始まり。
「そうねぇ・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
一目で高級品と分かる、大人気ブランド~フューシャロジック~のドレスに身を包んだ夫人が困ったように右手を頬に当てて、手元の書類に目を通した。
指先まで洗練されていて、本当に美しい方だと思う。
帝都の華と呼ばれる目の前の女性の名はピオー二・アウビット。
御年40を迎えた女性であるが、美しさは健在。粉雪のように白くきめ細かい肌に、恋物語を夢見る少女のようなほんわりと桜色の頬、ゆるくカールしたブロンドの髪を耳の横で一つに束ね、取り残された後れ毛すらも愛おしい。
一度目があえば心を奪われ囚われ、彼女のことしか考えられなくなると言われ続けて何十年。
衰えを知らぬ、帝都一の美女を正面から近距離で見ることが出来ている、更に困惑させることが出来た(困惑しても美女は美女だった)というだけで、趣味が美女観賞の普段の私であればここに来た甲斐があったと泣いて喜ぶ。
だが、彼女の正面に座る今の私はそれだけでは満足できない状況に居た。
大きく息を吸い込み、本日ここにきて2度目の言葉を口にする。
緊張からか口内はカラカラ。
紡ぎだしは掠れてしまったが、それほど追い込まれた状況であるから、ご容赦願いたい。
「・・・・・息子さんをください!!」
アウビット夫人は本日何度目かのため息を吐き、もう一度書類に目を落とした。
その書類には、「もうこれ誰ですか??え?」と100人いれば100人が聞き返すだろう、美化されすぎて神格化している私の絵姿とともに、私の良い所をこれでもかという程書き連ねた自己紹介文が載っている。
そんなに自尊心が高くない私が捻りだした自己紹介文なので、後半は「これ書く必要あったか?」ってレベルになってる。足音が静かですとかどこでもすぐに寝られますとか。
早寝早起きのおかげで健康ですを序盤に書いたが、今思うと削除したほうが良かったかもしれない。
健康体であることは良いが、早寝早起きのおかげでと書いてしまったことから、その規則正しい生活が崩れたら不健康になりますよとも聞こえてしまう。
貴族の社交は基本的に夜間に行われるため、生活はどうしても遅寝遅起きになってしまうのだ。
これは書くべきじゃなかったわね・・・。ダメなところではないか、と反省。
まあ、そんなことはさておき。
何故私が夫人に自分をプレゼンテーションし息子さんを下さいなどとのたまっているのか・・・。
それは2日前にさかのぼる。