3、夢なんて見なかった。
ちょっとシリアス気味な気がする。
私はシリアスが基本嫌いなので(書けないため)、なるべくこの空気を早く霧散させたいです。
史上最高に最悪な気分で目覚めた私は、私史上最大であろう音量と呼気量の大きなため息を一つ盛大につくと気合を入れるために顔を洗った。
夢と同じように、尋常じゃない量の雪が降り続いている外の景色をちらりと見て、私は早速行動を開始した。
正直、もうそろそろ婚約の話は出るだろうと考えていた。
現公爵家筆頭の叔父が黙って何もしてこないことに気味が悪いとは思っていたが、本人知らぬ間に婚約の話を進めていたことは予想出来ていなかった。
確かにわが国では、婚約に関し特に女子は本人の意思が蔑ろにされやすいということは分かっている。
最も力のあるものの意見に従うことが美徳というのが、この国で信仰されている宗教の教えで、本人が嫌がっている中、親が無理やり都合の良い相手との婚約を押し付け、真の愛を貫くためにお相手と夜逃げする令嬢が後を絶たないということも勿論知っていた。
家から逃げ何の後ろ盾もなくなった深窓のご令嬢が、幸せな暮らしを送れるのものなのかと疑問を持たなくもないが、愛の力は偉大であると聞いたことがあるし、何とかなっているのだろう、きっと。
若い女性から大人気の恋愛小説にもそういった設定は使われやすく、勿論国としては禁書指定されているそういった話が、密かに女性たちの間で回し読みされているらしいという噂話を聞いたこともある。
・・・・・・・・・・私のところまでその禁書が回ってきたことはないので、本当なのかどうか自信はないが。
まあ、そんなことは置いておいて、今の私の状況をお話ししよう。
私の名前は、アルツウォーネ・カレンデュラ。
カレンデュラ公爵家の一人娘である。
両親から惜しみない愛情を注がれ、本当に幸せな人生を送ってきたと思う。
私の両親はいついかなる時にも私の幸せを第一に考え行動してくれていたため、幼いころから「貴方はお家のためではなく、本当に好いている方と一緒になりなさい。お父様とお母様のようにね。」と言われ続けていた。
我が家は貴族社会内で珍しい、恋愛婚推しの家庭だったのだ。
そんな家族愛であふれた幸せな家庭が崩壊してしまったのは、一昨年の春。
私が16歳となり、学園に入学してすぐの頃だった。
その日、学園の庭園で咲いていたカレンデュラを見つけ、鑑賞していた私に大慌てで近づいてきた教師が私に告げたのはただ一言。
「お母上とお父上が事故にあった。今すぐご実家に帰りなさい。」
夢なんて見なかった。
夢で見ていれば、私にできることが何かあったかもしれなかったのに。