ブラッドヒーロー(献血勇者)とその助手兼嫁が女神のお告げに振り回されすぎる
こちらは『第3回「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞』用、超短編小説です。
「いい天気ですねー」
「あ、あんたが異世界転移者っスか!」
いきなりバレた。周囲にひかえていた黒ずくめの彼女の仲間に取り押さえられたよ。
「神のお告げで『A型のベリーショートのあなた、天気の話題でかるーく話しかけたふぬけた男が異世界人』と聞いてたっスよ」
「お告げなのに具体的!」
いきなり素性がバレて混乱しているうちに拉致された。
「たま〜に異世界から流れてくる『漂流者』を拾うんス。あんたが異世界人であることは、医学的調査で確定っス!」
「まさかの文明レベル?!」
この異世界、現代顔負けレベルだわ。
「女神様から何を言付かってきたっスか?」
「異世界で初めて会った女性を嫁にしてやるって言われた」
「それあたしっスかぁ?!」
「あと、この世界を……救ってほしいって言われた」
「世界の前にあたしを救ってほしぃっスー!」
そんな大規模なんだか小規模なんだかわからないやりとりをしていると、後ろでスタッフが騒ぎ出した。
「あんたが、勇者だとわかったっス!」
「なんだその、医療検査的なものをした結果わかる勇者って。今日のO型のあなたは勇者決定! とでも言われたか?」
「女神のお告げで、今日の、ツッコミがちでA型でもB型でもAB型でもない人が、勇者に決定と言われてたっス!」
「まさかの血液型ぁ!」
O型だと誰でも勇者になれるのか?
「バカいっちゃいけないっス。この世界にA、B、AB型以外の血液型なんて、ないんス」
「えーつまり?」
「あんたの血液を他の型の血液と混ぜても凝固しなかったっス。凝固反応のない血液なんて、輸血の革命っス!」
なんだろう、高まった勇者的な期待感が下がっていくよ。
「というわけで、あんたの血液を培養実験したいっス。実験中の身の安全と、衣食住の面倒は国が保障するっス。あたしが助手として、もろもろサポートするっス。よければ、この書類にサインしてほしいっス」
「あー、嫁の件は?」
サインをした字を見て、彼女が言った。
「名前はなんていうんスか? 自分も名前変わるんで」
「結婚の決断はやっ!」
かくして、俺はこの「助手」兼「嫁」と異世界で日々献血に励むことになった。痛くない針や輸血センターを作ったり、モンスターを使った血液農場なども営むことになるが、それはまたのちの話である。