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【第四回】おはようイドラ

 ……はぁ。

チャンネル登録者、一向に増えねぇ。なんなんこれ。

おかしいなぁ……。私さ、割と真面目に命懸けで深層Webのオリジナル版やったんだけどなぁ。


 私の見立てだと、その英雄的行為が讃えられてBinitubeにアップしたあの動画が急上昇入り、そのままチャンネル登録者も鰻登り!って感じだったんだけど。

いつもと同じくらいしか伸びてない。なんでだろ。

宣伝が足りなかったのかな。


 ……。

なんかあの光ってる人に言われた通りなのかも。

危ないゲームを配信しただけで、簡単に人気になれると思ったら大間違いだったのかな。

地道にやってくしかないか。……あ、そろそろおはようイドラの時間じゃん。

配信するか。


【準備中……】

【準備完了!】


「お兄ちゃん想う、故に――」



 *



「いや~私のハーレムも立派になってきたものだねぇ。ね、お兄ちゃん達?」


 私はカメラに向き直って笑顔を浮かべる。

今プレイしているNWに限らないが、VRゲームには基本的に配信用のカメラを出現させることができる。

そのカメラに取らせる動きは様々なものがあるが、今はド安定な追従モードにしている。


 少し振り返ろう。なんと第一回放送の後の第二回放送にて。“チュートリアルクエストをクリアしないと最初の街から出られない”、“一度ログインしたらそのサーバーで固定される”という驚愕の二つの事実に遭遇した。

まあ天下のドラボンクエストだって初心者プレイヤーの為に初手監禁から入ったって言うし、VRゲームはドラボンクエストばりかそれ以上にゲーム慣れしてないプレイヤーが対象になるものだ。仕方ない。


 そこで、私はチュートリアルクエストをクリアしなくてもできる事を模索し続けた。

その結果、NPCと話すことで“好感度”というパラメータを上げるのが可能なことに気づいた。ので、最初に会ったチュートリアルしてる神官っぽい人を骨抜きにすることにしたのだった。


 どうやらこのゲームは他のVRゲームとは違ってかなり高度なAIが積まれているらしく(というかゲーム側もそれを売りにしていた)、NPC一人一人に好感度というかそういう類のものが設定されているらしい。

そのため、チュートリアル神官(仮称)に「私以外に人いないんだけど」と愚痴った所なんか仲良くなることができてしまった。


 そして会話する相手がチュートリアル神官しか居なかったこともあり、話を続けていくと――なんかいい感じの関係に高速発展した。

最初の内はチュートリアル神官といい感じの関係を楽しんでいた(コメントは困惑していた)のだが、コメントが『NPCハーレムいけんじゃね』と盛り上がったので逆ハーレムを作ることに決めたのだ。断じて私がやろうとか考え出したのではない。コメントが悪いよコメントがー。


 そんなこんなで道具屋の一人息子とか若町長とか手当たり次第にイケメンを落としまくっていたのだ。ちなみにめぼしいNPC男性もいなくなったのでNPC女性も落とし始めたため私を争うNPCの絵面が結構地獄になっている。


『これ何ゲーだよ』

『恋愛ゲー……?』

『NPC落ちるの早すぎだろなろうかよ』


 正直、NPCがめっちゃ簡単に落ちるなーという感覚は確かに抱いた。何故なのかはよく分からないけれど。

なんだろ、一人しかいないから恋愛ゲー楽しんでくださいねっていう運営のお遊びかな?


「よし、じゃあまた一人新しいNPCをハーレムに――!?」


 その時だった。

私には見えた。まるで「人気って聞いてたのにとんでもない過疎ゲーに来てしまった……」というような動きでうろちょろする、妙に人間味のある動きが。

間違いない。あれは――新規プレイヤーだ!


