【恐怖体験】深層Webで見つかったゲーム
「……イーちゃん、本当にやめて。それは危険」
Cちゃんから私は忠告を受ける。
いや、でも私はこれをやるしかないんだ。
「……ごめんね」
……私が、今回実況しようと思っているゲームは深層Webで見つかった謎のゲームだ。
正直、何が起こるかは本当に分からない。
一体どんなウィルスが仕込まれているか分からないし、痛覚リミッターだって勝手に解除されている可能性だってある。
だけど、私はこのゲームを遊ばなくちゃいけないんだ。
【準備中……】
【準備完了!】
「お兄ちゃん思う、ゆ縺医↓繧上◆縺励≠繧」
私の声が唐突に何かよく分からない雑音に書き換えられる。流石深層Webで見つかったゲーム、ヤバい感じしかしない。
『ふぁむ、大丈夫か?』
『音声酷いことになってるけど』
『ふぁむ』
コメントも私を心配してくれている。
とはいえ、どうやら映像まではバグってないみたいだ。良かった。
だけど音バグが酷いのはどうにかしないといけない。でもどうしよこれ。
「縺医▲繝槭ジ?ちょっと皆音のチェックして欲しいんだけど」
『大丈夫ですよー^^』
『私の所ではちゃんと聞こえてます!』
『えっ気付かなかった……』
『気にならないレベル』
「囲いやめ繝繝」
流石にどうしようもないので私はCちゃんにヘルプを要請した。
『なんとかならないですかねこのノイ医』
『やめた方が良いっていう虫の知らせに違いない……と思う。別ゲーやって』
『縺?d縲√願い。やらなくちゃいけないの私は』
『…………分かった。VR機器内蔵のマイクじゃなかったら大丈夫の筈だから。ヘッドセットか何かを付ければ良いと思う。でも危なくなったらやめること、いい?』
『縺昴l縺ッ辟。逅?↑逶ク隲?°縺ェ』
そういうことになった。
暫くして。顔にマイクをテープで貼り付けた。
よっしゃこれなら大丈夫でしょ。
どう?聞こえる?
『バッチグー』
『聞こえる聞こえる』
よっしゃ。じゃあゲームの説明するね。
まあ説明っていってももう既に察してるお兄ちゃんもいるかもしれないけど。
このゲームは『saddish beelzebub』。深層Webで見つかったゲームらしいです。
本来ならこのゲームを実況するときはウイルスとかそういうのを諸々抜き去ったクリーン版ってやつを使います。が、私は……あーえっと……うん。ぶっちゃけると人気が欲しいので!ウイルスとか諸々が入っているオリジナル版をプレイします!
ちなみに今私が使っているVR機器は型落ちで処分しようと思ってた奴なので何も問題はありません。ね?
『大アリだろ』
『体には気をつけてね?』
『このゲームはマジで洒落にならんからやめろ』
「マジで洒落にならないからやってるんですよ!じゃあ早速スタートです!」
やばいゲーム、というのもあって私はいつもよりテンションが上がっている。
……いや、もしかしてこれが既にウイルスなのか?
