【VSアスィさん】雪ゲーでガチ勝負!
【準備中……】
【準備完了!】
『Snow Simulator』――通称、雪。
一体何をシュミレートするのか訳が分からない人も多いと思うが、実際ゲームをしてもよく分からない。
分かることは二つ。一つ、爆発する雪だるまと気が狂ったかのようなマップ、そして雪があったりなかったりするディスリアルエンジンのプリセットだけで組み立てられた世界で一人彷徨うシングルモードがある、ということ。
二つ、何故かFPSが始まるマルチプレイモードがあるということ。
何故タイトルがSnow Simulatorなのかは分からない。
しかし、そこに人を惹き付ける何かがあるというのは確かなことだった。
うんまあなるべく好意的に紹介したけど実際ただのクソゲーですよ。
何か知らん間に数多の動画作成者とかバーチャル美少女に紹介されて滅茶苦茶バズった結果まあまあ人気になった、っていう歴史があるだけです。
じゃあなんでやるかって話なんですが、まあこれも言っちゃうと荒削りすぎるマルチプレイのバランスが多数のバグと小技が編み出された結果酷い状態でバランスが取れている感じになっちゃったってだけで。
まあそういうところに人気とかあるんじゃないですかね?知りませんが。
ですけど実はこっち、ディスリアルエンジンのプリセットをそのまま流用したFPSなんでそこまでバグはないんですよね。正直バグゲーを楽しむのならMVSSの方が楽しめます。ですがまあ動画タイトルの通り私とアスィが戦うのはこの雪です。まあそれにも色々理由はあるんですが、一番大きな理由としてはMVSSは五人プレイしかできないんですよ。私達以外をAIにプレイさせる、ということもできなくはないんですが。結局はそれをしてもアスィの望むタイマンという形にはならないんで。
じゃあMVSS以外で私がアスィと対等に戦えるゲームは何か?ってなると雪しか無かったんですよね。
『もっとマシなゲーム他にあるだろ』
『何故雪なのか』
いや対戦ゲームなら他にも色々あるんですが、私実はバグゲーじゃないとまともに戦えない性分で。
いやほんと私自身滅茶苦茶謎なんですけど、バグゲー以外でアスィに勝てた試しがないんですよ。謎です。
『二人共、頑張ってねー!』
お、この私のリスナーではありえないような優しいコメント……これはピニョ先輩のコメントじゃないっすか。
ピニョ先輩!チッスチッス!
『見てるからね!』
うおおおおおおおおお。
ピニョパイセンのご加護を貰った。やべぇ、負ける気がしねぇ。
私……逝ってくる!
「準備は良いですか?」
「勿論」
私達はロビーに集合し、ゲーム開始ボタンを押す。
ルールはチームデスマッチ。というかこれしかない。
先に相手を3回殺した方の勝ちになる。デフォは100回だけど、それは流石に長すぎたんでルールを弄った。
特に大袈裟な演出が入ることなく、さらっとゲームが始まる。
瞬間、サーバーのログに怒涛の入退室の記録が残された。
雪の公式ルールでは、基本的に開始10秒間の間のみはサーバーを入退室することが認められている。
それは入退室によって発生するバグが存在するからだ。そしてそのバグがないとこのゲームはまともに遊べない。
基本的に、この10秒間でどれだけ入退室を重ねられたかで序盤の有利不利は大体決まる。
私は脳をフル回転させて入退室を重ねた。
『何だこのゲーム……』
『お前雪は初めてか?力抜けよ』
『雪はずっとこんなんやぞ』
そうだよ。
あ、この時間にゲームの説明しますか。
とりあえず、雪ではプレイヤーは主に7種類の武器が使えます。
一つ、サブマシンガン。皆さんの想定しているサブマシンガンと同じと思ってもらって差し支えないです。
二つ、ハンドガン。一発の威力はサブマシンガン一発と同じです。連射力がサブマシンガンよりあります。
三つ、ショットガン。散弾一つの威力がサブマシンガン一発と同じです。
四つ、スナイパーライフル。一発の威力はサブマシンガン一発と同じです。
五つ、グレネード。ピンを抜いた音が何故かマップ全体に響き渡ります。後光ります。
六つ、RPG。基本的に最強武器です。
七つ、ナイフ。風切り音が何故かマップ全体に響き渡ります。一切りの威力はもちろんサブマシンガン一発と同じです。
全て残弾は無限、RPG以外リロードも必要ありません。いや、正確には21億4748万3647発撃ったらリロード必要ですが。
『いくつか武器おかしくないか?』
『いやちょっと待て』
……っと、10秒経過。これ以降のサーバーからの退室は反則扱いとなりそのまま負けになる。
私は大量に召喚できた分身達と一緒に、テクスチャすら付けられていない真っ白な部屋から外へ出た。
テクスチャ無しの手抜き部屋を抜けると、そこは雪国でした。
……はい。このゲームの雪要素終了。
Snow Simulatorのタイトル通り一応雪が降り積もっている。が、逆に言えばそれだけしか雪要素はない。なにこれ?
