能性がる。
また、Lv上げかぁ……と、落ち込んでいる場合ではない。
最悪装備品も、前回無かったような効果が付与された可能性もある。
結構しんどいな、これ。弱くてニューゲームか。
わーわー喚いているカルミナに再度質問を投げる。
「私のユニークスキルはどうなっていますか?」
えっぐ、えっぐと半べそをかきながら、カルミナが答える。
「それは、そのまま残してあるわ。転移者の特典でもあるしね。」
「唯一の救いですね。今の話を聞く限りでは。」
安心できる材料は多い方がありがたい。
転移者特典があるのならば、生徒もユニークスキルがあるはずだ。
ある程度の今後の方針を固めると、カルミナに視線を向け、質問がないことを伝える。
「まぁ、圭吾ならなんだかんだでやってくれると思うから、よろしくね。」
そうカルミナが最後は笑顔になると、光り輝き始める。
2度目の転移か……とりあえず控えめに行動しないとな……
徹底した裏方稼業だな。
そう考えていると、光に吸い込まれ体に浮遊感が訪れる。