【以心伝心?】ゲテモノ作りイドラ&ニャル
『いやぁ、前回のNWO放送は酷かったですね』
『殆どイドラのおかげだがな……』
あれから結構後。私とニャルさんはなんか普通に仲良くなった。今とか普通にダイレクトメッセージ飛ばし合ってるし。
ちなみに今回までの放送の記録だが、NWPart2はエリアボスマップで物理演算が荒ぶる場所のデバッグに全ての尺を使って、NWPart3はNPCを使い捨てするのはありかなしかという問答で終わった。びっくりだよ。
『っと。本題に入ろう。別のゲームでもコラボしてみないか?』
『はい?』
いっけね。素で送っちゃったわ。
『少なくとも、イドラより我は交友関係が広い。ここでのコラボは双方にとって良いものになると思うが、どうだ?』
『え、いいんですか?』
……どういうこと、これは。これまではNWで遊ぶ相手が他以外にないから、という建前を付けてコラボしていただけだというのに……意味が分からない。
ファン層の共有?いやそれはない。とりあえず一旦整理するべきですか。
まず今回ここでコラボを行う上で私が得られる利益だ。
まず第一に、ニャルさんはバーチャル美少女五新星の一人だ。当然注目度が高い。
つまりそんなニャルさんと別ゲーで正式にコラボができたなら、メディアにも注目されるわ他のバーチャル美少女からも注目されるわで良い事しかない。だがニャルさんの立場からしたらどうだ?こんな格下とコラボしたって良いことは何もないだろう。せいぜい私に恩が売れるとかその程度だ。となると残る選択肢は一つしかない。この人が単純にいい人という選択肢だ。
いやいやいやいやそんなことはあるハズがない。バーチャル美少女でしょ?自己顕示欲とTS欲と姫プ欲の集合体でしょ?いい人なんてこの世界に存在できるはずがない。というかしていい筈がない。そんな人が居たら速攻で刈り取られるのが定石だ。
それに条件も条件だ。双方がそれぞれ配信を行う形式で良い、とのことだったがどう考えてもそれはおかしい。だって普通格下を呼ぶんだったら自分の動画に呼ぶ感じじゃん?普通そうじゃん。
『まあ、そういうことだ。時刻は申し訳ないがこちらで決めさせていただくぞ』
まいっか。私は考えるのをやめてチャンスに飛びついた。
『ぜひー!』
【準備中……】
【準備完了!】
「お兄ちゃん想う、故に私有り。おはようございますお兄ちゃん。イドラです。そして……」
最初からバーチャル空間に登場していた私が右の方に向けて手をバッとやる。
「我が眷属ども、待たせたな!邪神ニャルだ」
するとなんか物凄い邪悪なエフェクトと共にニャルさんが現れた。
凄い……。このエフェクトかなり金かかってそうなエフェクトだ。
『待ってた。ふぁむ』
『ノー哲要る?』
『ニャル様あああああああ』
『ノー哲邪魔』
『誰もノー哲のことは思ってないぞ』
「なんだとお兄ちゃん共」
ニャルさんがコメントに憤慨する私を笑う。
ここまで既にテンプレと化してきた。あまり特徴的な挨拶を考えられなかった私にとってはありがたいことだが。
「さて、じゃあ今回我とイドラのするゲームは『Together Cooking』だ。既に背景から察してる有能な眷属も居るだろうがな」
「このゲームは二人で指示通りの料理を作るゲームです。でも、ちょっとだけただの料理ゲームとは違った部分があって。
片方がレシピを見て指示する側、もう片方が実際に料理する側と別れて料理をするんです。まあ要するに簡易版伝言ゲームというか。そうですね、まあ相当難しいゲームって聞いたんですけど、私とお姉ちゃんの力なら余裕でクリアできるかなーって思いました。このゲーム略称が『TC』でそれでググれば出てくると思うんですが指示を受ける側が買うだけでゲームはできますし今丁度セール中ですしオススメですよ、まあセールだから買ってやることにしたんですけどね。ちなみに最初は私が指示される側、次に私が指示する側としてプレイします。というわけでよろしくお願いしますお姉ちゃん」
「そんなにかしこまらなくても良いぞ。後我はイドラの姉ではない」
「流石お姉ちゃん、優しい」
そういうことになった。
まずは私が指示を受ける番だ。やるぞ。
「あ、そうそうイドラ。このゲーム、なんか失敗すると部屋が爆発するらしいから気をつけろよ」
「は?」
*
【LET’S COOK!】
【制限時間:200.99:99……】
制限時間200秒か。結構短いな。
「イドラ!まずは湯を沸かせ!」
「水で良いんですか?」
「はあ!?水しか無いだろう!?」
クソ。現場を見ない管理職にやられる下の奴らの気分が分かる。
お姉ちゃん!水と泥水と蒸留水とあるけど水で良いんですよね?