VRゲームに混入しているウイルスは本当にネタにはできないものだ。個人情報が盗み出されたり、VR機器が起動不可能になる程度ならまだまだ甘い。最悪感情を操られたり現実の身体を操られたりもする。
じゃあなんでオリジナル版選んだんだよ、って話にはなるのだけれど。
まずクリーン版じゃつまらない。まあこれは分かってもらえると思う。
そして、オリジナル版は割とマジで危ないらしい。だからオリジナル版を遊んだバーチャル美少女――いやバーチャル美少女に限らず大元の奴を遊んだプレイヤーは全く居ない。
だからオリジナル版をプレイした、それは英傑と呼ばれても差し支えない――というかそう呼ばれて当然の行為だ。
そしてそのことが広まれば私の人気は鰻登り。チャンネル登録者数も増えて一気に人気になる筈だ。
……まあ、結局は新作ゲームに飛びつく実況者とやってることは変わらないけど。
ちなみに画面には色々と危険なもの――それこそBinitubeでは即BANくらいそうなものがちょくちょく移りかねないので、常に全面モザイクをかけている。これでもBANされたらどうしようねほんと。
ま、その時はその時か。
……一応Cちゃんにモザイク濃くしてもらおう。流石にBANはちょっと怖い。
「じゃあ早速プレイしてみたいと思います!」
『めっちゃ雑音入ってて草』
『音質クソすぎでしょwww』
『やめたら配信?』
うっせ。旧型のめちゃ安いマイクだったから仕方ないでしょ。
こんなことになるとは思わなかったんだし。
はいゲームスタートボタンをポチッとな。
『そういやノー哲ってホラー大丈夫なの?』
「……あっ」
まずい。
私、結構ホラー普通に怖がるタイプだった。
やべぇ、どうしよう。
そうこうしている間にロード画面が絶望のカウントダウンを刻む。
というかロード画面あるんすね。
……いや、まあこのゲームホラーエンジン使ってるからしょうがないけどさ。深層Webっぽくはないよね。
さて。ゲームが始まった。
「ああああああ暗い暗い怖いいいいいいいい」
『うるせぇ!』
『うっさ』
『音 割 れ イ ド ラ』
おおよそゲームとは全く思えないようなレンダリング、そしてこれまたホラゲーとは思えないようなプレイする人への配慮を欠かしたアホみたいな暗さ。
手にはランタンを持ってはいるが、それは光源としては何一つ意味を成していなかった。
しっかしやばいね。深層Web産、という肩書きが付いているからだろうか。怖さが半端ない。
というか動きたくないわ。もうやめていいですか?
『いいよ』
『しゃあない』
『残念でもないし当然。saddish beelzebubらしい最期と言える』
えっリスナーがこんなに優しいなんて。どうした、雪でも降った?
……なんかそこまでやめていいよって言われると逆にやる気が起きてきた。軽くクリアしてみるか。
意を決して進み出した私に『止まれ』だの『動くんじゃねぇぞ……』だの散々なコメントが届くが、私はもう止まらない。止まれない。制御不能。
ふふふ。
『おいちょっとヤバくねぇか?』
『精神乗っ取られてますねこれは』
いやいや全然ヤバくないですよ。
普通普通。いつもの私です。
さて、狭い一本道を前に進むと唐突なグロ画像と共に何かしらのBGMが流れ始めた。
「きゃああああ!?」
そういうビックリマジでやめてほんと!
死ぬから私!死ぬ!
後BGM怖いし!なんなんこれ!?
あぁもううるさい!
えぇ!?なめみななみなみしゃ!?
何言ってんの!
『遂に逆ギレ始めて草』
『おっ大丈夫か大丈夫か』
……。
…………。
いや、冷静になってみれば怖くないね全然。
これ、BGMただの逆再生でしょ。なんか逆再生特有のシュイーンって音が上がる……というか戻る?感じあるし。
うん怖くない怖くない。さっさと進も。
『テンションの差が激しすぎる』
『やべーな』
私は鼻歌を歌い、スキップしながら狭い通路を一心不乱に前へ進む。
楽しくなってきた。
*
あーくそー!
もうほんと無理!
いつグロ画像が襲ってくるか分からんしBGMはなんか怖いしちょくちょく入る声はうるさいし!
『怖くない』
『大丈夫』
『前に進んで』
くっそー、コメントもこう言ってるしなー。
いつもいつも暴言ばっかり吐きやがって。今日と言う今日は絶対見返しちゃるけんね!
私は開けた空間を探る。
なんかちょくちょく狭い一本道に飛ばされたりはするが、スタートした直後から基本的に私はここに居た。まあ狭い道よりかはマシでしょ。狭い一本道とかずっといたら気が狂うわ。
……おっ?何これ?
