数学の授業してたのに
「あなた、起きてください。」
やさしい声色が耳に届く。
「ミクも起きて朝ご飯を食べていますよ。」
「パパー、起きてー」
ああ、もう少し寝ていたいが仕方ない。
今日も1日が始まるのか……。
心の中でつぶやきながら、起き上がる。
いつも通り、目覚ましが鳴る前に目が覚めてしまう。
といっても、夢から覚めるが正しい表現になるな……。
綾瀬圭吾25歳。独身。一人暮らし。
中学までは成績が良かったが、高校は余り良いところには行けなかった。
こればっかりは受験が絡むので仕方ないと思っている。
高校ではしっかりと勉強と部活に励み、目指した大学もあったが、やはり受験がうまくいかず、結局は誰でも行けそうなところになってしまった。
大学院へ向け転学し、研究職に進もうと思ったが、それもうまくいかず、教員課程の授業選択をしていたので、慌てて就活をしたところ、採用してくれた学校があり、しみじみ保険って大事だなと心に刻んだ。
ただ、専攻が数学だったので、ペンと紙さえあればどこでも勉強はできる。
それだけが、生きがいになりつつある。
いつもと変わらない準備、いつもと変わらない通勤経路。
そしていつもと変わらない日常。
新卒で教員採用された高校は、地方の私学だったがとても進学校と呼べるものではない学校だ。
まぁ、採用された俺自身が無名大学卒業だし、贅沢は言えないな。
そんなことを考えながら1限目の教室に入室する。
「おはようございます。早速前回の続きから始めますので、教科書は38ページからになります。」
授業開始の宣言もするも、真面目に聞いている生徒は約半数。
高校の数学は、興味を無くすか、大学に行くためになんとか必死に勉強してくれるか、本当に数学が好きかに分かれてくる。
高校が義務教育ではないにしろ、個人的には数学が好きになって欲しいが、教え方がまだまだへたくそなためか、魅力を伝えきれず不甲斐なく感じてしまう。
「そうしたら、この問題は……宮地君、お願いします。」
指名しても嫌そうではない生徒を指名する。
「先生すみません、二次関数がまだ理解しきれてなくて……。」
申し訳なさそうに宮地君は答える。
「うーん。前回授業でも説明したけれど、そこまで難しく考える必要はないんだよねっていっても難しいのもわかるから、もう一回前回の復習をしますか。」
黒板の左半分を消しながら、どう再度説明しようか考える。
「ページはちょっと戻って、35ページをお願いします。」
宮地君含め半数近くの生徒が教科書をめくってくれる。
「グラフが書いてあると思うけど、これが難しく感じちゃうのかな。」
生徒の表情を観察しながら説明していると、急な違和感に襲われる。
ッチ!!
心の中で舌打ちすると、突然教室を覆いつくすような巨大な魔方陣が出現する。
急ぎ移動しドアに手をかけようとするも、ドアに触れることができない。
教室の大きさちょうどで空間遮断されているのか…
生徒は、意味不明な光景に騒ぎ立て始める。
「なんだよこれ!」
「どんどん光が強くなってね??」
ああ、これはもうどうしようもないな……。
そうして、強烈な光を受けながら身を任せるのだった。