【超次元】あのお方達の殺人ゲームにこっそり参加!
『イーちゃん!きごシスが視聴者参加型のゲームの配信始めましたよ!』
私はそのCちゃんからの通信によって叩き起こされた。
今日本時間で午前三時だぞ。何考えてんだCちゃん。
『急いで。動画にきごシスの妹の方からコメントで反応がありましたよね?関わるなら今しかないから』
きごシス……あーっと、五新星の一人(便宜上一つって数えられてるだけで実質二人だけど)だよね。
機合姉妹――だったっけ。企業系バーチャル美少女の二人グループで、妹の方が歯車、姉の方が合金とか鉄鋼の企業が出したキャラだったか。
確かにCちゃんの言うとおり私の動画にコメントを付けてくれていた。そして付いていた高評価も多かった。まああの二人ニャルさんと仲良いってのあるしね、見知らぬバーチャル美少女とのコラボと聞いて駆けつけたんだろう。
で、その機合姉妹と仲良くなるチャンスが今しかない、それも分かった。
でもゲームなぁ……。どんなゲーム?
『例のアグレッシブ殺人ゲームです。しかも初代の方。挑戦者募集中、みたいで』
『マジ!?やるやる!』
MVSSは私の本当に大好きなゲームだ。
Cちゃんや昔このゲームで知り合った相棒と死ぬほどやり込んでいたのを思い出す。
持ってないゲームだったら参加できるかどうかも分からない放送にわざわざゲームを買うべきか?という難題に直面するところだったし、これは僥倖だ。
よし、行くか。
【録画準備中……】
【録画スタート!】
「お兄ちゃん想う、故に私有り。哲学系バーチャル美少女、イドラです」
私はカメラに向かって手を振る。
今回は配信ではなく録画だ。後々この動画を編集してBinitubeに投稿する予定である。配信ばっかの投稿者じゃないからね。
とはいえ、直接コメントで反応が貰えないというのはちょっとだけ寂しい。
いや寂しいというか不安だ。何か動画に不備があっても確認するまでは分からないから。
特にこういう一発勝負の時は本当に困る。
「さて、今回は!なんとあのきごシスの放送に……潜入!したいと思います!」
私は頑張って考えた決めポーズを取る。
この後の展開を何も考えてなかったのでとりあえず私は早速きごシスの配信を見てみることにした。
【機合姉妹Live】
【準備中だよ!】
【準備完了したよ!】
『どうもどうもー!皆、きごってるー!?ピニョです!今日もガガガッと行こー!』
『どうも。皆さん、きごっていますか?アスィです。今日もカカカッと行きましょう』
Cちゃんはどうやら私を放送準備中の時に叩き起こしてくれたらしい。
その為、私がライブ配信を視聴する時に丁度配信が始まる形になった。
『今日はね、知る人ぞ知るあのゲームで!皆と対戦したいと思うの!』
『知る人ぞ知る……?それは一体どんなゲームなんでしょうか?』
茶番が始まった。
そもそもTwitterで告知してるんだから知ってるでしょ。って野暮な突っ込みはしない方がいいかな。
『そのゲームは「Murder VS Sleuth」!無印の方だよー!』
『マーダー?殺人のゲームなんでしょうか?』
【機合姉妹Liveを閉じました】
なるほど。この調子だと結構私が参戦できるようになるまでは時間かかるな。
とりあえずワイプで流しておくか。
……。
…………。
……あ、じゃあこの時間を使って参加できるようになるまでこのゲームの説明しよ。我ながら上手い尺の使い方だ。
私はカメラに向き直って喋る。
「えっと、きごシスが今回の配信でやっているゲームは『Murder VS Sleuth』。『Murder VS Sleuth2』も出てるけど、このゲームはなんだかんだで無印の方が人気なんですよね。まあなんで無印の方が人気なのかって説明は後述するとして、ゲームの概要から説明します。
えっと、まあタイトル通りなんだけど館に訪れた一行に混じった殺人鬼――犯人と呼びますが、が探偵一行を全員殺そうとするゲームですね。犯人は探偵一行を全て殺せば勝ち、一行は誰かが犯人を推理して当てたら勝ち。この推理して、って部分が結構大事で、推理しないと捕まえられないからその辺の駆け引きが結構熱いんです。
で、なんで無印の方が人気なのかっていうとだけど。無印版『MVSS』はバグが豊富なんですよね。
だから超次元アグレッシブ殺人ゲームなんて別名で呼ばれたりしてるんですよ。続編でバグは殆ど修正されたんですけど、なんだかんだでプレイヤーにはバグばっかりでカオスな無印の方が好みだったらしくて。結局続編も売れたっちゃ売れたけど人口は無印の方が上ってなっているよく分からない作品なんですよねこれ。
で、しかも――」
『イーちゃん!きごシス!』
Cちゃんどったの?きごシス?何そ――あっやば。
【機合姉妹Live】
『はーい!じゃあ館のパスワード公開しちゃうね!』
あっぶな。もうすぐじゃん。
サンキューCちゃん。後で何か奢るね。
『パスワードは……こちらです!』
きごシスの姉の方、アスィさんの手で隠されていたパスワードが衆目に晒される。
それまでの間に私は既に下準備を済ませておいた。何もやり残したことはない。
……よし、見切れ私!この一瞬に全てをかけろ――!
