4、カレンデュラ色の空。
領地に戻った私を待っていたのは、美しく咲き誇る、我が領地で有名なレモンイエローの花々、カレンデュラだ。
普段はレンガ色一色の大通りには、通りの端にカレンデュラが植えられたプランターが置かれ、彩りを与えてくれる。
見る者を楽しませてくれるカレンデュラは、この街の癒しだ。
この大通りは我が屋敷へと続く一本道。
観光地にもなっているため人通りも多く、危ないのでここまで馬車で入ってしまうと走るより遅い速度までスピードを下げなければいけない。
そのため急いで帰宅しなければならない時はいつも、通りに入る前に馬車から降りて走ることにしていた。
馬車から降りて、走る。
貴族女性必須のヒールが恨めしい。
出来ることなら踵を折ってやりたかった。
カレンデュラが彩る美しき景色も、今の私には普段のレンガ色一色よりも酷く色褪せて見える。
癒しを与えてくれるはずのカレンデュラを無視し、全速力で大通りを進む。
馴染みの人々が何か話しかけてきてくれた気もしたが、確認している暇もなかった。
屋敷に着くと、執事のセバスが私を両親の元へ案内してくれた。
案内されたのはいつも家族皆で過ごすリビングでも、両親の寝室でもない。
我が愛すべき領地・・・・・・・・・・いや、我が愛すべき家族の、愛すべきカレンデュラが咲き誇る庭園。
我が家特有のオレンジ色のカレンデュラが咲き誇る庭園の真ん中。
カレンデュラに囲まれるようにして、正方形の石が2つ。
それが何なんのか、認めたくなかった。
ただ呆然と、空がオレンジ色になるまでそこに立っていた。