「湯って言ったら水だろ!」
「はい!」
私は湯を沸かした。
湯は沸くまで結構な時間がかかる。初手湯沸しに行ったのは多分正解だろう。
そういやこっち側の画面にどの作業にどんだけ時間掛かるとか書いてあるけどこれ伝えた方が良いのかな。
「お姉ちゃん!お湯沸かすのに1分――!」
「イドラ!次はやさ――!」
「……」
唐突に沈黙が訪れた。
こういう同タイミングに何か言ったときって結構気まずくなるよね。
「お姉ちゃんどうぞ!」
「いやイドラが言った方が――」
「いやお姉ちゃん」
『俺が!』
『どうぞどうぞ』
『どうぞどうぞ』
『あそうだノー哲、哲学でちょっと気になることあるんだけど(1000)』
「お、どったんですかスパチャの方」
コメントの後ろに書かれているのはスーパーチャット、略してスパチャによって動画に投げられた金額だ。
この『Binitube』では一応全世界で使えるポイントが投げ銭として投げられる(大体1ポイント5000円くらい。高すぎって思う人もいるかもだけどまあ日本円の価値えらいことになったからしょうがない)。当然通貨を投げられているのだから配信者としてそれに反応しなくてはならない。
『形而上学的実在論と内在的実在論がよく分からんのだけど』
あーそれね。Wiki見ただけだとかなり分かりにくいよねそれ。
というかそれ実在論の中でもクッソマイナーな奴じゃない?どうしてそれ知ろうと思ったのか逆に気になるんだけど。
まいいや。ざっくり説明するねお兄ちゃん。
「イドラ!後ろの冷蔵庫から野菜取ってきてくれ!」
まず形而上学的実在論から。
まあこれは形而上学から説明した方が良いかもしれないからそっちから説明しますねお兄ちゃん。あ、これは一個人の考えっていうのを念頭に置いといてほしいんですが。
形而上学っていうのは、大雑把に言えばよく分からんものを調べる学問。形而上、っていう言葉の意味が“形のないもの”を指すからそれに学が付いたって考えると分かりやすいかもですね。
で、まあ実在論は知ってるでしょうから割愛するとして。
『実在論ってなんだよ』
『教えろハゲ』
しょうがないですねぇお兄ちゃんは。
というかなんで実在論すら知らないで哲学系バーチャル美少女の配信見てるんですか。
『お前がノー哲だからだろ常考』
常考ふっる。いつのスラングですか。
「イドラ!冷蔵庫から野菜頼む!」
まあ実在論から説明しましょう。
実在論っていうのはまず物体――分かりやすい月でいきましょう。月が本当に存在しているのかどうかを考えて、その結果「あるんじゃね?」ってなった学問です。
例えば、私達が月を見ている間は月はそこにあると思えますよね?ですけど、私達が月を見ていない間は本当にそこに月があると言えるのでしょうか?というより、月を見ていたとしても月を“見せられている”だけで本当に月があるのでしょうか?
……といったことを考えた結果、とりあえず何かしらが実在してるんじゃねと考えるのが実在論です。ちなみに普通の人が考えるそのまま見えてるものが存在してるんじゃないの?って考え方を素朴実在論と言います。
「イドラ!野菜!」
で、話を戻しますね。形而上学的実在論っていうのは世界は心と何も関係なく、かつ心とは関係ないどこかにただ一つの神の視点である真理がある、というものです。
はい形而上学的実在論の話終わり。次内在的実在論ですね。
これは真理が理論立てを頑張れば分かるもので、だけど神の視点のものは絶対分からない――とするものです。
分かりましたか?ちなみにこの二つの実在論を唱えた方、ヒラリー・パトナムさんはまたこれとは別の科学的実在論を信仰していたんですが、このことについて記した本でこの考え方に変わったんですね。そして最終的には――。
「イドラァ!」
「あっ野菜ですね今持ってきます」
そういえば料理ゲーム中だったわこれ。私は後ろの冷蔵庫に向かってダッシュする。
『哲学講義面白いですね、何か哲学で面白い話ないですか(500)』
私は急ブレーキをかけて私を追従しているカメラに向き直った。
にっこりと営業スマイルを浮かべる。
「いや~ようやくお兄ちゃん達も私の哲学要素に勘付いてくれましたか。嬉しいですね~」
はいじゃあ哲学で面白い話しますね、まずは~。
「イドラァ!」
「はい野菜ですね承知しました」
私は更に回れ右して冷蔵庫を開ける。中には“芋”、“ジャガイモ”、“馬鈴薯”と書かれた三つの箱の中にジャガイモっぽい見た目の何かがそれぞれ入っていた。
野菜って何?って聞いたらジャガイモって帰ってきたので私はキレた。
【制限時間:122.32:86……】
*
【制限時間:98.32:77……】
どうやらジャガイモはジャガイモでもジャガイモだったらしい。
私はそれをまな板の上に置いた。
「あーっとちょっと待ってくれイドラ、そこにある包丁が何かによって切り方変わってくるから」
「おっこの包丁ダマスカスじゃないですか!かっこいい~」
「包丁ってどんな種類だ?」
私は包丁をしげしげと眺める。
ダマスカスの包丁はマジでかっこいいと思う。だってあの模様だよ?海の波みたいな、木目みたいな感じの模様でさ、分かるよねお兄ちゃんも。
これが金属っていうところにロマンを感じるんですよね私は。
お兄ちゃんもそう思うでしょう?