『ドー【機合姉妹Liveを閉じました】
「うおおおおおおおおおおお!」
私は光速で直接入力を行う。
頼む!入らせてくれ――!
【部屋に入室しました】
【残り人数:1人】
「……っしゃあ!入れた!」
いええええええ、と私は一人でガッツポーズを取る。
さて。問題は次なるランダムで振り分けられる役職にある。
MVSSは5人プレイのゲームだ。探偵役が4人、殺人者が1人の構成でゲームは行われる。私としては探偵役の方が得意なのだが、どうなるか。
きごシス側は配信してる以上ゴースティング(配信を覗き見て有利になるよう振舞うこと)が行われる可能性があるし、きごシス側に犯人役が割り振られないように設定されているだろう。
つまり若干苦手な犯人役を引く可能性は実質3分の1だ。困る。
【ゲームが開始されます】
それに加えて来た通知は……よし、いい役が引けた。
後はどれだけ良い動きをして目立てるかにあるな。
*
「……主人さん!主人さん!?」
ゲームが始まった。
私達が取り囲んでいるのは、今いる場所であるどこかの孤島とこの館の持ち主だ。プレイヤーである5人組は古くから島と館の持ち主と仲が良く、運良く島と館を何日か貸してもらえることになった。楽しい別荘生活になると思われたが、なんとそこで悲惨な殺人事件が起こる――それがMVSSのストーリーだ。
MVSSはまず最初の被害者である館の持ち主が殺されるところから始まる。ちなみにこの殺人方法を特定する手段はない。ダイイングメッセージで「私は殺された」とか書いてあるが、実際は自殺なんじゃないかと上級MVSSプレイヤーには思われている。知らんけど。
それにしても視界が大変なことになっている。至るところから赤い線が出て、至るところで人っぽい形をしたものが倒れていた。
あ、説明しますとこれは凶器になり得るアイテムの取り得る動きとそれによって死亡するであろう人の形が視界に描かれるバグを利用しているからです。
このバグのメリットは銃などの武器の射線が見えること。でもそれだけのためにわざわざこの画面が死ぬほど見づらくなるバグを持ってくる意味は……無かったかなぁ。
さて、そんなことを説明している間に一行の中の誰かが立ち上がった。
「み、みみ皆さん!とりあえずここは食堂に集まりましょう?だれがやったのか考えませんと!」
そう発言したのはきごシスの姉の方、アスィさんだ。
館の主人殺人事件が発生したのは廊下だ。アスィさんのまず食堂に集まろうとする考えやよし。
まあ普通のミステリなら、の話だけど。
「銃痕なし。犯人はCですね」
私は一足先に死体をチェックする。
館の主人の死に方によって犯人役の持つアイテムが変わってくるからだ。ちなみに私はたとえ犯人役でも率先してこれを行うと決めている。
「あーCタイプかぁ。とりあえず俺アイテム探してくるわ」
「私もー」
そう言ってリスナー達は加速して壁を抜ける者、壁を駆け上がって天井を抜ける者に分かれて散っていった。
「アスィ、一緒にアイテムを探しに行こ?」
「えっ?なんでですか?」
このゲーム、最初の殺人は手口がどう推理しようと分かんないから初手はアイテム探しが鉄板なんですよね。
犯人が怪しい動きできないように固まるんじゃないの?と思う方もいるかもしれないですが、Cタイプの犯人は遠距離武器を持っていない代わりに犯行に必要な道具をほぼ持っているんですよね。だったら自衛の為に固まれよ、って話なんだけど――このゲーム、探偵側もある程度アイテムがないと犯人を推理できないんですよ。後、固まると逆に『精神値』って呼ばれるステータスに悪いのもある。だからバラけるのが一番なんです。
……よし、とりあえず私はあの場所に行こう。
私はタケコプターと呼ばれるバグを使って廊下から天井を抜けて中庭に出た。
*
「キャー!」
アスィさんの叫び声が聞こえる。
当然だ。食事中にリスナーの1人が背中から血を噴き出して倒れたのだから。