うーん……縄?というか縄の切れ端?
なんだろ。まあとりあえず拾ってみるか。
【閾ェ谿コ を手に入れました】
【1/10】
うへぇ。
そういうタイプかよ。スレンディーマン式の奴かー。これあれでしょ?何かこう手に入れた瞬間から何か襲ってくるとかさぁ。
……ま、しょうがないか。
集めるしかないでしょ。頑張るね。
*
『ちょ……大丈夫か?マジで』
『完全なる放送事故で草』
『草生やしてる場合じゃないんだよなぁ……』
えぇ?そんなおかしなことしてるかな私?
『おかしいに決まってんだろ』
『やっぱ乗っ取られたか』
『駄目みたいですね……』
いやいやおかしくないよ。
だって進んでるだけだよ?もしかしたらこの狭い一本の道の先に何かがあるかもしれない――そう思ってさ。
『いや、でもスキップしながらずっと壁に体当たりしてんのは……』
『ノー哲本当に大丈夫か?』
『Cちゃん呼んだ方が良いんじゃね』
あ、Cちゃんは呼んだら駄目。つまらなくなるし。
『でもお前ずっと前の壁に体当たりしてるだけじゃん』
『放送クソつまんねぇぞ』
とにかく駄目。分かった?
少なくとも、この放送見に来てる時点で同罪なんだから。
『は?』
『???』
『怪電波浴びせられたか……』
*
【豌ク驕?縺ョ闍ヲ逞 を手に入れました】
【9/10】
ふぃー。
グロ画像が飛んでくる頻度は上がったけど、何か変なのに追いかけられるとかそういうのは無くて助かったわ。
というかほんとリスナーさんのおかげですよ。皆が居なかったらこんなアイテム集められませんでしたし。
『良かったね』
『最後のアイテムはイドラの後ろの方にある』
『部屋の中央』
うぃっすー。
取りに行きまっす。
なんでリスナーがこんなに察しが良いのかはよく分からんけど、まあゲームやってたんでしょ多分。
コメントの指示通り広い部屋の中央に向かうと確かに縄の切れ端っぽいアイテムが落ちていた。これで終わりかぁ。まあまあ長かったな。
私は最後のアイテムを拾う。
【譛?鬮倥?蟷ク縺帙r雍医j縺セ縺 を手に入れました】
【10/10】
【完成しました】
瞬間、これまで持っていた縄の切れ端が地味に光って空中に集まり始めた。
おぉ、この形は……なるほど、首吊る時のあの縄か。
ご丁寧に何か床から椅子もせり上がってきたしな。それで間違いないだろう。
で、この後どうすんの?
『吊って』
なるほどなぁ。
しょうがない、やるしかないかぁ。
*
『うおっビックリした』
『ビビるわぁ!』
『なんだなんだ』
わっ。何か急に目の前の壁が壊れたぞ?
これは幸運ですね。進もう進もう。
『進むんかーい』
『いや進むなよ……』
進んだ先は開けた部屋だった。
私はスキップしながらまっすぐ部屋を直進する。
……っと。ここで止まらなくちゃね。私は部屋の中央辺りで止まった。
『どうした?』
『意識戻ったか?』
ううん。人気を求めた哀れな配信者のショーがここで開かれるんですよ。
ほら、見えるでしょう?