「うおおおおおおおおお新規っ!」


「ひいいいっ!?」


 私はダッシュで新規プレイヤーと思しき人に近寄る。


「どうも新規プレイヤーさん私はイドラ略してイドラちゃんと呼んでください」


「は、はいぃ!?」


 相手は困惑しているようだが、その程度で怖気づく私ではない。

なんとかNWを始める為にパーティ申請を受け入れてもらわねばならないのだ。私は必死でつらつらと現状を述べた。


「お兄ちゃ――いえお姉ちゃんはTorかVPNを使った結果この過疎鯖に飛ばされた、そうでしょう?実は私もその内の一人なんです。まあこう見えて結構というかかなり困ってまして。チュートリアルクエスト。お姉ちゃんも受けましたよね?実はそれ最後の最後のクエストがパーティを組む必要があって。それでパーティって二人以上いないと組めないクソ仕様なんですよ。だから一緒にパーティを組んで欲しいなって思ってるんです。え、なんですかその何言ってるかよく分からないみたいな顔は。私だってなんかゲームやってたらハーレムできちゃうしですごい困ってるんです。お姉ちゃんだってファンタジーなアクションRPGだー!って思ってゲームの世界に飛び込んだら実は恋愛ゲームでしたー、なんてされたら困るでしょう?私は困りました。だからお姉ちゃんにもそうなって欲しくないんです。というわけでパーティに入ってください。ね?」


「は、はいぃ……」


 相手の顔に涙が浮かぶ。

……私、また何かやっちゃいました?


『てめぇの早口が原因だろうがタコ』

『なろうやめろノー哲』


 クソ。なんかちょくちょく心の声が漏れてる。

なんだこれは。


「そ、それで……どうしたら開放してくれますか?」


「そんな誘拐みたいに……人聞きが悪い。一緒にクエスト受けましょう?」


 私は笑顔で新規プレイヤーに迫る。

相手の顔の深刻さがもっと酷いものになる。


「お手柔らかにお願いします……」


 パーティ申請は受理された。やったね!



 *



「そういえば聞いてなかったけど、お姉ちゃんって邪神ニャルって言うんですね」


「……あ、ああ。そうだが?」


 私は二人でダンジョンに入ってから、その奇怪さ溢れるプレイヤーネームについて突っ込んだ。いや本来は突っ込むべき所ではなかった気がするのだが、まあバーチャル美少女だ。折角ゲストがやってきているのだからそのゲストに話を振らなければならない。

……うーん。でもなんかこの名前、どっかで聞いたことあるような気がするんだよね。


「我が名はニャル。この世界を滅ぼしに来た邪神だ。夜に吠えるものと呼んでもらっても構わない」


 痛ってぇなぁ……。

なんだろ、新手のRP(ロールプレイヤー)かな?まあ実質RP的なところあるバーチャル美少女やってる奴が言えることじゃないけど。


「この世界……お姉ちゃん、それってNWのことですか?」


「うんにゃ、滅ぼすのは現実世界だ。そして今我は人間共の酔狂な娯楽とやらを試しにこの世界には来たのだ。あとお姉ちゃんという呼び方はやめろ。我は貴様の姉ではない」


 ほえー。

まあそういう設定がちゃんとしてるRPは好きですよ。でもなんかそんなのやってる暇あんのか、って話だけど。


「っと、敵だ!構えを!」


「はい!お姉ちゃん!」


 軽く20cm程は身長に違いのあるニャルさんと肩を並べる。

半ば無理矢理パーティに誘ったニャルさんだが、まあなんだかんだで仲良くなれた気がする。気のせいかな。というかCちゃんからめっちゃボイスチャットのコールが飛んできてるんだけど。何かあったんだろうか。

でもまあ今ちょっと忙しいからいっか。


 さて、私達の目の前に現れたのはなんか可愛らしい丸っこい跳ねる物体だ。丸い目が二つと口が一つ。こいつをNWのマスコットキャラクターにしてやろうという運営の思考が手に取るように分かる。大概のゲームってこういう奴いるよね。