さて。見回してみたがアスィの姿はどこにもない。
雪のフィールドはくの字型になっていて、それ以外の場所へは出れないように壁で囲まれている。ので、基本的に初期のリスポーン位置から相手の位置を覗くことはできない。
基本的にだけど。
私は空中でRPGを伏せながら真下やや後ろめに撃ち、飛び上がって壁を越えた。
分身も全く同じ動きで私に追従する。
移動を妨げる壁は割と低い。RPG空中跳びでやすやすと越えられる程度だ。
くの字型の頂点、アスィの居るであろう初期リスポーンに私は滑空しながら向かう。アスィの性格上、まず地盤固めから動く筈だ。
ならば私はその隙を突く!
「そうきましたか……」
やっぱりアスィは行動不能バグの準備をしていた。まあその技の説明は後々するとして、今はアスィの次の行動に注視しなければいけない。
アスィは無言で武器を切り替え、私に向かってショットガンをぶっ放してきた。ショットガンはこのゲームでは珍しい、当たると基本即死するタイプの武器である。
アスィの分身達も全く同じ動きで散弾銃を撃ち放つ。正確なAIMだ。間違いなく弾に当たって即死するだろう。
私はアスィがショットガンを構えた時点でまた空中で伏せて右下にRPGを撃っておいたので、体が左上に引っ張られて事なきを得た。
だが悲しきかな、何体かの分身はショットガンから逃れきれずに消え去ってしまった。
まいいや。私は構えた銃をアスィに向かってとりあえず撃つ。
雪にドッジロール的なアクションを用意してくれてないので、こういう時に攻撃を避ける手段はない。
アスィがRPGを真下に構えてかっ飛ぼうとしたのも虚しく、ショットガンの弾に当たって分身もろともアスィは死んだ。
残念でしたねアスィ。あの場面は私が襲ってきた段階で屋根登りかRPG跳びで逃げるべきでした。
『これどうなってんの?』
『まるで意味が分からんぞ』
『初手の読み合いにイドラが勝った。アスィは地上戦になることを見越して地上のエリアを移動不能にする夢想封緘を準備していたが、イドラはそれを読んで空中戦を仕掛けに行った。その結果対応が後手後手になったアスィは負け、イドラが分身を多く残した状態でアスィを殺せた。これはなかなかデカい。この段階で8割アスィの負けが決まってる』
『お、おう』
しかしそれによって一安心したのも束の間、次の瞬間にはRPGの爆風によって雪の中に隠れていた分身達が吹き飛ばされた。
……どういうことですか?このゲームのリスポーン時間はここまで短くない筈。
――いや、ミステリーパワーか。あれを悪用すればリスポーン時間の短縮もできる……!