目の前には椅子の上に立った、私と全く同じ姿をした人が首吊り縄に頭を突っ込んでいる。後は私が椅子を蹴飛ばすだけだ。
『は?』
『え、何これ演出?』
『ガチじゃね?』
私は笑顔を浮かべる。
そのまま椅子の方に近づいて――。
「ちょっと待ったぁ!」
「……?」
私は声のする方を見る。するとそこには、若干光り輝く人?っぽい姿があった。
「ねぇイドラちゃん、どうして人気になりたいの?」
「決まってますよ。そりゃあ子供の時に――」
「あなたには聞いてない。それに、それが本当の理由じゃないし」
私の口は光り輝く人っぽいものから手で遮られる。
『どういうこっちゃ』
『何がなんだか……』
『これは俺の私見になるが、多分このゲームを始めた時点でイドラは二人に分かれた。一本道にいるイドラと広い部屋にいたイドラだ。そして多分広い部屋にいたイドラ――今首を吊ろうとしている、が本物のイドラ。今俺たちが見ているイドラは何かに精神を乗っ取られたかそういう類のことをされた別のなにかに違いない。そしてその自殺を止めようとする何かが現れた。それが何なのかは分からないが、少なくともそれが俺達の味方側であろうことは明白だ』
「イドラちゃん。どうして?」
「……言いたくないです」
首つり縄に頭を入れていたイドラはそう言う。
「……分かった。事情は聞かない。でもねイドラちゃん、人気が欲しいからって無闇に危険なゲームに手を出しちゃ駄目だよ?」
「……はい」
虚ろな目でイドラは呟く。
私はそれを黙って見ているしかなかった。どうしてだろう。それは分からない。
「……うん、時間稼ぎはこの辺で良かったかな。残念だったね、悪魔さん」
光る人っぽいものはイドラの頭を首つり縄の外へ押し出しながらそう言う。
時間稼ぎ?どういうこと?
このゲームに囚われた時点で生還する方法なんて――。
「……あなたの名前は?」
考える私をよそにイドラはそう尋ねる。
「言えない。けど……そうだね、突然変異を起こした人工知能――ってとこかな。あっ時間が……ごめん!じゃあね!」
慌てた様子を見せて、その光り輝く人は消えた。
……なんだったんだろう、今のは。
まいいや。イドラちゃーん!吊ってー!
イドラは頷いて、首吊り縄に手をかけて――。
*
私はその声に頷いて、縄に手をかけた。
そして。
「イドラちゃん!」
「わっ!?」
突如私の体が押される感覚。そして私は頭をVR機器ごとしたたかに机の角に打ち付けた。
「し、Cちゃん!?どうしたの!?」
「どうしたもこうしたもない!こんな、こんな……自殺までしそうになって……っ!」
私はCちゃんにぶたれた。Cちゃんは少し涙目で息が荒い。多分ここまで走ってきたんだろう。
「イドラ!次は二度とこんな危ないゲームはしないで!」
「…………」
いやうん。
なんかさ、凄い感動シーン?っていうかシリアスなシーンみたくなってるよね。なってるよね?
ごめん、当事者の私全く意味が分かってないです。
え、え?私なんかしたの?
「なんかしたの?じゃない!イドラ、これ見て何も思わないの!?」
えっと……。
椅子と首吊り縄と……自殺セットですね。はい。
え、これ私が準備したの?マジ?
「……はぁ。もしかして何も覚えてない?」
「多分……」
Cちゃんは頭を抱えた。
いやでもこんな自殺セットを無意識に用意するとは……というかVR機器ぶっ壊れてんじゃん!勿体なっ!
「あなたの命の方が大事」
……うんまあ、なんとなく理解したわ。
というか思い出したわ。確か私、深層Web発のゲームやろうとしてたんだよね。多分。で、気がついたらこうなったってことは――。
お、もう何が起こったか分かったぞ。
「すみませんでしたー!」
私は土下座した。
【配信は終了しました】
【恐怖体験】深層Webで見つかった謎のゲーム【ガチ心霊(?)現象】
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イドラ
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多分ですが。
この配信の顛末についてCちゃんから教えて頂きました。
その後私の記憶はある程度戻ったのですが、私の記憶にあるゲーム内容と配信に写っていた内容が全く違ったんですよね。
私は縄の切れ端?みたいなアイテムを集めていた記憶があったんですが。
あの、どなたかその配信を視聴した方って居ませんか?
1 件のコメント▽
謔ェ
縺雁燕繧定ヲ九※縺?k縺