 私はその動きに和んでいるニャルさんを尻目に『ロウラビ』と名前が表示されている敵に向かって駆け出した。


 私の職業はバードだ。なんか自作の音楽で味方にバフをかけられるらしいが、味方が使い物にならない以上仕方あるまい。

私はハープを左手に構えて右手でロウラビを殴った。


 そんな私に向かって襲いかかる残る三匹のロウラビ。

ニャルさんが慌ててヘイトを取るスキルを使ったのが見えたが、もう遅い。

とはいえ、この程度の攻撃を回避できないのではゲーマーの名が廃る。

華麗に一回転して全ての突進攻撃を躱し、先程吹き飛ばしたロウラビを捕まえてハープの弦を使ってすりおろす。これで一匹撃破だ。


 少し危ないところだったがなんとかなった。他の三匹は既にニャルさんに注意を惹かれてるし、この戦闘はもう勝ったな。


「ハープブーメラン!」


 左手で投げたハープのブーメラン(帰ってこない)が放物線を描いてイドラさんにたかっていたロウラビの一匹をポリゴンにして消し去る。


 そのままの勢いで私はロウラビを蹴飛ばし、裏拳でもう一匹のロウラビを吹き飛ばした。


「ふっ」


「つ、強いな……イドラは」


「訓練してましたから」


 一応これでも私は某雪ゲーの全一だ。何も誇れるものではないけれど。

まあ正直言って私のVRゲームの腕前は中の上くらいだろう。私より上手いプレイヤーなんてごまんといる。


「そうか……。せいっ」


 ニャルさんがえっちら動いて盾でロウラビを殴ってポリゴンにする。


「それではどんどん潜っていきましょう」


「ああ」



 *



「へ、へぇ。この群衆は全て貴様の恋人なのか」


「そうなんですよーなんか妙に人に惚れられちゃう体質っていうかそういうのになっちゃって。ほんと妙なんですけどね。まあこれも私の出すベリすご妹オーラの成せる技だと思ってるんです。それにしてもこのゲームのNPCって人間味ありますよね。そう考えるとこのゲームって色々凄いですよ本当に。なんというか他のVRゲームより数世代先のゲームっていうか。そう思いません?ちょくちょく別の人の配信とか見てるんですけど、あそういえば私バーチャル美少女やってるんです。プレイヤーネームとまんま同じで“イドラ”って名前なんですけどよければ是非見てってくださいね!あの私今これ配信してまして多分動画にもすると思うんですけど」


「そ、そうか……。あ、そういえば我――」


「あ、始まりの街で分からないことがあったらなんでも聞いてくださいね!私的にはおすすめスポットは恋人3号から教えてもらった丘の上から見下ろす夕日なんですけど、今から行きます?」


「……いや、それはいいかな。さっきからNPCの皆が我の事を殺気の篭った目で見つめてくるのもあるし」


「そうですかーそれは残念ですね。あ、そろそろ配信が終わる時間なので落ちても良いでしょうかすみません」


『マシンガントークやめろ』

『ニャルちゃん困ってるだろ!!!!!111』

『話遮んなノー哲』


 なんかコメントで私がボロクソに言われているがとりあえずそれは無視だ。

それになんかニャルさんが一部の愛が重いNPCから殺意を向けられてるらしいけど、それも無視だ。

まあ確かに惚れた人が何かよく分からない新参者にデレデレしてるんだし、そりゃ殺意向けるわっていう感じはあるんだけど。


「もう落ちるのか?別に構わないが。……あぁ、落ちる前に少しだけ話しても良いか?」


「どうぞ?」


 なぜ急に改まって。なんだろ、一度改まって「話していいですか」とか言わないと集団とかタイマンの話の中で話せないタイプの人なのかな。いるよねーそういう人。いや私も昔はそうだったんだけどね。まあ人は変わるんですよ。あ、そういえばこの人の名前ってどっかで聞き覚えがあるんだけど。うーん、思い出せない。


「我もバーチャル美少女をやっていてな。邪神ニャルの世界征服チャンネルだ。もし良かったらチャンネル登録を頼む」


 ……あそうだ。思い出した。

五新星だ。この先中堅バーチャル美少女と肩を並べるとも言われている大注目の六人のバーチャル美少女。その一人に――邪神ニャル。その名前があった気が……する。


 ……まずい。私、ニャルさんをただのRPだと思って割とヤバい言動しかしてないんだけど。


「あ、ちなみにこの様子もイドラと同じで放送していてな。この後も続ける予定だからできれば見に来て欲しいぞ」


 えっ。


【この配信は終了しました】



【第四回】おはようイドラ【未知との遭遇ET】

16,647 回視聴


イドラ

チャンネル登録者数 2,132人

 自分が知っていることを相手に教えること。

 それは何事にも代え難い快感だ。

 しかし、やりすぎには注意が必要である。

 正確な知識を得ることは良いことだが、知識をひけらかすことは勝手だ。

 知識を教えられる相手はそれを本当に欲しているのか、ゆめゆめ忘れなきよう。


10 件のコメント▽

 邪神ニャル

  あわや企画倒れだった所を救って貰い本当に助かったぞ!

  哲学系バーチャル美少女、か。

  中々面白いではないか!また次に会った時はよろしく頼むぞ!

 ▲ 230

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