まさかミステリーパワーを用意してるとは……クソッ!半分反則だろそれ……。
私はサブマシンガンの乱射にかすって死んだ。
*
残る残機はない。アスィも残機はない。
分身も全て消えた。一対一、死んだら負け。アスィの望んでいたタイマンの形。
そんな中、私は雪の中で伏せていた。このゲーム、雪のオブジェクトに文字通り埋まることができるから基本伏せていれば相手に見つからないんだよね。
勿論こっちから何も見えないってデメリットはあるんだけど、気付かれたくない時の移動には適している。
だとしても、だ。この先どうするか。
近~中距離で戦おうならアホみたいな威力を持つショットガンで殺される。
かと言って遠距離から狙おうものなら遠距離最強のハンドガンで殺される。
アスィのAIM力ははっきり言って異常だ。AIMのみならバーチャル美少女界でゲーム最強と言われる九重ななつにも匹敵するほど。
分身があればなんとかなるのだが、全て殺されてしまった以上どうしようもない。
……ま、後5分くらいこのままバレずに待機できれば私の勝ちは決まるんだけどね。
雪はHPがほっとくと自動で回復するなんて気の利いた機能は勿論搭載されていない。
その割に何故か時間切れの時の勝敗判定システムは凝っていて、残機数が同じならHPの多い少ないで勝敗が決まる。そして私はさっき(カットしたシーンで)弾をアスィにかすらせた。つまり5分放置すれば勝てる。
『画面真っ白なんだけど』
『なんだこの放送……』
『せめて何か喋れ』
あ。しまった、今配信中だった。
っても喋れって言われてもさぁ。このゲームボイスチャットのチャンネル分けとかないし。喋ったらそのまま相手に聞こえるんだよね。
……ま、しょうがないか。撮れ高命だ。
勝てる試合を放棄するのはちょっと癪だが、まいいや。
アスィー!出てこいやー!
「愚かな……」
愚者でも構いませんしー。というか私は哲学者ですから賢者ですぅー。
私はRPGを伏せ撃ちして空中に吹っ飛んだ。
同じくアスィもRPGを伏せ撃ちして私と同じ高度まで上がってくる。
空中戦の形になった。
ホバリング兼緊急回避をRPGで行いつつ、私達はショットガンを乱射する。
……いや、ここはショットガンじゃないな。ハンドガンが一番適任だ。
アスィがハッとする。
ハンドガンはトリガーを引けば一発弾がスナイパーライフル並みかそれ以上の精度で飛び出す武器。つまりトリガーを超高速で引きまくればサブマシンガンを超える連射力を手に入れることができる。腱鞘炎になるって副作用もあるけど。
つまりこのろくにショットガンで狙いを付けられない状態ならハンドガンが最適ってことさ!
アスィもそれに気づいたのかハンドガンに持ち替えようとする。――隙発見!
私はハンドガンを撃ちまくった。
『全く当たってなくて草』
『これマジ?ノー哲ノーコンすぎるだろ……』
『なんすかこれ』
うっせぇ!
AIM力私そこまでないんだよ!というか1,2発は当たってるだろ!
あっやべ。アスィがハンドガンに持ち替え終わりそう。
……。
私は一度RPGでホバリングしてからナイフに持ち替え、つらつらと適当に述べた。
「アスィ。ナイフ戦やりましょう。ナイフです、ナイフ。時代はナイフですよ。というかですね、あの視聴者の人はやっぱりこうかっこいいバトルを望んでると思うんですよ。やっぱり。あのーさっきですね、私があのままハンドガンを連射して当てて倒してしまっても良かったんですよねうん。でもやっぱりそれじゃつまらないかなーって思って。分かりますよね?アスィさんもバーチャル美少女なんですから。そして撮れ高が欲しいっていう感情も勿論ある筈です」
アスィはうんうんと頷く。
そしてアスィは口を開いて。
「嫌。」
私はハンドガンで頭を撃ち抜かれて死んだ。
【Your team LOSE!】
【この配信は終了しました】
【VSアスィさん】雪ゲーでガチ勝負!【Snow Simulator】
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イドラ
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過去の因縁をバーチャル美少女になってからも持ち込んでしまい申し訳ありません。
今回の動画以降、私とアスィさんが過去の話をすることはないと思います。
もししたらごめんね☆
48 件のコメント▽
機巧少女ピニョ
イーちゃん惜しかった~!!
次は勝とうね!応援してるよ!
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