「!?」
私はアイテム探しの為に分離させていた手を呼び寄せつつ、突然の殺人には慣れているが(一応相手方が配信してるので)驚いたふりをした。
「……っ。なんで今?」
どうやらピニョさんも困惑しているようだ。
このゲームにはゲーム側から強制的に体を操作される“強制イベント”なるものが存在している。
基本的に強制イベントは一日三回。全て食事だ。そしてその間はどう頑張ろうと体を動かす方法はない。つまり直接的な殺人は無理ということだ。
当然毒を仕込むなどして殺人は行えるが、毒で血を噴き出して死ぬだろうか?
さて、では早速リスナーの死に方を推理しよう。
一つ、リスナーは食事中に死んだ。
二つ、今は誰も自由に動けない強制イベント中である。
三つ、突然血を噴き出した。
……で、あれば“あれ”で間違いない。
「あー、これは丑の刻参りで死にましたね」
私は発言した。強制イベント中でも口は動かせる。
「丑の刻参り?でもイベント回避してるっぽい人いないけど」
丑の刻参り。強制イベントに別の行動が起こるイベント重ねることで分身できる『相棒』というバグがある。メリットこそ大きいが、視界が分身とダブる上に同時に自分と分身を動かすことはできず、更にそのバグで生み出された分身はスタンドよろしく本体にダメージがフィードバックされる。
つまり相棒を殺せば本体も死ぬ。その為、初回以降に使えるバグで自由に動ける強制イベントでは相棒を作ることは推奨されていない。
「え?え?皆さんは一体何の話を……」
アスィさんは終始困惑している。何故ろくなバグ技も知らずにこのゲームをやろうと思ったのか。
一方ピニョさんはしっかりと話について来ている。この人は中々頼りがいがありそうですね。
「ですけどピニョさん、イベント回避を完璧にこなす人は居ます。少なくともあの死に方では丑の刻参りしか考えられないです」
「うーん、それもそうだけど……」
「私も丑の刻参りで死んだと思いますがねー」
リスナーの人も私の意見に同調する。
ちなみにイベント回避とは名前の通り強制イベントを回避できるバグ技だ。だけど、それをするということは怪しまれない為に強制イベントの動きをそっくりそのまま真似しないといけない。ちょっとでもズレれば即犯人扱いされて証拠をでっち上げられて死ぬ。だから相当リスキーな技だ。
……まさかその技が使えるほど強い犯人がいるとは。驚いた。
結局、強制イベントとズレた動きをした人間は見つからず、犯人は分からないまま強制イベントは終わっていった。
*
「……イドラさん」
食事後。私は困っていた。
「……どうしたんですかアスィさん?」
その理由は、私が強制イベントの後に自室でタップダンスしていたのを見られたからだ。
「何故踊っていたんですか?」
まあ見つかったのがアスィさんだからいいや。この人ならどうにか丸め込める。
私はいい感じにつらつらと言い訳を述べた。
「ちょっと踊りたかったからです。アスィさんもそういう時ありますよね?私だってありますよそりゃ。あ、実は私ダンスが趣味で。ちょっと気分が悪くなった時とかこうやってよくダンスで発散するんですよね。ほら、今とか憧れのアスィさんの放送に出てるじゃないですか。だから滅茶苦茶緊張してて。そのための運動型のストレス発散ですよ。人の緊急反応で過剰に分泌されたアドレナリンを筋肉活動で消費するんです。そうすることで落ち着く、そう医学的にも証明されてますが。ちなみに運動型のストレス発散には全身運動で手軽に行えるてかつ長続きするものがいいと言われてまして。アスィさんのよくするストレス発散って何ですか?私まあこの放送に来てる時点でそれ以外ないんですけどアスィさんのファンで。知りた――」
「全く。いつも貴方はそうやって適当に口を回して」
「――!?」
アスィさんの目つきが変わった。これまでの柔和なタレ目ではない。視線だけで人を射殺せるような――鋭い眼差しだ。