「包丁の種類は?」
「ダマスカス」
「いやダマスカスがかっこいいって話は分かったから!」
「ダマスカスですけど」
「だからダマスカスは種類じゃない!」
えっ種類ってそういうことなんですか。
ちょっと待て。私、包丁の種類とか全く知らないぞ。
……。
…………。
「あっお湯沸きましたよ、私白湯好きなんですよね」
「包丁の種類!」
クソ。私の話題逸らし能力がゴミすぎる。
包丁の種類って何ですか。へし切り長谷部と脇差みたいな感じ?
「全然違う!というか例えもなんかズレてるぞ!」
あっこれは詰んだな。そう悟った私は遊び始めた。
「わっ凄いです!床下収納滅茶苦茶色々入ってます!」
「包丁の種類教えてくれ!もう形状だけ伝えてくれたらなんとかするから!」
しょうがないなぁニャル太くんは。
私は渋々床下収納に潜るのをやめて立ち上がった。ダマスカスでかっこいい包丁を手に取る。
「えっと、なんかノコギリみたいな奴」
「冷凍包丁じゃん!めっちゃ分かりやすい奴じゃん!ファーストインプレッションでなんでダマスカスの方に注目したんだよ!」
【制限時間:59.99:99……】
「あっ残り一分切りましたよ」
「とりあえず包丁持て!ジャガイモ切るぞ!乱切りだ!」
「乱切りってなんですか?」
「嘘だろ!?」
いやごめんニャルさん。マジで乱切りが何か知らないわ私。
乱切りかぁ。乱って聞くと忍たま乱太郎思い出すよね。あれテレビ付けたらまだやってて笑った記憶あるわ。なんであの検閲抜けられてるんだよって。
『わかる』
『なんで忍たまだけ生き残ったんだろ』
『あれじゃね?ジャパニーズ忍者だからとかじゃね?』
『なるほどな』
「芋切れ!乱切りは適当な大きさに切ればいいから!」
全く。そんな急かすもんでもないでしょ。
私は重い腰を上げた。あっこれ洗ったりとかはしなくていいのかな?
まあニャルさん洗えとか言わなかったしいいでしょ。
私は芋を切り始める。
「芋は洗ったよな?」
……。
まいっか。ほっとこ。
「洗いましたよ」
『大嘘やめろノー哲』
『というか時間やばない?』
【制限時間:22.24:76……】
「うわっほんとだ。どうしましょうこれ」
「確かに時間がそろそろまずいな……とりあえず切れたら鍋に放り込め!」
「アイアイサー!」
「最初からそれだけ指示に従ってくれよ……」
私は切った芋を煮立った鍋にぶち込んだ。
飛び跳ねた熱湯が額に当たってかなり熱い。まいいや、痛覚はないし大丈夫でしょ。
【制限時間:14.89.53……】
「次は器だ!ラーメン入れる奴を用意しろ!」
「了解ですお姉さま!」
「いつから私はそんな大層な存在になった!」
私は横の戸棚から適当な器を見繕う。
なんかラーメン入れる奴の器にも色々種類あったけどいいや。時間がない。
『良くねぇよノー哲』
『死ね』
『低評価入れたわ』
皆酷くない?
【制限時間:8.50.93……】
「急げイドラ!とりあえず煮えた芋を器にぶち込めば終わりだ!」
「本当ですか!?みっじか!」
「これチュートリアルだから!というかチュートリアルでこんだけ苦戦するな!」
私はミトンも付けずに煮えた鍋のふちをむんずと掴んだ。
死ぬほど熱いが、痛覚はカットされているため問題ではない。私はそれをどうにか持ち上げ、そして器の目の前に持っていった。
【制限時間:3.25.66……】
「っしゃあああああ!」
私は鍋を傾け――。
あっやっべ泡になって弾けた水が目に入った。
やばいやばい失明のバステ喰らった。仕方がない器って多分この辺にあったでしょここでしょ。
私は鍋を傾けた。
煮えたぎった熱湯は私の足に降り注いだ。
「ぎゃああああ!」
部屋は爆発した。
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【以心伝心?】ゲテモノ作りイドラ&ニャル【ニャル→イドラ編】
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イドラ
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善と悪、それらは全て紙一重だ。
偽善、という言葉がそれをよく物語っている。
善を成している筈なのに、周囲からはそれは悪であると断罪されるのだ。
であれば、その逆を言うことも可能であろう。偽悪だ。
一見悪を成しているのにも関わらず、周囲からはそれは善い事だと認められる。
この動画がその良い例だろう。
つまり私は何も悪くない。
23 件のコメント▽
邪神ニャル
いや悪いぞ?
▲ 337
機巧少女ピニョ
あのニャル様をここまで振り回すとは……。
ガガガッと来たね!イドラさん、要注意美少女に加えておきます!
▲ 563