……いや、待てよ。私はこの目を知っている。まさか。
「お前……」
「久しぶりですね。まさか貴方もバーチャル美少女になっていたとは思いもしませんでしたが」
「貴様……ッ!」
私は真横に銃を撃った。
スピア・ザ・ゲイボルグ。AIM補正を悪用することでどう撃っても標的に当たるホーミング機能を銃弾に搭載するバグ技だ。
だが――。
「……」
アスィさんはUターンして襲いかかる超高速の銃弾をアイテムボックスから取り出した木の板でパリィした。
……それは別ゲー用のパリィシステムを呼び出すひらりマントバグ。そしてそれを銃弾相手に扱える奴は1人しか知らない。私の過去の相棒だ。
「その話し方でピンと来ました。貴方は私の相棒……MVSSランカー、†キリト†」
「その名前で呼ぶなああああ!」
私はキレて殴りかかった。
いや別にキレてる訳ではないけど。
確かに私が昔†キリト†って名前で相棒と一緒にこのバグゲーの全一として君臨していたことは確かだが、別にその名前に嫌な思い出があるという訳ではない。
ここでキレたふりをしておくことで何かアスィと繋がりがあるんじゃねと視聴者に思わせる為だ。
アスィが何故初心者を騙っていたかは分からない。まあどうせこいつの性格上何かしらの縛りでもしてたんだろう。多分、私が推測するにアスィのやってる縛りは初心者縛りだ。バグを封じて本来の仕様のみを使って戦うとかそんなんだろう。昔よく私もやってたし。
しっかしどうすっかなーこれ。
とりあえず殴りかかってみたはいいけどさ、アスィ超強いんだよね。ぶっちゃけ私に勝ち目ない。
いやバグ有りで考えれば五分五分くらいはあるけども。キレた演技の為に無策に殴りかかったのはダメだった。これそのまま反撃されて死ぬ流れじゃね?
「待ったあああああ!」
!?
私は声の方を向く。
アスィさんも後ろを振り向いた。
「貴方……ピニョ!?」
今まさに殴りかからんとしていたアスィの向こう側にピニョさんが仁王立ちしている。
「それ以上事件を起こさせない!アスィ、加勢するよ!」
「……ごめんなさい」
アスィは無言でピニョを撃ち殺した。
…………は?アスィ何やってるんですか?
いや、言っちゃうけどさ。私犯人ですよ?
なんかそれっぽく編集では隠すつもりだったんですけど。それで実は私が犯人でしたーってやって視聴者驚かすつもりだったんですが。
えっ?
「貴方と戦いたい……」
いやちょっと待てや。
バーチャル美少女が本分のゲーム配信に私情挟んじゃダメでしょう。いやまあ私だって貴方と戦いたいとは思ってましたけど。
あそこはどう考えてもピニョ&アスィのコンビで犯人である私を追い詰める――ってやった方が盛り上がる場面でしたよね?
「タイマンが良かった……」
なんて奴だ。私は恐怖した。
クソ、あの時しらばっくれときゃ良かった。
まさか過去の相棒がこんなことになってるとは……。
……仕方ない。こいつを殺して私は配信で目立つ!
私は先のタップダンスで準備していた低予算相棒を発動し、位置バグを起こすことで分身してアスィに殴りかかった。
アスィも負けじとダクトから第二第三の分身を呼び出し私に襲いかかってくる。
銃底とテーブルで鍔迫り合いが起こる。私とアスィは睨み合った。
――この勝負、絶対に勝つ!
【この動画は終了しました】
【超次元】あの方々の殺人ゲームにこっそり参加!前編【まさかの展開!?】
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イドラ
チャンネル登録者数 28,536人
勝負の行方やいかに――!?
※この動画を投稿する際機合姉妹に許可は取りました
12 件のコメント▽
合金少女アスィ@機合姉妹
楽しかったです。
また仲良くしましょうね。
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